これまで、不動産を相続したとしても、相続登記をせずに放置しておくことができていました。相続登記とは、不動産の所有者が亡くなったときに、その不動産を引き継いだ相続人へ所有者の変更をする手続きのことです。

不動産を相続したにもかかわらず、相続登記をせずに放置する人が増え続けると、「災害からの復興事業や開発事業を行いたくても、土地の所有者がわからないから進められない」という状況が発生してしまいます。

実は、現在日本で土地の所有者がわかっていない土地は、九州の面積(約370万ヘクタール)と同じくらいであると言われています。このままでは、所有者不明の土地がさらに増え、いずれは北海道本島の面積(約780万ヘクタール)に匹敵する720万ヘクタールにまでなると予想されているのです。

 

そこで、この問題を解消するべく、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されることになりました。

今回は、相続登記申請の義務化がどのように行われるのか、その注意点やポイントなども詳しくご説明していきます。

 

相続登記申請の義務化とは?

今回の法改正でもっとも大切なポイントは、「相続登記の申請を3年以内に行わなければならない」という点です。不動産を取得した相続人は、相続の開始を知ったとき、かつ不動産の取得を知ったときから3年以内に相続登記の申請を行うことが義務となります。

例えば、Aさんは亡くなった父の遺産を2人の兄と分け合うことになったとします。父には遺言が残っていなかったため、相続人3人で遺産分割協議という話し合いを行い、誰が何を相続するかを決めることになりました。父が亡くなってから4ヶ月後に話し合いがまとまり、父の持っていた不動産はAさんが相続することになりました。この場合、Aさんは話し合いがまとまった日から3年以内に相続登記の申請を行わなければなりません。

 

相続登記申請の義務化は2024年4月1日から

相続登記申請の義務化は、2024年4月1日からスタートします。

2024年4月1日以降に発生した相続に関しては、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請をすれば良いのですが、この日以前に発生した「過去の相続」については、申請期限はどうなるのでしょうか。

 

例えば、2020年10月1日に相続が発生し、2年後の2022年12月1日に遺産分割協議がまとまったケースで考えてみましょう。この相続で不動産を相続することになったBさんは、相続登記申請の義務化がスタートする2024年4月1日から3年以内に相続登記の申請が必要になります。

3年という期間は変わりませんが、相続の発生が2024年4月1日より前か後かによって期間の数え始めが異なりますので、ご注意ください。

 

相続登記をしないと罰則が科される⁉︎

仮に、相続登記申請の義務化がスタートしてから、正当な理由がないにもかかわらず期限内に申請を行わない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

過料の金額は、それぞれの事例によって異なると考えられます。例えば、「不動産を相続したことを知っていたのに、意図的に5年間も登記の申請をしてこなかった場合」と、不動産の相続を知っていたが相続登記を忘れていて1年経ってしまった」という場合では、後者の事例の方が過料の金額が小さくなると予想されます。

そのため、相続登記の申請が必要であることを知ったときは、期限を過ぎてしまったとしても、なるべく早く申請の手続きを済ませておくと良いでしょう。

 

「正当な理由」とは

期限内に相続登記の申請を行わなくても、正当な理由があれば義務違反にはならず罰則も科されません。

では、この場合の正当な理由とは、具体的にどのようなケースが当てはまるのでしょうか。法務省では、正当な理由があると考えられる例として、以下の3つのケースを挙げています。

 

① 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース

② 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース

③ 申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース

 

例えば、父の遺産の中に不動産があったが、遺産分割協議がまとまらずに相続人となったA、B、Cの全員で不動産を共有で持っている状態になったとします。そんな中、Aが亡くなってしまうと、Aの相続人である妻や子も不動産の共有者となります。

このように、相続が重なることで不動産の共有者が増えていくと、登記申請に必要な戸籍謄本等の書類を共有者全員分集めなければならず、申請までに時間がかかってしまうのです。

また、亡くなった人に遺言が残っていて、単独で不動産を相続することになった場合でも、その遺言が正しい手順や方式で作られたものかが分からなければ、この確認に時間がかかってしまいます。以上のようなケースで期限内に相続登記の申請ができなかった場合は、「正当な理由」があると認められる可能性があります。

 

相続登記申請の義務を果たすための方法4選

相続登記申請の期限に遅れて罰則を科されないように、4つの方法をご紹介します。

それぞれのご家庭によって合う方法が異なりますので、財産や相続人の状況も考慮し、ベストな方法を選択しましょう。

 

方法① 遺産分割を済ませておく

もっとも円満な方法が「相続人全員が納得して遺産分割を行う」ことです。

亡くなった人に遺言があれば、その遺言の通りに遺産分割の方法が指定されるのですが、遺言がない場合は相続人全員で「遺産分割協議」という話し合いを行って、誰が何を相続するのかを決めることになります。この話し合いで不動産を相続することになった人が、3年以内に相続登記の申請を行う方法が一番良いでしょう。

 

遺産の分割には、現物分割・換価分割・代償分割の3つの方法があります。

現物分割とは、遺産をそのままの形で分け合うもっとも簡単な方法です。例えば、相続人Aは土地を、相続人Bは預金2,000万円を相続する場合などがこれに当たります。

一方で、換価分割とは、遺産を売却してお金に変えてから、そのお金を分け合う方法です。例えば、相続人AとBは遺産の土地を2,000万円で売却し、1,000万円ずつ相続した場合がこれに該当します。

また、代償分割とは、特定の相続人が遺産を現物で相続し、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。例えば、相続人Aが相続税評価額2,000万円の土地をそのまま相続し、相続人Bに対して1,000万円を支払う場合がこれに当たります。

 

これらの分割方法があることを知っておくと、遺産分割協議を長引かせずに早く済ませることができます。遺産分割協議が済んだら、速やかに相続登記の申請を行いましょう。

 

方法② 共有名義で登記をしておく

実は、遺産の分割方法には方法①でご紹介した3種類以外にも、もう1つ「共有」という方法があります。共有とは、相続人全員で共同して1つの財産を所有することです。

例えば、相続人同士の仲が良くない場合や、亡くなった人から生前贈与を受けている人がいる場合などは、協議がまとまりにくく、やがて争いに発展してしまうケースも珍しくありません。このような場合には、共有名義で登記しておくというのも1つの方法なのです。

遺産分割協議が長引きそうだと思ったら共有名義で登記をしておくことで、相続登記申請の義務を果たすことができます。そして、その後遺産分割協議が成立したら、その内容を踏まえた登記を再度行えば良いのです。

 

しかし、不動産の共有には大きなデメリットもあるため注意が必要です。

例えば、共有名義の不動産は、売却や解体に他の共有者の同意が必要になります。共有者同士で意見が分かれると売却することができません。それに加え、共有者の1人が亡くなると共有者が増え、さらに共有者同士の意見が揃いにくくなります。顔も知らない人と同じ不動産を共有している状態にもなりかねませんので、不動産の共有はデメリットも把握した上で行いましょう。

 

方法③ 相続放棄をする

相続登記申請の義務を免れるためには、相続放棄も方法の1つです。

相続放棄とは、亡くなった人の遺産を一切相続しないという相続方法です。相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったことになるため、相続登記の義務が課されることはありません。

相続放棄ができるのは、相続の開始を知った時から3ヶ月以内と定められています。3ヶ月を過ぎると相続放棄の選択をすることができなくなってしまいますのでご注意ください。

相続放棄の手続きについては、以下の記事で解説しています。

 

→相続放棄

https://saitama-shiawasesouzoku.jp/%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E6%94%BE%E6%A3%84.html

 

方法④ 相続人申告登記をする

今回、相続登記申請が義務化されるにあたって、「相続人申告登記」という制度が新たに始まります。

この制度は、相続人1人でも簡単に申請義務を果たせる登記方法です。相続人申告登記をするためには、①不動産を所有していた人に相続が発生したこと、②自分がその相続人であることを、相続登記申請の履行期間(3年以内)に登記官に対して申し出る必要があります。この申出により、相続登記申請の義務を果たしたことになります。

また、相続人申告登記では、手続きに必要な添付書類が少なく、申出人の負担が軽減される点がメリットと言えます。

本来、相続登記では亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や遺産分割協議書などのさまざまな書類を提出しなければなりません。しかし、相続人申告登記の場合は、申し出をする相続人自身が亡くなった人の相続人であることを証明するための当該相続人の戸籍謄本を提出するだけで良いのです。

 

なお、遺産分割協議が成立する前に相続人申告登記を行い、その後遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内に協議の内容を踏まえた登記申請を行う必要があります。

 

不要な土地には「相続土地国庫帰属制度」を利用しましょう

「土地を相続したけど、何にも活用することができないから手放したい」

相続した土地において、このような問題を抱えている人が増えてきています。利用しない土地をそのまま放置していると、ただ固定資産税などの費用がかかるだけの「負動産」となってしまうため、早く手放したいと考えるのは当然のことです。

 

そこで、2023年4月27日から相続した土地を手放すことができる「相続土地国庫帰属制度」が施行されることになりました。

この制度は、相続や遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、その土地を手放して国庫に帰属させることができるものです。国庫へ帰属できる土地は、政省令で規定された一定の要件を満たしているものに限られます。

 

相続土地国庫帰属制度の手続き

相続土地国庫帰属制度を利用する場合は、以下の流れで手続きを行います。

 

STEP① 土地を相続した人等が承認申請をする

STEP② 法務大臣が土地の要件審査に承認をする

STEP③ 申請者が負担金を支払う

STEP④ 相続した土地が国庫に帰属する

 

負担金とは、国庫に帰属させる土地にかかる10年分の管理費用相当額です。土地の性質に応じて支払う金額は異なりますが、一般的には、大まかな管理で足りる原野では約20万円、市街地にある宅地では200㎡で約80万円ほどの管理費になるとされています。

土地を国庫へ帰属させるためには、手続きの労力や費用がかかりますが、今後土地の管理にかかる労力や税金等を考えると、活用しない土地は手放すことも有効な手段です。

 

相続土地国庫帰属制度を利用する具体的なケースや、土地の要件については、別のコラムでご説明いたします。

 

まとめ

今回は、不動産の相続登記申請の義務化がどのように行われるのかを詳しくご説明しました。

2024年4月1日にこの制度がスタートすると、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務となります。期限を過ぎると過料が科されてしまうため、ご家庭にあった対策を取ることが大切になります。

不動産の相続に関して不安な点がある場合は、相続に詳しい専門家へ相談することをお勧めします。

 
執筆:山形麗
監修:司法書士法人T-リンクス 小川直孝 司法書士
 
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