皆さんこんにちは。相続コンサルタントの久保田です。

相続財産の中に不動産がある場合、遺言書や遺産分割協議によって、どなたかの名義に変更する相続登記をすることになりますが、例えば自宅が賃貸で、賃貸借契約書に借主としてサインした方が亡くなった場合、残された家族が住み続けることができるか、ご存知でしょうか?

結論から申し上げると、土地や建物の賃貸借契約書で設定された「賃借権」は相続財産となり、その賃借権を相続することで残された家族はその不動産に住み続けられます。

今回は、賃貸借契約の借主が亡くなった場合をいくつかのパターンに分けて、必要な手続きを説明してみます。

土地賃貸借契約の場合

土地賃貸借契約は、いわゆる借地契約といわれる賃貸借契約で、借主には「借地権」という権利が設定されます。
これまで相続税申告の財産評価のコラムでも記載したことがありますが、借地権は相続財産として相続税評価を行うような相続財産です。

一般的に、土地に賃借権を登記することは稀ですが、土地上に被相続人名義の建物登記があり、適正な地代を土地所有者(地主)へ支払っていることで、土地の賃借権を持っていると判断できます。

建物に関しては、令和6年4月1日から相続登記が義務化されたため、今後ほとんどの方が建物の相続登記をすることになりますが、土地に関しては賃借権の登記をしていないことが多いため、登記手続きは必要ありませんが、借地契約書の借主名義を書き換えることをお勧めします。

土地賃貸借契約の名義書換手続きは必須ではありませんが、古くからの借地契約では地主と借地人の関係性を基に成り立っている事が多く、今後も借地上の建物に住み続けるのであれば、地主に対して相続が発生したことを伝えて、名義を書き換えるための借地契約書を作成して、お互いに借地人が変更されたことを確認してください。

名義書換の借地契約書作成の際の注意点としては、従前の借地契約と地代や契約期間等の内容が変更されていないかを確認するようにしてください。

名義を書き換えるだけなので、基本的には地代は従前の借地契約と同額に、契約期間は従前の借地契約の残存期間を記載することになります。
いずれもお互いの協議によって変更することはできますが、特段の事情がなければ従前の借地契約と一致させたほうが、混乱が少なくなります。

ただ、昔からの借地契約の場合、従前の借地契約を更新したのが20年ほど前になることもあります。
借地契約書の内容は20年前から大きく変化していませんが、中には借地契約の更新や建物の増改築に関する事項が記載されていない借地契約書を見かけることもありますので、名義変更と同時に記載が漏れている事項を取り決めてもいいと思います。

建物賃貸借契約の場合

建物賃貸借契約の場合、基本的に土地にも建物にも賃借権が登記されていないため、相続登記は不要になります。

その一方で、賃貸借契約書の名義変更を漏らさずにしっかり対応していただくことをお勧めします。

建物賃貸借契約で設定される賃借権も相続財産のため、名義変更は必須ではありませんが、建物賃貸借契約書に「借主の死亡」が通知義務に該当する内容として定められているものもあります。

賃料を支払っていればいいとも考えられますが、貸主からすると借主の相続は、連絡先がわからなくなってしまうリスクや、賃料滞納リスクにも繋がりますので、できる限り早めに相続が発生したことを伝えて、賃貸借契約書の借主名義変更手続きをしたほうがお互いに安心できると思います。

また、最近の建物賃貸借契約では、連帯保証人ではなく保証会社を利用することが多くなっており、保証会社の借主変更手続きをも同時に行う必要があります。

特に賃料の支払い方法が保証会社からの口座引落の場合は、先に被相続人の口座が凍結してしまうと賃料の引き落としができず、滞納扱いになってしまう点に注意が必要です。

相続税申告が必要な場合は、被相続人名義の残高証明書を取得する段階で口座が凍結されることが多いため、並行して貸主や管理会社に相続が発生したことを伝えて、保証会社の賃料引き落とし口座の変更手続きを行っていただくことになります。

相続税申告が不要な場合は、通常、遺産分割協議後の口座解約手続き等で金融機関に連絡するまで口座が凍結されることはないと思いますが、賃料引き落とし口座が変更されるまで、被相続人の口座から賃料が引き落とされることになります。
そのような場合、遺産分割協議後の相続人での清算の際に相続発生時点と清算時点の口座残高が異なり、清算がスムーズに行えない可能性があります。

相続人が配偶者と子どもであれば大きな問題にはなりにくいのですが、配偶者と被相続人の兄弟姉妹での遺産分割では、清算がうまくできないと揉める火種になってしまいますので、このようなケースでは早めに賃料引き落とし口座変更手続きを行っておくことで、揉める危険性を回避しやすくなります。

また、相続が発生することで、家庭の収入が大きく変動することになりますので、建物賃貸借契約を解約することも考える必要があります。
相続を機に建物賃貸借契約を解約する場合の手続は、貸主や管理会社の規定によって少し異なりますが、建物賃貸借契約の名義書換まではせずに、解約の書面の借主欄に「借主相続人代表」といった肩書でサインして解約手続きを行うことが一般的かと思われます。

ちなみに、残された家族が相続放棄をする場合もあります。
前述したように、賃借権は相続財産に含まれるため、相続放棄をする場合に、相続人が賃貸借契約を解約してしまうと「相続財産の処分」を行ったとみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
また、相続放棄をする場合は、その不動産に住み続けられなくなりますので、早急に引越し先を探して、貸主や管理会社に対しては相続放棄を行う旨を伝えて、被相続人の財産を用いた賃料の支払や被相続人の物の処分をしないように注意してください。

土地や建物の賃貸借契約以外の注意点

土地賃貸借契約と建物賃貸借契約の借主が亡くなった場合の説明をしてきましたが、一番注意が必要なケースは、土地や建物の賃貸借契約が「使用貸借契約」の場合です。

使用貸借契約は、無償か固定資産税額程度の賃料を借主が支払う契約で、原則借主の死亡によって契約が終了します。

通常不動産を無償や固定資産税額で貸すことはなく、貸主と借主の関係性で成り立っている契約という位置付けのため、その借主が亡くなってしまうと退去せざるを得なくなります。

一般的に使用貸借契約は、両親や祖父母所有の土地上に子や孫が建物を建築する際に利用されることが多い契約ですが、稀に兄弟姉妹同士で締結されているケースがあります。
兄弟姉妹同士であれば借主が亡くなった場合でも、被相続人の配偶者や子どもが住み続けられるように使用貸借契約を継続することも考えられますが、当初の貸主が亡くなり子どもが貸主になった場合は、不動産を無償で貸すことに納得していないことも考えられますので、相続を機に立ち退きを求められるリスクもあります。

よほど特別な事情がない限り、新たに兄弟姉妹で使用貸借契約を締結することは考えにくいのですが、使用貸借契約は将来の相続によって関係性が悪化したり、想定していなかった賃料が発生することもありますので、当初から使用貸借契約ではなく賃料が発生する賃貸借契約などを締結しておく、相続が発生した後はすぐに引っ越せる準備をしておくといった対策をしておくことをお勧めします。

相続後にご家族が困らないよう、生前対策の一環として賃貸借契約の内容や、必要な手続きを共有しておくことも大切ですが、そのような準備ができていない中で大切なご家族がお亡くなりになってしまうと、冷静に賃貸借契約の内容を確認できる方も多くないと思いますので、お困りの際は当センターへご相談ください。

監修:CLOVER法律事務所 中島一郎弁護士