こんにちは。相続コンサルタントの馬渕です。
実家や親族が都市部(三大都市圏など)で農業を営んでおり、その土地が「生産緑地」に指定されている場合、将来の相続についてどのくらいイメージができているでしょうか。

「いつかは引き継ぐのだろうけれど、普通の土地と何が違うの?」 「農業を継がないと、ものすごい税金がかかるって本当?」

そんな不安や疑問を抱えている方は少なくありません。生産緑地は、固定資産税が安くなるなどの大きなメリットがある反面、相続の際には非常に複雑なルールと重い縛りが発生してしまいます。

本コラムでは、将来慌てないために、生産緑地の相続におけるおさえるべきポイントと注意点を分かりやすく解説します。

埼玉県における生産緑地の実態

埼玉県にある生産緑地はどのくらいの広さがあるか、ご存じですか?

全体でおおよそ「1,397ha(ヘクタール)」あるそうです。(埼玉県HPより参照)これは東京ドーム約350個分で、全国で第4位の規模になるそうです。

実はそれだけ広大な土地を保有している方がいらっしゃるということです。

埼玉県は、都心部に近い立地でありながらも、都心部に近い南部と北部とではまた農地の広がり方もだいぶ異なる情景となっています。また、市街化区域にある生産緑地と通常の農地が混在していることも埼玉県の特徴であるとも言えます。

生産緑地は通常の農地とも異なるルールがあり、農地と同じだと考えていると非常に痛い目にあいます。埼玉県は、農地と生産緑地が隣接していることから、隣り合う農地であっても、通常の農地と生産緑地のルールが異なることから生じる、誤解も多いためこの機会に是非一度しくみを勉強してみてはいかがでしょう。


 【基礎知識】そもそも「生産緑地」とは?

一言で言えば「都市部に緑を残すために、国から指定を受けた農地」のことです。

遡れば、高度経済成長期に都市化が進み、都市部の農地をつぶしてたくさんの住宅が供給されるようになりました。その結果、住環境の悪化や水害などの都市災害が多発したこともあり、「都市部にも最低限の緑を残した方がいいですね」ということで生産緑地法が作られました。

本来、都市部(市街化区域)にある土地は「いつか家を建てるための場所(宅地)」とみなされ、高い税金が課されます。しかし、街の環境を守るため、また災害時の避難場所を確保するために、「ここを農地として維持してくれるなら、税金を大幅に安くしますよ」と特例を設けたのが生産緑地制度です。

生産緑地に指定されると、主に以下の2つの強力な税制優遇を受けられます。

  • 固定資産税が安くなる: 宅地並みの高い税金ではなく、一般の農地と同じ(数十分の一から百分の一程度)の非常に安い税金となります
  • 相続税の「納税猶予」が使える: 相続時にかかる相続税の支払いを、農業を続けることを条件に「国が猶予」してくれます

ただし、この恩恵を受ける代わりに建築の制限など厳しい制約があります。このことは、土地を引き継ぐお子様世代やさらにその先にも影響がある大きな課題ですので、今後生産緑地をどうしていくべきか、早めに家族で話し合うことが必須といえます。


「生産緑地の2022年問題」の次を考える

生産緑地法は、1992年(平成4年)に大規模な法改正が行われ、市街化区域の多くの農地が一斉に生産緑地の指定を受けたため、その30年後である「2022年」に営農義務の期限を迎えることになりました。

その為、一斉に生産緑地の指定が解除され、大量の土地が市場に流通し不動産価格が下落するのではないか?と懸念されました。それが「生産緑地の2022年問題」で、少し前にいろいろと話題にもなりましたね。

期限を迎えた生産緑地は、農業をやめて売りに出すことが可能になりますが、国は農地を維持してもらうために「特定生産緑地制度」を作りました。

これは、期限が来たらさらに10年間、税制優遇措置と売買建築等の制限を延長できるという仕組みです。現在の生産緑地の約9割以上が、この「特定生産緑地」の指定を受けていますが、指定年月日によってはこれから順次期限を迎えたり、あえて指定を受けなかった土地も存在しています。

令和7年の農業統計データによると、全国の農業従事者の平均年齢はなんと約67.7歳だそうです。65歳以上の高齢層が全体の69.6%でほぼ7割を超えていて、ボリュームゾーンは70歳~79歳(39.1%)で、高齢化が進んでいることは顕著と言えます。

2022年に特定生産緑地に指定された場合、10年後の次の期限がくる2032年には多くの農業従事者の方が80代近くなることになります。2022年に期限を迎えた際には「68歳。まだ現役で農業はできるぞ。まだまだ大丈夫。」と思い10年延長した方も、10年後の78歳では肉体的な負担も大きいことと存じます。

実際に2022年には、多くの生産緑地が宅地化され土地価格が暴落するのでは?なんて予想され「2022年問題」とまで言われていましたが、特定生産緑地に切り替えた割合が89.3%で約9割の土地がそのまま特定生産緑地として継続しました。蓋を開けてみると、予想よりも農業を継続する選択をした方が多かったのです。

しかしながら、前述の通り次の期限の2032年には、農業を続けてこられた方々が80歳を超えてきます。そして、その子供世代の多くもサラリーマン世代で農業には一切かかわってこなかったというご家族が多いのが実態です。

結果として、2022年問題ならぬ「2032年問題」もすぐ間近に迫ってきているといえます。だからこそ、早め早めに家族での対策が必要です。


生産緑地の相続で注意すべき3つのポイント

では、実際に生産緑地を相続する可能性のある人が、絶対に知っておくべき注意点を3つ確認していきたいと思います。


「特定生産緑地」に指定されているか?

保有している生産緑地が「特定生産緑地」の指定を受けているかどうかにより今後の税金が変わるしくみになっています。前述の通り、最初の指定から30年を経過したタイミングで「特定生産緑地」とするか否かの判断をしています。

もし指定を受けないまま30年の期限を迎えている場合、これまで生産緑地として受けていた「固定資産税」や「相続税」に対する優遇が受けられなくなります。


相続税の「納税猶予」は、農業を「終身」続けることが条件

生産緑地であることで得られる優遇がある一方で、優遇を受ける場合に設けられる厳しい条件は、相続した子供世代や孫世代を悩ませることになります。

確かに、納税猶予を使えば該当生産緑地の相続税のほとんどが猶予され相続時の負担はかなり低くなるメリットがあります。しかしながら、その相続した者が原則死亡するまで、その土地で農業を行うことが条件となっているのです。

仮に、その相続した者が、体力的に・経済的に農業を継続することが困難となり、廃業することになったり、土地を売却しようと思った場合、その時点で猶予されていた相続税と過去にさかのぼった分の利子税を含めて納付しなくてはなりません。

この先一生農業を継続できるか?なんて、確約できるものでもなく、心理的な負担もかなり大きい制度とも言えます。



農業を継がない場合、相続税は宅地並みに。土地を「残す」ことができるか?

もし相続時に、お子様が農業を継がないと決断をしたとしましょう。その場合、生産緑地の納税猶予は使えなくなるため、生産緑地にかかる相続税を通常通り納付する必要があります。

その場合に支払う相続税は、農地としての評価でなく、「宅地」と同様の評価(一般的に、国税庁が毎年決定する「路線価」×「地積(土地の面積)」にて算出します)を行うため、相続税の負担はかなり大きくなります。さいたま市などの都市部の場合、路線価も高く評価され、かつ広大な土地であるため、宅地としての評価額は高額となり、相続税の負担は計り知れません。

その為、相続税をどのように捻出するかという課題にぶつかります。その結果、充分な現金を保有していなければ、生産緑地の一部や全部を売却して、納税資金に充てるということにもなりかねません。そして、多くの方がそのような選択に迫られていることも事実です。

このように、生産緑地の相続には通常の土地の相続とは異なる、さまざまな注意点があります。

親世代が生きているうちにお子様世代と「生産緑地をどう出口に導くべきか」を話し合っておく必要があります。相続が起きてから、突然高額な納税義務を負うという不安の中で、これだけの重要な判断をすることは本当に大変なことです。


【現状把握】わが家の生産緑地はどうなっている?3つの調査ステップ

将来の対策を立てるためには、まず「いま、その土地がどういう状態にあるのか」を正確に把握する必要があります。以下の3つのステップで調査を行いましょう。


ステップ①:役所の「農業委員会」や「都市計画課」で指定状況を確認する

まずは、その土地がいつ生産緑地に指定され、現在どのような扱いになっているかを確認します。 役所の窓口(またはオンラインの都市計画情報システムなど)で、対象の地番を伝え、以下の2点を確認することができます。

  • 生産緑地の指定年月日(いつ30年の期限を迎えたか、あるいは迎えるか)
  • 「特定生産緑地」の指定を受けているかどうか

ステップ②:土地の「登記簿(登記事項証明書)」を取得する

法務局(またはインターネットの登記情報提供サービス)で、その土地の登記簿を取り、特に「乙区(所有権以外の権利に関する事項)」を確認します。

  • 税務署の「抵当権」がついているか: 相続税の納税猶予を受けている場合、国が担保として抵当権を設定しています。
  • 過去の抵当権に「下線」が引かれて消えているか: もし祖父の代などの古い抵当権が抹消されている場合、その世代の納税猶予は「営農20年クリア」や「次の世代への引き継ぎ」によって完全に免除(リセット)されていることを意味します。これが消えていると、過去の分の税金ペナルティを恐れる必要がなくなるため、非常に有利です。

 

ステップ③:「相続税申告書の控え」を探す

お父様が祖父から土地を相続した際、いくらの相続税を猶予されているのか(現在進行形で背負っている税金はいくらか)を確認します。 過去の相続税申告書のなかに「農地等についての相続税の納税猶予の適用を受ける明細書」という書類があれば、そこに猶予されている具体的な税額が記載されています。

また、税務署へ問合せをしてみると、納税猶予の額や現在の利子税の負担金などを教えてくれる場合もあります。

これらの情報を集め、正しい状況を家族全員で理解することがまずは重要です。



まとめ:現状を把握し、早めに今後の出口戦略を 

生産緑地については、通常の宅地等の相続対策とは、まったくアプローチが異なります。

いわゆる相続税上の評価額を下げるという対策は、永続的に農業をしてかなければならないという縛りが設けられているからです。

但し、生産緑地に指定された時期などによりすでに納税猶予が免除されている方もいたり、ご状況によってできる対策も異なってきます。

その為、まずはご自身のお土地の正確な現状把握・調査を行うことを是非進めてみてほしいと思います。「生産緑地の相続=税金負担がたいへん」というイメージを持たれがちですが、正しく現状を調査し、いつ生産緑地に指定されたのか、過去の税金がクリアされているか、特定生産緑地になっているか等をひとつずつ確認していくことが重要です。

現状把握ができたら、将来に向けての出口戦略をご家族で話し合っていただければと思います。お子様世代が「農業を継ぐ意思があるか・ないか」によって、今後対策すべき方法などもことなってきます。できれば専門家を交えて、ご家族の方針について早めに相談をしてみることをおすすめしております。

さいたま幸せ相続相談センターでは、そのような生産緑地をお持ちの地主様のサポートなども行っておりますので、お気軽にご相談ください。


監修:CLOVER法律事務所 中島一郎 弁護士