認知症などを理由に判断能力が低下した場合、ご本人に代わって財産や契約の管理・身の回りの監護などを進めていくためには「成年後見人」が必要となる場合があります。
成年後見人は3つの種類があります。家庭裁判所へ申立てを行う必要があり、手続きは複雑です。また、相続時には2つの視点から対策を検討しておく必要があります。そこで、この記事では成年後見人をテーマに、「相続人となった場合の注意点」や「成年被後見人が亡くなった場合の相続時の注意点」の2つの視点から詳しく解説します。
成年後見制度の概要
成年後見制度とは、平成12年4月1日からスタートしたもので認知症や精神障害、知的障害などを理由に判断能力が十分ではない方を保護し、財産管理や身上監護を行うための制度です。
成年後見制度は以下のように分類されています。
・家庭裁判所が選ぶ「法定後見」
・あらかじめ判断能力の低下に備えて本人が任意で後見人を選ぶ「任意後見」
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法定後見のしくみ
一般的に広く知られている「成年後見人」とは法定後見を意味します。法定後見には3つの種類があり、以下のように分類されています。
後見人と比較すると、保佐人・補助人に与えられる権限は限定的です。
申立てができる人
成年後見制度の利用が必要な場合には、家庭裁判所への申立てが必要です。申立ては誰でもできるものではなく、下記の方に限定されています。
・本人
・本人の配偶者
・本人の4親等以内の親族
・成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等
・市区町村長、検察官
すでに認知症などで判断能力が低下しているケースでは、本人による申立ては事実上難しいため、ご家族からの申立てが一般的です。
成年後見人になれる人
成年後見人は特別な資格を要するものではないため、ご親族や福祉の専門家、弁護士・司法書士・行政書士などの法律の専門家も選ばれています。
成年後見人は本人のご家族の希望した方が、必ずしも選ばれるわけではありません。家庭裁判所が適任とする方が選ばれます。
■成年後見人になれない人とは
成年後見人に慣れない人は民法第847条で定められています。
・未成年者
・破産者
・行方不明者
・過去に成年後見人に選ばれたことがあるが、家庭裁判所に解任されたことがある方
・過去に被後見人に訴訟を起こしたことがある方(その配偶者や直系血族含む)
成年後見制度には問題がある?
成年後見制度は近年ニュースで話題になることが増えています。利用を開始すると、原則辞められないこの制度は、以下に挙げられる問題点が浮き彫りとなっており、近年制度の見直しが必要という声が広がっています。
成年後見人の不祥事
成年後見人による不祥事が多発しており、制度そのものへの不信感を招いています。例として、2024年5月には福岡県弁護士会に所属していた弁護士が成年後見人として管理していた口座から547万円を横領したとして、福岡地裁「制度への信頼揺るがす悪質な犯行」として懲役2年(執行猶予3年)という有罪判決を受けました。
また、2024年9月には広島県弁護士会に所属する弁護士が成年後見人等の口座から1億円を横領していたとして逮捕・起訴されています。
こうした度重なる不祥事から、本制度への疑問や不安が噴出しています。
※参照:NHK 福岡NEWS WEB 2024年5月28日 業務上横領の罪に問われた元弁護士に執行猶予つき判決 地裁
※参照:時事通信ニュース 2024年8月20日 1億円横領容疑で再逮捕=成年後見人の弁護士―広島地検
資産運用ができなくなる
被後見人の財産は、成年後見人が善良な管理者として注意しながら管理する義務があります。つまり、被後見人のご家族であっても自由に動かせなくなります。元本割れのリスクがある投資などへ資産を運用させることはできません。
投資信託、株式投資、先物取引などを利用して将来の資産運用をすることはできないため、不自由に感じてしまうご家族も多いのです。
被後見人の家族と相性が合わずトラブルになる
成年後見人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されることがあります。
弁護士や司法書士とご家族との関係が、必ずしも良好ではないケースもあります。成年後見人は初回報告や家庭裁判所に対して原則1年に1度、現在の管理状況等を報告する義務があります。
成年後見人は報告にも備えて厳しく資産の管理をチェックしていますが
報酬が発生する
成年後見人に対しては報酬も発生します。家庭裁判所が定める基本報酬は月額で約2~6万程度で、通常の財産管理等以外の業務に対しても報酬が別途発生します。被後見人の財産が多いと、月額の報酬も高くなります。
報酬は「被後見人の財産」から支払われるためご家族の負担はありませんが、成年後見人は選ばれると原則途中でやめることができないため、後見業務が長期間に及ぶとその分報酬による財産の減少も重く感じてしまうでしょう。
成年被後見人が相続人になった場合の注意点
成年被後見人が相続人になった場合、一般的な相続手続きとは異なる注意点が生じます。今後相続を迎える可能性がある方も、今成年後見人がいるご家庭で相続に直面した方も、ぜひご一読ください。
遺産分割協議は成年後見人が行う
被後見人は判断能力が低下しているため、大切な財産を相続するための話し合いである遺産分割協議は、成年後見人が行います。なお、成年後見人も相続人の場合は利益相反となるため特別代理人が必要となります。つまり、通常の相続時よりも複雑な手続きを要するため、時間がかかってしまうことがあります。
財産の処分などについては家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が遺産分割協議に参加することは、裁判所の許可を得る必要がありません。しかし、法定相続分の確保で得た財産を処分せざるを得ない場合、居住用不動産処分であれば家庭裁判所に許可を、それ以外は報告をする必要があります。
遺言書の作成などの相続対策は不可
被後見人の相続に備えてあらかじめ遺言書を作成したいと思っても、すでに判断能力が低下している状態のため、被後見人の遺言書を作成することができません。たとえ相続税の節税のために贈与をご家族が検討しても被後見人の財産を贈与しておくこともできません。
成年被後見人が死亡し相続が発生した場合の注意点
成年被後見人が死亡した場合は相続が発生しますが、こちらの手続きにも注意点があります。詳しくは以下の2点です。
相続手続きは成年後見人ではなく相続人が行う
被後見人が死亡した場合の相続は、成年後見人ではなく相続人が手続きを進めます。死亡したら成年後見業務が終了するためです。被後見人の財産は成年後見人が家庭裁判所へ終了報告を行い、相続人へと引き継ぎがなされます。
財産の引継時はこれまでの財産の管理状況や収支計算などをすべて完了させた上で引き継がねばなりません。計算が誤っていると相続トラブルや成年後見人による使い込みが疑われてしまうため、慎重に行う必要があります。
成年後見人は後見終了の手続きが必要
成年後見人は後見終了の手続きを進める必要があります。ただし、死後にすぐ対応するべき事案があれば、一部の手続きは成年後見人が行うことも可能です。
・相続財産の簡易的な保全
・火葬や埋葬に関する手続き(家庭裁判所による許可が必要)
後見終了時は、死亡後管理の計算は管轄の家庭裁判所で定められた期日以内に行い家庭裁判所と相続人へ報告します。家庭裁判所には死亡連絡の際に死亡記載のある戸籍または死亡診断書の写し、後見事務終了報告書などを提出しなければなりません。最後に成年後見終了の登記手続きを申請します。
まとめ
今回の記事では、成年後見人の制度の問題について相続の視点から詳しく解説しました。近年成年後見人は問題点に注目が集まっており、制度の利用に慎重な方も増えているでしょう。成年後見制度を利用している方の相続は、相続人・被相続人のいずれのケースであっても、一般的な相続手続きより複雑になるため、注意が必要です。
判断能力の低下に備えてご自身の財産を柔軟に管理・運用したい場合には、元気なうちから早めの遺言書作成や贈与などの相続対策の検討もおすすめです。また、任意後見制度なら、ご自身で後見人を選べます。
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執筆:岩田いく実
監修:おがわ司法書士事務所 小川直孝 司法書士