相続はいつ発生するか分かりません。例えば、祖父と父が立て続けに亡くなってしまったり、父が亡くなった直後に母が亡くなってしまったりと、不幸が続いてしまう可能性はゼロではありませんよね。
もし、1回目の相続が発生してから、その相続に関する相続税申告を行う前に相続人が亡くなった場合、亡くなった相続人が行うべきだった相続税申告はどうなってしまうのでしょうか?
実際にこのような状況になった場合に、落ち着いて正しく申告をすることができるように、あらかじめ知識を身につけておく必要があります。
今回は、相続税の申告前に相続人が亡くなった場合の申告について、詳しくご説明していきます。
本来の相続税の申告期限
本来、相続税の申告期限は「被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められています。
例えば、被相続人が2020年4月1日に亡くなった場合の申告期限は、10ヶ月後の2021年2月1日です。
申告期限日が土曜日・日曜日、祝日に当たるときは、これらの日の翌日が申告期限日となりますのでご注意ください。
なお、相続税の申告期限は、各相続人について「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日」から起算されます。遠くに住んでる場合や被相続人と疎遠だった場合は、被相続人が亡くなったことを知るのが遅くなってしまうケースも珍しくありません。このような場合は、葬式の通知や遺産分割協議を行う旨の通知がされたことにより亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月を数えます。そのため、相続人間で申告期限が異なるケースも十分に考えられるのです。
相続税申告前に亡くなった場合の申告期限と申告義務者
先ほどお伝えしたとおり、相続税の申告期限は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。しかし、相続税申告をする必要のある相続人が申告前に亡くなると、期限が過ぎた後もずっと申告されないままになってしまいます。
このような場合は、亡くなった相続人の代わりに相続税申告をしなければなりません。では、いったい「誰が、いつまでに」申告をするべきなのでしょうか?
ここでは、「祖父の後に父が亡くなった場合」と「父の後に母が亡くなった場合」において、誰がいつまでに申告をするべきなのかをご説明していきます。
具体例① 祖父の後に父が亡くなった場合
例えば、2020年1月1日に祖父が亡くなり、相続税申告をしないまま2020年5月1日に父が亡くなったケースを考えてみましょう。
祖父の死亡による相続(一次相続)では父と父の妹(叔母)が相続人となり、父の死亡による相続(二次相続)では母と子が相続人となりました。
本来、一次相続における相続税申告の期限は、祖父の死亡を知った日の翌日から10ヶ月後の2020年11月1日です。しかし、一次相続で相続税申告をする必要のあった父が、申告前に亡くなってしまっています。
このような場合、父が提出する必要があった一次相続の相続税申告書は、「父の相続人」が代わりに行うことになります。つまり、このケースでは、父の代わりに母と子が共同して申告を行う必要があるのです。
また、母と子が共同して行う相続税申告の期限は、「父の死亡を知った日の翌日から10ヶ月」まで延長されます。したがって、母と子は2021年3月1日までに祖父の相続に関する相続税申告書を提出すれば良いのです。
なお、一次相続のもう1人の相続人である叔母は、本来の申告期限である2020年11月1日までに申告を行わなければなりません。同じ一次相続の申告であっても、申告人によって期限が異なる場合がありますので注意しましょう。
具体例② 父の後に母が亡くなった場合
例えば、2020年1月1日に父が亡くなり、相続税申告をしないま2020年5月1日に母が亡くなったケースを考えてみましょう。
父の死亡による相続(一次相続)では母と子が相続人となり、母の死亡による相続(二次相続)では子のみが相続人となりました。
このケースでは、子が一次相続・二次相続ともに相続人となっています。
本来、一次相続における相続税申告の期限は、父の死亡を知った日の翌日から10ヶ月後の2020年11月1日です。しかし、一次相続で相続税申告をする必要のあった母が、申告前に亡くなってしまっています。
このような場合、母が提出する必要があった一次相続の相続税申告書は、「母の相続人」が代わりに行うことになります。つまり、このケースでは母の代わりに子が申告を行う必要があるのです。
また、申告期限は「母の死亡を知った日の翌日から10ヶ月」まで延長されます。したがって、子は2021年3月1日までに母の相続税申告書を提出すれば良いのです。
なお、一次相続における子の申告期限は2020年11月1日で変わりありません。このケースでは「一次相続における子の申告」「一次相続における母の申告」「二次相続における子の申告」の3つを子が行わなければなりませんので、それぞれの期限を間違えないように注意が必要です。
代わりに相続税申告をする場合の提出書類
先ほどの具体例のように、相続税申告前に相続人が亡くなってしまい、代わりに母や子が相続税申告を行う場合は、本来の相続税申告とは異なる書類を提出する必要があります。
必要書類は、代わりに申告をする人が複数人の場合と1人の場合で異なりますので、以下でご説明していきます。
ケース① 代わりに申告をする人が複数人の場合
先ほどご紹介した具体例①のように、代わりに申告をする人が複数人いる場合は、「相続税申告書 第1表の付表1 納税義務等の承継に係る明細書(兼相続人の代表指定届出書)」という書類に必要事項を記入して、相続税申告書に添付する必要があります。
この書類は、本来申告をするべきだった人の申告を、相続人が代わりに行うために必要な書類で、具体的には以下のような事項を記入します。
【相続税申告書第1表の付表1の記入事項】
・申告前に亡くなった人の住所、氏名、死亡した年月日
・申告前に亡くなった人が納付すべき又は還付される税額
・相続人等の代表者の氏名
・限定承認の有無
・相続人全員の住所、氏名、続柄、生年月日など
・各相続人が代わりに支払う相続税額
ケース② 代わりに申告する人が1人の場合
先ほどご紹介した具体例②のように、代わりに申告をする人が1人のみの場合は、「相続税申告書第1表」に必要事項を記入します。この場合は「相続税申告書 第1表の付表1 納税義務等の承継に係る明細書(兼相続人の代表指定届出書)」を提出する必要はありません。
その代わりに、相続税申告書第1表の「財産を取得した人」にある、氏名と住所の欄を2段に分けて次のように記入しましょう。
・氏名の欄:上段に「申告前に亡くなった人の氏名」、下段に「代わりに申告をする相続人の氏名(+押印)」を記入する。
・住所の欄:上段に「申告前に亡くなった人の住所」、下段に「代わりに申告をする相続人の住所」を記入する。
相続税申告の手続き
相続人が代わりに申告をする場合の申告期限は「一次相続の相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限までに申告をしなかったり、申告期限に間に合わなかったりした場合は、延滞税や加算税などのペナルティが課されることがあります。亡くなった方の代わりに申告をすることになっても、慌てずスムーズに申告の手続きができるように、相続税の申告方法を確認しておきましょう。
ここでは、相続人が代わりに申告をする場合の申告方法についてご説明していきます。
相続税申告に必要な書類
相続税の申告に必要な書類は、以下のとおりです。
・相続税申告書(代わりに申告をする人が複数人いる場合は第1表の付表1を添付)
・1次相続の被相続人の戸籍謄本、住民票除票、死亡診断書
・各相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書
・遺言書または遺産分割協議書
・相続人および受遺者の本人確認書類
・その他財産に関する資料
被相続人の財産状況や家族構成によっても、必要書類は異なってきます。相続税申告に不安がある方は、事前に手続きを行う税務署で確認をするか、相続の専門家へ相談しましょう。
相続税申告書の提出先
相続税申告書の提出先は、「一次相続の被相続人の最後の住所地を管轄する税務署」です。二次相続の被相続人の住所地ではありませんのでご注意ください。
例えば、2020年1月1日に祖父が亡くなり、続けて2020年5月1日に父が亡くなったケースを考えてみましょう。父が行うべきだった相続税申告は、父の相続人である母と子が共同で行うことになりました。
この場合、母と子が父の代わりに作成した相続税申告書は、「祖父の最後の住所地を管轄する税務署」に提出することになります。
これは、父に関する相続税の申告書ではなく、「祖父に関する相続税の申告書」を母と子が代理して提出しているだけだからです。
母と子は、父の相続に関する相続税申告も行わなければならないため、どの申告書をどこに提出するべきかを混同しないように注意する必要があります。
なお、管轄税務署は国税庁のホームページから、郵便番号・住所、または地図で調べることができます。相続税申告書の提出先である税務署が分からない場合は、ぜひご活用ください。
まとめ
今回は、相続税申告前に相続人が亡くなった場合の申告についてご説明しました。
相続税申告前に相続人が亡くなってしまったら、その人の相続人が代わりに申告を行うことになります。自分には関係のない相続であっても、立て続けに不幸が起こった場合、代わりに申告をすることになるかもしれません。
スムーズな相続税申告を実現するためには、なるべく早いうちに相続に関する知識を身につけ、対策をとっておきましょう。
相続に関してご不明な点がある場合は、一度相続の専門家へご相談することをおすすめします。
執筆:山形 麗
監修:司法書士事務所T-リンクス 司法書士小川 直孝
■こちらの記事もおすすめです