「夫が亡くなって相続税申告が必要だが、へそくりは自分のお金だから、相続税とは関係ない」多くの専業主婦の方がそう考えていますが、実は注意が必要です。

生前に夫の収入から少しずつ貯めてきたへそくりであっても、税務上は「名義預金」とみなされ、相続税の課税対象になる可能性があります。そこで、本記事では相続の際に押さえておきたい「へそくり名義預金」についてわかりやすく解説します。


専業主婦の「へそくり」が相続税の対象になるって本当?

専業主婦が夫の収入から妻名義の口座にお金を移し、コツコツとへそくりを貯蓄していた場合、原則として被相続人(夫)の相続財産になります。

専業主婦で自身の収入がない場合、へそくりの原資は「夫が働いて得た収入」です。そのため、口座名義を妻名義にしていたとしても、相続税時は相続財産に含むと解釈され、名義預金として扱われるため注意が必要です。本章では名義預金の判断基準や、共働き時のポイントを解説します。


名義預金と判断される4つの基準

税務署が名義預金かどうかを判断する際には、主に以下の3つの基準を基に判定しています。


1. 資金の出所(誰が稼いだお金か)

預金がどこから振り込まれ、誰の原資によって形成されたかを検証します。専業主婦名義の口座に、夫の給与振込口座や事業口座から定期的・断続的に資金が移動している場合、資金の原資は夫であると判断されやすくなります。現金の入金にも注意が必要です。


2. 管理・運用の実態(通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理していたか)

口座の所有権を行使していたのが誰かという点も重要です。

通帳や届出印、キャッシュカードなどを実際に所持し、自由に引き出しや運用を行っていた人物が「実質的な所有者」とみなされます。

例えば、妻名義の口座であっても、届出印が夫の印鑑と同じであったり、夫の書斎から通帳が発見されたりした場合は、夫の管理下にあったと判断されやすくなります。


3. 贈与の意思表示・認識の有無

民法上、贈与は「あげます」「もらいます」という両者の合意(意思の合致)によって成立する契約であり、書面がなくても可能です。(民法549、550条)。

しかし、夫婦間であっても暗黙の了解や「余った生活費は好きにしていいと言われていた」という状態では、贈与が成立していたとは認められません。

  • 夫側が「贈与をした」と認識していたか
  • 妻側が「もらった」と認識し、自分の財産として管理していたか
  • 客観的に証明する「贈与契約書」や「贈与税申告書」が存在するか

へそくりは夫に内緒で貯蓄していることが多いため、贈与を主張することは難しいでしょう。


4.利息や配当などは誰が取得しているか

預金や有価証券から生じた利息・配当金などの果実を、誰が受け取り、どのように使っていたかも重要な判断材料です。

たとえ口座名義が妻であっても、そこから生じた利息や配当を夫が受け取り、自身の生活費や投資に充てていた場合は、その口座の実質的な所有者は夫であると判断される要素になります。

逆に、妻が長年にわたり利息や配当を自分の判断で管理・使用していた実績があれば、妻自身の財産であるという主張の裏付けになり得ます。

これら4つの基準は個別に判断されるのではなく、総合的に勘案されて「名義預金」かどうかが判定されます。


共働き夫婦のへそくりならどうなる?

共働き夫婦の場合、妻自身に収入があるため状況は変わります。妻が自分の給与から自身の口座へ積み立てた分は、原則として妻自身の固有財産として扱われます。

ただし、家計の管理を夫婦のどちらが行っていたか、夫の収入からの繰り入れがどの程度あったかによって、名義預金の可能性を指摘される可能性はあります。

「誰の稼いだお金がへそくりの原資になっているか」を客観的に説明する必要があります。


税務調査で税務署が実際に見ているポイント

相続税の税務調査では、申告漏れの財産として名義預金が指摘されるケースが非常に多いとされています。税務署が具体的にどこを見ているのかを知っておくことは、正しい申告のために欠かせません。本章では実際に見ているポイントについて解説します。


過去の通帳の資金移動履歴

税務署は、生前の被相続人の口座から家族名義の口座への資金移動を、過去に遡って確認します。定期的に一定額が移動している履歴があれば、生活費なのか贈与なのか調査されるケースがあります。


口座開設時の届出印・筆跡

家族名義の口座であっても、開設時の届出印が被相続人と同じ、あるいは申込書の筆跡が名義人本人のものでない場合、実質的な管理者が被相続人であった可能性が高いと判断され名義預金として相続財産に含むようにと指摘される場合があります。


通帳・印鑑の保管場所

税務調査では必要に応じて自宅への実地調査も行われ、通帳や印鑑がどこに保管されていたかを確認されることがあります。被相続人の書斎や金庫に家族名義の通帳がまとめて保管されていた場合、名義預金を疑われる場合があります。


被相続人以外のご家族名義の口座

専業主婦のへそくりはもちろん、子や孫の名義の口座についても同様にチェックされます。特に収入のない子や孫名義の口座に多額の預金がある場合は、名義預金の典型例として調査対象になりやすい傾向があります。上記の通帳・印鑑の保管場所と含めて、名義預金の指摘を受けやすいため注意が必要です。


過去の贈与税申告の有無

生前に贈与があった場合、それが正式な贈与として契約書があるか、あるいは贈与税の申告・納税がなされているかどうかも確認されています。


今からできる名義預金化を防ぐ対策

へそくりや家族名義の預金が名義預金と判断されないためには、生前からの準備が重要です。本章では今からでもできる、名義預金化を防ぐ相続対策について、わかりやすく解説します。


生前贈与を行う場合は贈与契約書を都度作成し、贈与税申告を行う

夫婦間や子や孫へ贈与を行う際は、口頭の約束だけで終わらせず贈与契約書を作成しましょう。年間110万円の基礎控除内(暦年贈与)であっても、証拠として契約書を残しておくことが大切です。また、必要に応じて適切に贈与税の申告も漏れなく行いましょう。


通帳・印鑑は本人が管理する

名義人自身が通帳・印鑑・キャッシュカードを管理し、自分の意思で入出金や運用ができる状態にしておくことが重要です。また、贈与を受ける受贈者は届出印も被相続人と別のものを使用しましょう。


生前から相続の専門家へ相談する

名義預金の判断は個別の事情によって大きく異なります。生前の早い段階から相続に詳しい専門家へ相談し、家族全体の財産状況を整理しておくことで、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。

相続税申告時にはへそくりも含めて申告しよう

すでに相続が発生している場合、専業主婦のへそくりであっても、実質的な所有者が被相続人であると判断される可能性がある以上、安易に「妻の財産だから対象外」と考えず、相続財産に含めて申告することが重要です。配偶者には「配偶者の税額の軽減」があるため、納税がゼロになる可能性もあります。

配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

(注) この制度の対象となる財産には、隠蔽または仮装されていた財産は含まれません。

(1) 1億6千万円

(2) 配偶者の法定相続分相当額

※引用:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

重加算税の対象となる不正な申告が行われた場合、配偶者控除が適用できないおそれがあります。本来の相続税に加えて重加算税や延滞税といった追徴課税が発生し、結果的に大きな負担となってしまうため注意しましょう。


まとめ

専業主婦のへそくりは、夫の相続時に名義預金と判断されるリスクが常につきまといます。共働き夫婦であっても、家計の管理状況によっては同様の指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。

相続時の不安や、生前からの相続対策についてお悩みの場合は、ぜひ一度さいたま幸せ相続相談センターへご相談ください。


相続税申告について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

執筆:岩田いく実
監修:千葉文男 税理士