皆さんこんにちは。
相続コンサルタントの久保田です。

皆さんは不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)をご覧になったことはありますか?

法務局で取得できる不動産の概要や所有者、抵当権といった不動産の権利を確認するための書類ですが、日常生活で目にする機会はほとんど無いと思います。

それこそ、相続手続きで初めて登記簿謄本を目にする方もいらっしゃるかもしれません。

相続した不動産を建て替えたい、売却したいといった場合に、『権利部』に所有権以外の権利が登記されていると、基本的にはその権利の抹消をしてからでないと建て替えや売却ができなくなってしまうので「権利部」に登記されている権利を解説してみます。

尚、登記簿謄本や登記事項証明書の見方は過去のコラムで記載していますので、こちらも合わせてご覧ください。

空き家の固定資産税について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご参照ください。

権利部(甲区)に登記される権利

ここには土地や建物の所有権に係る権利が記載されます。

多くは、土地であれば所有権移転登記(売買や贈与といった権利移転が記載されます。)や所有権保存登記(建物を新築した際に所有権を記載する登記です。)だけですが、中には建て替えや売却に支障をきたす登記もあります。


差し押さえ・仮差押え

税金や借金の滞納が進むと、資産を差し押さえされます。

権利部(甲区)に差し押さえや仮差押えの登記がある場合は、不動産所有者様に滞納があり、債権を回収できなくなった際は、この差し押さえや仮差押えの登記を利用して、競売にかけられてしまうことがあります。

差し押さえや仮差押えの登記があると、所有者様でも自由に建て替えや売却ができなくなってしまうので、まずは税金や借金を返済したうえで、債権者に対して差し押さえや仮差押え登記を抹消する相談が必要になります。


買戻特約

売主が売買代金や売買契約にかかった費用を買主に返すことで、不動産の権利を取り戻すために最長10年の期間で設定されます。

買戻特約は地方自治体、都市再生機構、法人(従業員の住宅として不動産を売却する場合)が売主になる場合に、転売を抑制する目的で設定されることがあります。

買戻特約が設定された状態で売却・買主への所有権移転登記を行うこともできますが、買主からすると購入後買戻特約を実行されると不動産を取られてしまうので、実際は買戻特約を抹消してから所有権移転を行うことになります。


条件付所有権移転仮登記

レアケースだと思いますが、これまでに一度条件付所有権移転仮登記の記載のある登記簿謄本を見たことがあります。

実際に見たものでは、債務不履行を停止条件とした仮登記で、抵当権とセットで登記されていました。

現在特段の事情がない限り設定されることはないかと思われますが、農地の売買や個人間売買(仲介業者が介入しない売買契約です。)で所有権移転登記をご自身で行う場合に出てくるかもしれません。

通常は停止条件が成就したタイミングで本登記を行いますが、何らかの事情で本登記が行われていない場合や、停止条件が成就しないままになっているといった状況であれば、抹消手続きが必要になります。


権利部(乙区)に登記される権利

権利部(乙区)には、所有権以外の権利が記載されます。

よく目にするものとしては、抵当権・根抵当権がありますが、いずれも不動産に対して第三者の何かしらの権利が登記されているため、所有者様でも不動産を自由にできなくなってしまうので、建て替えや売却の際には抹消が必要になります。


抵当権

住宅ローンのように、不動産を担保に借金をすると抵当権が設定されます。

住宅ローンを完済していない状況での建て替えはあまりないかもしれませんが、売却する場合には注意が必要です。

不動産の所有権を買主に移転するため、抵当権を抹消してからでないと所有権移転登記を行えないのですが、抵当権を抹消する際には、もちろん借金を完済する必要があります。

そのため、完済前の不動産売却に関し、住宅ローンの残債(借入残高)以上で不動産を売却できない場合は、どのように残債(借金)を完済するか検討する必要があります。

売買価格が残債を上回る場合でも、決済(不動産の売買代金を受領して、買主に所有権移転を行う手続きです。)当日に抵当権の抹消登記を行う必要があるので、事前に金融機関との調整が必要なことにもご注意ください。


根抵当権

抵当権と同じように不動産を担保にして借金をすると設定される権利ですが、事業資金での借金の場合に根抵当権が設定されることがあります。

抵当権との違いとして、その不動産を担保に極度額(借りられる上限金額です。)を設定し、極度額の範囲で何度でも追加の借入ができるので、事業資金としては使いやすい借金の方法でもあります。

ただ、根抵当権の場合は借金をすべて返済しても権利が消えるわけではなく、極度額の枠が残り続けることになります。

事業資金としての借金に対する権利のため、金融機関との付き合いや、他の根抵当権との兼ね合いで抹消がしにくいケースもありますので、根抵当権者(多くは金融機関です。)との関係性や他の抵当権・根抵当権を確認していただくことをお勧めします。


地上権

 第三者の土地に工作物(建物等)を造る際に設定される権利です。
地上権があると、所有者様がその土地を自由に利用できないため、売却の場合は決済までに抹消するか、地上権が設定されたまま引渡しをすることになります。


地役権

その土地を第三者が利用することで第三者の土地の利便性が上がる場合に設定される権利です。

代表的なものでは、通行、給排水管の引込、高圧線を設置するといった状況で地役権が設定され、地役権が設定された土地では所有者様も自由な利用ができなくなります。


賃借権(借地権)

土地建物を貸している場合に設定されることがある権利です。

現在一般的な建物賃貸借契約では賃借権の登記がされることはほとんどなく、借地契約でも登記されることもあまり見ないかと思います。

建物賃貸借契約では、登記をしなくても所有者様と賃貸借契約を締結して鍵を借りていることで賃貸借関係にあることを主張できますし、借地契約の場合は借地上の建物を登記することで借地権を持っていると主張できるため、現在は特段の事情がない限り賃借権を設定することは少ないと思います。

ただ、相続の場では過去に設定された賃借権が残り続けているケースが稀にあります。

抵当権や根抵当権と違い、賃借権や借地権の権利者は個人のことが多く、権利者にも相続が発生します。

所有者様からすると、厄介なことに賃借権も相続財産に含まれてしまうので、賃借権等を抹消するには権利者の相続人を探し出したり、どうしても相続人が見つからない場合は裁判所に申し立てを行う必要が出てきます。


先取特権

先取特権は、所有者が複数の借金や未払金がある場合に、他の債権者より優先的に資産を回収できる権利です。

有効な先取特権が設定されている場合、おそらく複数の借金があると推測できるため、相続放棄を検討する方も多くなるかもしれません。

そのため、ここでの説明は割愛します。



登記簿謄本には様々なヒントがありますが・・・

ここまで説明したように、登記簿謄本からは所有権や借金以外にも様々な権利が記載されており、相続した不動産を知る様々なヒントが明確に記載されています。

ただ、ご自身が当事者となって抵当権・根抵当権・地上権・地役権・賃借権といった各種権利を設定していれば、どのような事情でこれらの権利を設定したかがわかるのですが、相続した不動産に設定されていた場合、相続人はその権利が設定された経緯を推測するしかない状況も考えられます。

また、いくら遠い昔に設定された権利であっても、基本的に権利者の協力がないとこれらの権利を抹消することができないので、相続発生後に抹消手続きを行おうとすると、権利者の調査や権利者との交渉が必要になり、相続人がご自身で全てを対応することが難しいかと思います。

さいたま幸せ相続相談センターではそのような権利が設定された不動産の相続手続きもお手伝いができますが、一番は相続人のご負担を減らすために、事前に所有権以外の権利を整理したり、それらの権利が設定された経緯をまとめていただくことをお勧めします。



監修:司法書士NK法務事務所 中嶋英憲 司法書士