皆さんこんにちは。

相続コンサルタントの久保田です。

 

 前回までのコラムでは、不動産有効活用で建物を建てるまでの考え方を説明しました。第三者へ貸すための建物が完成した時点で相続対策効果は得られますが、長い視点で見ると建物が完成した後にどの様に維持してくかも非常に重要なポイントになります。確かに、相続税は減らせるかもしれませんが、減った相続税以上に不動産有効活用で建てた建物を維持する費用の総額が上回ってしまうようであれば、不動産有効活用を実施しない方が良かったとなってしまうこともあります。第三者に貸すための建物は、入居者様が居て初めて収入が得られるので、できる限り安定した収入を得られる様、今回は建物が完成した後どの様に維持・管理していくかの考え方を説明したいと思います。

 

1.ご自身で管理するか、賃貸管理業者に管理を依頼するか

 第一に、賃貸管理をご自身で行うか、賃貸管理会社に依頼するかを考えてみます。結論からになりますが、私は賃貸管理会社へご依頼いただくことをお勧めしています。ご自身で賃貸管理を行うことも可能ですが、賃貸管理は単純に家賃を集金するだけでなく、入居者様対応、空室募集、退去後の原状回復…といったように、対応しなければならないことが非常に多くなります。その様な日々の対応をしていると、先々のことを考える余裕がなくなってしまい、せっかく建てた建物の価値を維持できなくなってしまったケースを目にする機会が多かったからです。ご自身で賃貸管理を行うことで、管理手数料を削減できますが、管理手数料を支払ってでも日々の対応をアウトソーシングして、ご自身は経営者として不動産がより良い将来に向かえるよう考える時間を作っていただいた方がいいと思います。

 賃貸経営を継続する中でも、どのタイミングでどの様な修繕を行うか、どんな入居者様と契約するか、場合によっては、どこかのタイミングで売却を考えてみたりと、様々な決断をするタイミングが出てきます。その様なタイミングで、冷静にご判断ができるように、常に視野を広く、長い視点で不動産を考えられるように上手にアウトソーシングしていただきたいと考えています。

 

2.どの賃貸管理会社に依頼する?

 賃貸管理を依頼するとなると、次はどの賃貸管理業者に依頼すればいいかという悩みが出てきます。賃貸管理業者を比較する際に、管理手数料が高いか安いか、店舗があるかないか、担当者と相性が合うかなどいろいろと判断基準があるかと思いますが、良し悪しが見えにくい部分も多く、悩んでしまう方も多いかと思います。

 実際には、一度管理を依頼してみないとわからない部分も多いのですが、まずは担当者との相性で選んでいただくといいと思います。ただ、大切な不動産を任せるので、単純に「担当者が良い人だから」ではなく、賃貸管理の知識や経験があるか、積極的に不動産が良くなる提案をしてもらえるかを注意してください。業務を分業制にする賃貸管理業者も多く、稀に担当業務範囲外のことはほとんど知識が無い担当者もいますので、少なくとも賃貸管理全般の知識・経験がある担当者に任せていただきたいと思います。

 また、もう一つ注意していただきたい点が、空室が出た際にすぐに情報公開するかどうかです。空室はできる限り早く良い条件で次の入居者様に入っていただきたいのですが、残念ながら特に理由もなく自社で入居者様を見つけることに拘り、情報公開しない賃貸管理業者もいます。賃貸管理業者もビジネスとして利益を求めることは当然ですが、ご自身に寄り添ってもらえる賃貸管理業者なのかを見極める判断基準の一つとしていただきたいと思います。

 

3.建物の価値を維持していくためには

 しっかりと分析・検討した結果不動産有効活用で賃貸不動産を建築して、賃貸管理業者が決まり空室も埋まると、しばらくはさほど大きな決断をすること無く安定した賃料を得られるようになると思います。

 物件のタイプ(単身用か家族用か)によって変わりますが、特に単身用物件では数部屋は更新のタイミングで解約になる前提で考えていただくといいと思います。解約のタイミングが重なってしまうと、収入が減るばかりか、原状回復費用が必要になりますので、そのタイミングで費用を捻出できないとならないよう、毎月少しずつでも修繕費用を積み立てていただくことをお勧めします。

 また、建築後は定期的に屋根や外壁を修繕する大規模修繕も建物の価値を維持するのに有効です。おおよそ10年から15年ごとに実施するのが一般的ですが、大規模修繕を行わないと雨漏りが発生するリスクが高くなったり、建物の劣化が早くなったりと、せっかく建てた建物を使い捨てのような使い方になってしまいます。

 上記の原状回復費用の積み立てもそうですが、大規模修繕にかかる費用にある程度把握しておき、毎月大規模修繕費用も積み立てていただくと、大規模修繕が必要になった際も冷静に対応できると思います。

加えて、大規模修繕を行なわず、建物が劣化してしまうと建物の見栄えが悪くなり、空室を埋めることが難しくなります。空室が埋まっても、家賃を滞納したり、建物の使い方が悪かったり、といった、不良借家人と契約してしまうリスクが高まると考えています。そうなった場合、元々お住まいだった入居者様が解約してしまい、新たな不良借家人が入居して…と負のスパイラルに陥ってしまう賃貸物件になってしまいます。一度負のスパイラルに陥ってしまうと、改善するための労力やコストは計り知れないものになってしまいますので、そうならないためにも定期的に大規模修繕を行い、不良借家人と契約してしまう可能性を低くする予防が重要だと考えています。

 

4.建物の価値を維持するコツ

 今までのまとめになりますが、極端な言い方をしてしまえば、お金をかければ建物の価値を維持していくことはさほど難しくはありません。

ただ、もちろん無限にお金をかけるわけにはいきませんから、必要なコストと不要なコストを見極めて、必要なコストに注力していくことが建物の価値を維持していくコツだと思います。これは物質的な建物の価値を維持することはもちろんですが、良い入居者様に長期間お部屋を借り続けていただくことにも繋がります。

 例えば、ご自身が賃貸物件を借りることになった際に、管理が行き届いておらず建物もボロボロになっている賃貸物件に住みたいと思うでしょうか?少なくとも私は、その様な賃貸物件に住みたいとは思いませんし、自分の収入から家賃も払いたくありません。何かしら理由があって入居する方も、賃貸物件のオーナーが大切に扱っていない不動産を大事にしようとは考えないのではないでしょうか?

 また、賃貸管理業者に任せきりにせずに、定期的にご自身の物件を見に行くことも大切です。共用部がきちんと清掃されているか、無断でペットを飼育されていないか、修繕が必要な箇所はないか、とマイナスポイントを見つけることもできますし、場合によっては入居者様と交流を深めることで、実際にお住まいの方から物件の改善案を得るチャンスにも繋がります。賃貸管理会社に管理を依頼しているのにマイナスポイントが目立つようであれば、別の賃貸管理業者に管理を切り替えることも検討しなければなりません。

 

不動産有効活用の目的が家賃収入を得るためでも、相続税の節税でも、より良い入居者様に長期間ご入居いただくためには、ただ建物を建てて貸すだけではなく、常にどうすればご自身の賃貸物件がより良くなるか、何が足りていないのかを考えていただくと建物の価値を維持するためのポイントが見えてくると思います。

 

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