「私の家族はみんな仲が良いから、相続で何か問題が起こるなんてありえない!」と思っていませんか?現実には、普段は仲の良い家族でさえも、相続発生時などお金が絡む問題に直面したとき、お互いの思いの違いから「争続」へと発展してしまうケースは珍しくありません。

実際に、相続に関するトラブルの件数は年々増えており、遺産分割事件は平成21年から平成30年までの10年間で約2割も増加しています。

仲の良い兄弟姉妹でさえも「争族」問題へ発展してしまうケースが散見される中、疎遠になっているご兄弟や腹違いのご兄弟であれば、意思の疎通の難しさ等からよりその可能性は高くなるかもしれません。今回のコラムでは、どのような状況下で「争族」が発生してしまうのか、例題を参考に確認していきましょう。

 

今回は、兄弟姉妹がいる場合に起こりうる相続問題とその解決方法について詳しくご説明していきます。

 

 

事例① 主な相続財産が不動産のみの場合

土地や建物などの不動産は価額の高いものが多いため、相続財産の中で不動産価額の占める割合は高くなりがちです。

残されている財産が現金のみであれば、相続人同士で簡単に分け合うことができますが、不動産は物理的に分割することができないため、兄弟姉妹間で不平等な分割になってしまうケースが出てきます。例えば、父が3,000万円の土地とその上に建っている実家、現金500万円を残して亡くなり、法定相続人は長男と次男の2人のみのケースを考えてみましょう。

 

父名義の実家には、父と長男が一緒に暮らしていました。生活の拠点を実家としている長男は「実家を相続できないと住む場所がなくなってしまうので、実家と土地は自分が相続したい。」と思うかもしれません。また、次男は「本来であれば2分の1ずつ相続できるはずだから、長男が1人で実家を相続するのは不公平だ。」と思うかもしれません。

 

不動産の価額と同じくらいの現金が残っていれば、長男は実家を、次男は現金をそれぞれ相続することができるのですが、この例では現金が500万円しかないため、柔軟に分割することができません。兄弟姉妹が多ければ多いほど、不動産がある場合の遺産分割は難しくなっていきます。

 

このような場合の解決策として、不動産の分割方法を知っておくことが大切です。1つの不動産を複数人の相続人で分け合う場合の具体的な方法には、次の4つが挙げられます。

 

①現物分割

②代償分割

③換価分割

④共有

 

それぞれの分割方法を1つずつご説明していきます。

 

方法① 現物分割

現物分割とは、財産をそのままの形で相続する分割方法です。

本例題に当てはめて考えると、土地と実家を長男が、現金500万円を次男が相続する場合です。

誰か1人が1つの財産を相続する形のため、手続きが簡単な点がメリットと言えます。デメリットとしては、財産をそのままの形で分割するため、公平な分割ができるとは限らないということが言えます。また、この不公平性から「争続」へと発展してしまう場合もあるので、双方が納得している状態でなければ実現できない分割方法でもあります。

 

方法② 代償分割

代償分割とは、財産をそのままの形で相続する代わりに、財産を相続した人が他の相続人に対して現金を支払う分割方法です。

本例題に当てはめて考えると、父は3,000万円の土地と実家、500万円の現金を残しているため、本来であれば、長男と次男はそれぞれ3,500万円÷2人=1,750万円ずつ相続できることになります。

代償分割をしたとすると、長男が3,000万円の土地と実家を相続し、次男が現金500万円を相続した場合、長男は次男に対して不足分1,250万円を支払うことで平等な分割を実現できます。

 

この方法のメリットは、主な相続財産が不動産であり、相続人のうちの誰かが当該不動産を単独所有する意思を持っている場合にそれを実現できる点にあります。ただし、不動産を相続した人に代償金を支払うだけの資力がなければ有効な対策とはなり得ないことから、ある程度の資力がある人でなければ選択できないという点がデメリットといえます。

 

方法③ 換価分割

換価分割とは、相続財産を売却して得たお金を相続分で分け合う方法です。物理的に分割できない不動産などを現金に換えることで、法定相続人が何人であっても、柔軟な分割が実現できます。

本例題に当てはめて考えると、父が残した3,000万円の土地と実家を売却して3,000万円の現金に換えた場合、3,500万円の現金を1,750万円ずつ分け合うことになります。

 

換価分割は、全員が平等に相続することができるため、相続人間で不公平感が生じにくい分割方法と言えます。また、「現金一括」で支払う必要のある相続税の納税にも備えることができるのもメリットと言えます。

数多くある資産の中でも不動産とは長い歴史や多くの思い出をその中に宿すものです。また、小さい頃から育ってきた家を売却するということは、大きな決断ですので換価分割をする際は慎重に検討しましょう。

 

方法④ 共有

共有とは、1つの財産を複数人が共同で所有している状態のことをいいます。

例えば、1つの土地について「長男の持分は4分の3、次男の持ち分は4分の1」のように分け合うのが共有です。持ち分が割合で表されるため、本来は分割できない財産でも、権利として分割することができるため、不動産の相続で利用されるケースは珍しくありません。

しかし、共有名義で不動産を所有していると、共有者の一方が死亡した場合に、その共有者の相続人がその土地の共有者となるため、どんどん共有関係が複雑になってしまうというデメリットがあります。世代を重ねていくうちに、全く顔も知らない人同士で共有し合っているという状況になりかねません。土地の売却は共有者全員の承諾がなければできないため、全く知らない人同士で共有していると、共有者の承諾を得られず、永遠に土地を売却できなくなることも考えられます。将来のことを考えて、共有で不動産を所有することはできるだけ避けた方が良いでしょう。

 

 

事例② 親の介護をしていた兄弟姉妹がいる場合

兄弟姉妹の中に、親と同居している人や親の介護を献身的に行なっている人がいる場合は、相続でトラブルになりやすいので注意しましょう。

例えば、親の介護を1人で行なっていた兄弟姉妹が「私は長い間親の介護を頑張ってきたから、財産を多く相続できるはずだ」と考えることがあります。しかし、介護をしていない兄弟姉妹から「長男だから介護をして当たり前」や「親と一緒に住んでいたのだから当然に介護をするべきだ」と反論され、トラブルになってしまうケースは珍しくないのです。

一生懸命介護をしてきた人にとっては、「当たり前だ」などと言われると、頭に血が上って口論になってしまうかもしれません。そのうえ、兄弟姉妹相手では「どっちが介護をするべきだった」や「生前に可愛がられていた」などと口論が発展してしまう可能性は大いにあります。

このようなトラブルを防ぐため、親の介護をしていた兄弟姉妹がいる場合は、相続の発生前から「寄与分」の請求が認められるかどうかを判断し、兄弟姉妹間で建設的な話し合いを行う準備をしましょう。寄与分の説明として、民法904条の2では以下のように記されています。

 

「1.共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」

 

難しい言葉で書かれていますが、つまるところ、被相続人の事業の手伝いや医療看護などを行ったことにより、被相続人の財産を維持または増加に貢献した相続人には、その貢献に応じて法定相続分に寄与分を加えた財産を取得させる、ということです。

これには子が親の介護を行っていた場合も含まれますが、寄与分が認められるためには、介護をしたことにより付き添い看護の費用が節約できたなど、財産の維持または増加に貢献する必要があります。したがって、通常の親子関係で行われるようなお世話や、病院への見舞い等では寄与分は認められません。

 

本件のような場合では、親の介護を行なっている子は寄与分を主張できる条件や証拠を集め、寄与分を取得できるようにしておくことがその後予想される問題への対策となります。

 

 

事例③ 行方の分からない兄弟姉妹がいる場合

行方が分からない、もしくは連絡先の分からない兄弟姉妹がいる場合は、相続トラブルが起こりやすいめた注意が必要です。

例えば、父が亡くなり、母と長男、次男の3人が法定相続人となるケースを考えてみましょう。

 

母と長男で葬式などを終え、いよいよ遺産整理や遺産分割などを行おうとしているところです。母は次男に連絡を取ろうとしますが、次男は数年前、連絡先を誰にも伝えずに実家を出て行ってしまい、それきり音信不通状態でした。次男がどこに住んでいるかも分からず、連絡を取る手段がないものの、父の遺産がなければ母の生活が苦しくなってしまうため、次男には内緒で2人だけで遺産を分け合うことにしました。

しかし、それから数ヶ月後、父の死亡を知った次男から連絡が入り、「自分にも相続権があるのだから、財産を相続したい」と主張してきました。

 

法律上、遺産の分割は相続人全員で行わなければならないため、他の相続人に内緒で勝手に分け合うことはできません。今回の場合、連絡が取れなかった次男が悪いように見えますが、実際は遺産を勝手に分割してしまった母と長男に非があることになってしまいます。

 

しかし、法律で決められているからと言って、2人が次男の主張をすんなりと受け入れてくれるでしょうか?

母や長男から見ると次男は「相続に協力的ではない人」、次男から見て2人は「自分に内緒で父の遺産を山分けした人」として、お互いに不信感がある状態です。

もちろん、両者が冷静になって話し合いを進めることができればそれに越したことはありませんが、このような状況では口論になってしまう可能性が高いのは、容易に想像できるかと思います。

 

このような場合は、弁護士などの相続の専門家に依頼しましょう。数々の相続事例を見てきた専門家に依頼することで、トラブルに発展する前に話し合いをまとめることができます。

また、連絡の取れない兄弟姉妹がいると分かった段階で、相続人調査を依頼し居住地を特定しておくことで、相手の都合による勝手な遺産分割を防ぐことができます。

 

 

事例④ 不公平と思う内容の遺言書がある場合

遺言とは、亡くなられた方(被相続人と呼ばれます)が主として自分の財産の取り扱いについて記す手紙のようなものです。遺産相続においては、「法定相続よりも遺言による相続は優先される」という大原則があります。

例えば、遺言に「全財産を妻に相続させる」を書かれていた場合は、原則としてその通りに遺産分割することになります。

しかし、上記のような遺言については、妻以外の相続人がいた場合、その方たちの法定相続人としての権利と利益を侵害してしまっていることになるため、民法には特定の法定相続人の相続分を最低限保証する「遺留分」という規定があります。

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の財産取得割合です。遺留分を侵害された法定相続人は、他の相続人に対して遺留分を請求し、自分の相続分を確保することができるのです。

 

ここである兄弟姉妹間について遺産分割に偏りのある内容の遺言書が存在した場合を見ていきましょう。

例:父が3,000万円の預貯金を残して亡くなり、法定相続人は長男と次男の2人のみのケース

 

親族一同で葬式などを終え、遺産を整理しようと父の部屋を調べていると、「遺言書」と書かれた封筒が見つかりました。検認などの手続きを終えて内容を確認してみると、そこには「預貯金3,000万円を全て長男に相続させる」という内容が記されていました。これを見た長男と次男は次のように感じました。

長男「父の意思で書かれた遺言だから、父の気持ちを尊重したい。」

次男「なぜ自分は財産を貰えないのか分からない。遺留分を請求して、少しでも財産を相続したい。」

 

長男と次男が冷静に話し合いを行った結果、お互いに尊重しあい父親の意思も兄弟の関係も尊重し合える結論が見つかれば良いのですが、財産やお金にまつわる問題は、どんなに仲の良い兄弟にとっても、その関係を崩す引き金になり得るのです。今までの境遇、その時の感情、長年の蓄積による絡み合った複雑な心境から激しい口論となってしまう可能性は十分にあります。また、相続が終わった後になっても関係が修復できず、円満な家族・親族関係が壊れてしまうケースもあるのです。

 

遺留分は法律で定められている権利ですので、遺留分請求をされてしまうと相当額の支払いが必要になります。長男側は、遺留分請求があるものとして、それに対応できるだけの現金を準備しておくと良いでしょう。また、兄弟間で話し合いができるうちに、父の意思や遺言に込められた気持ちなどを丁寧に説明し、次男に理解してもらうのも1つの手段です。遺留分を支払う場合でも、双方で話し合って、金銭的な着地点を探ってみましょう。

なお、遺言を残される方が生前にできる対策として「付言」というものがあります。付言とは、遺言書に自分の気持ちを記すことです。「遺言を書いた経緯」や「なぜそのような遺産分割にしたのか」などご自身の気持ちを書き残しておくことで、手紙の受け取り手である相続人が遺言の内容に納得してくれる可能性が広がるのです。

 

 

事例⑤ 兄弟姉妹に配偶者がいる場合

親が亡くなり相続が発生したとき、法定相続人ではない「兄弟姉妹の配偶者」が話に入ってくることで争続へと発展してしまうケースがあります。例えば、父が3,000万円の預貯金を残して亡くなり、法定相続人が長男と次男の2人のみのケースを考えてみましょう。

 

長男と次男は、2人で協力して父の葬式を終えたところです。父の財産をどのように分けるかを話し合った結果、いったんは半分の1,500万円ずつ分け合うことで納得しました。

しかし、その数週間後、特に接点のなかった長男の妻が出てきて「私たちは生活に困っているからもっと多くの財産をもらいたい」「次男は独り身なのだから、結婚している私たちに財産を譲るべきだ」と主張してきたのです。

 

本件のような場合、兄弟姉妹の配偶者には相続権がありません。そのため、長男の妻が相続分に口を出してきたとしても、本来それに従う必要はないのです。しかし、配偶者からすると権利はないと承知はしているものの、遺産分割による金銭的な話しは今後の夫婦・家族生活に直接的に関わってくるため、遺産分割に敏感になってしまうのは仕方がないことかもしれません。

また、妻の主張により長男の気持ちも変容し、「やっぱり半分ずつではなく、もう少し自分の取り分を増やしてくれないか」と主張される可能性もあります。このようになってくると、長男の妻と次男の争いから、もともとは問題が生じていなかった長男と次男の争いに発展してしまう可能性も十分に考えられますので、遺産分割の際は本来の相続人だけではなく、広い意味での関係者についても考えを巡らせておく必要があるといえます。

 

本件のごとく相続権のない兄弟姉妹の配偶者が相続に関わってきている場合、弁護士など相続の専門家に介入してもらうのが、最も有効な手段となります。専門家に介入してもらうことで、法律や実例に基づいた冷静な話し合いが実現できます。

近い間柄であればあるほど一度こじらせてしまった関係性を元に戻すには大変な苦労が生じるものです。大きな問題に発展する可能性がある場合には、早めの専門家への相談をご検討いただければ幸いです。

 

 

まとめ

今回は、兄弟姉妹がいる場合に考えられる「争族」問題について事例を交えて5つ考えてまいりました。

相続発生時などお金が絡む問題に直面したとき、お互いの思いの違いから「争続」へと発展してしまうケースは珍しくありません。

あなたの家族やあなた自身が相続トラブルに巻き込まれないためには、相続トラブルの原因を知っておくことと、トラブルを未然に防ぐ対策をとっておくことが大切と考えます。

これから先に起こるであろう相続に関して少しでもご不安がある方は、一度専門家へご相談してみてはいかがでしょうか。

また、既に相続の当事者となられている方であっても、早めに相談されることにより多くの選択肢が残されている場合がありますので、

あきらめず、より皆様にとって円満な相続ができるよう一度ご相談いただければ幸いです。

 

執筆:山形 麗 まとめ:山中学

 

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