高齢化が進む日本社会では、認知症の発症が現実的なリスクとなっており、それに伴う資産管理や相続対策がますます重要になっています。認知症を発症すると、本人が適切に資産を管理することが困難になり、結果として家族や相続人が苦労するケースも増えています。

 

その中でも、家族信託は、認知症の方の財産が凍結されるリスクを回避するための有効な手段として注目されています。ただし、家族信託は委託者の判断能力が前提となるため、認知症発症後に利用できるかどうかは、状況により異なります。

本コラムでは、認知症発症後でも家族信託が契約できるか、また成年後見制度との違いについて詳しく解説していきます。財産管理や相続をスムーズに進めるための準備として、家族信託を検討されている方に役立つ情報を提供します。

ぜひご一読ください。

 

家族信託は認知症発症後に利用できるのか?

家族信託は、委託者が信頼できる受託者に財産管理を任せる制度であり、認知症による資産凍結を防ぐために非常に有効です。しかし、この制度は委託者が契約内容を理解し、意思表示ができることが前提となるため、判断能力を失った場合には契約を締結することができません。つまり、重度の認知症になった後では、原則として家族信託は利用できなくなります。

とはいえ、認知症になったからといって、即座に家族信託が不可能になるわけではありません。軽度認知症(MCI)の段階であれば、判断能力がまだ残っている場合があり、家族信託契約を結ぶことが可能です。公証人や専門家の立ち会いのもと、契約内容を理解し、意思表示ができることが確認されれば、軽度の認知症でも家族信託を活用することができます。

 

判断能力の確認方法

家族信託を利用するためには、契約を結ぶ時点で委託者の判断能力が確認されなければなりません。その判断は、通常、医師の診断書や認知症テストの結果に基づきますが、最終的な判断は公証人によって行われます。公証人は、契約内容が理解されているかどうかを以下のポイントで確認します。

  • 氏名、生年月日、住所を正確に答えられるか
  • 契約書に署名できるか(身体的な制約がある場合は例外あり)
  • 契約の内容を理解し、どの財産を誰に託すかを把握しているか

これらの条件を満たしている場合、軽度の認知症であっても家族信託の契約が可能となります。逆に、これらの条件を満たしていない場合は、成年後見制度など他の手段を検討する必要があります。

 

成年後見制度との違い

もし認知症が進行し、家族信託が利用できなくなった場合、成年後見制度を活用することが選択肢となります。成年後見制度は、認知症などで判断能力が著しく低下した人の財産を保護するための制度で、家庭裁判所が選任する後見人が財産管理を行います。

成年後見制度には、後見人にすべての財産管理を委ねるための「後見」と、部分的に支援を受ける「保佐」や「補助」があり、本人の状態に応じて適用されます。しかし、この制度には以下のようなデメリットもあります。

  • 財産管理に制約が多く、自由度が低い
  • 相続税対策や投資運用が難しい
  • 後見人に専門家が就いた場合、月額報酬が発生する

これに対して、家族信託は契約内容を柔軟に設定でき、財産管理の自由度が高く、相続税対策や投資運用も可能です。また、成年後見制度とは異なり、信託の受託者に対する報酬が不要な場合が多いため、長期的なコストも抑えられます。

 

成年後見人制度に詳しく知りたい方はこちらのコラムをご参照ください。

おひとりさまの終活 成年後見制度と死後事務委任契約の違いとは?【相続コラム】

 

家族信託のメリットとデメリット

それでは、家族信託のメリット・デメリットをみていきましょう。

 

家族信託のメリット

財産管理の自由度が高い

家族信託では、契約に基づき財産の管理や運用を柔軟に行うことができ、相続税対策や投資運用も可能です。

月額報酬が不要

成年後見制度と異なり、家族信託では受託者に月額報酬を支払う必要がない場合が多く、コストを抑えることができます。

二次相続に対応できる

家族信託では、次の世代への財産承継も計画的に行うことが可能です。受益者を二次相続以降まで指定することで、長期的な財産管理が実現できます。

家族信託のデメリット

契約のための初期費用が高い

家族信託の契約には、初期費用として専門家に依頼する際の費用が発生します。ただし、長期的には成年後見制度よりもコストを抑えられるケースが多いです。

法的な代理権を持たない

受託者は財産管理を行いますが、成年後見人とは異なり、法的な代理権を持ちません。そのため、本人に代わって契約を結ぶことができるわけではありません。

親族間のトラブルリスク

家族間で財産を託す相手を選ぶ際に、親族間でトラブルが発生する可能性があります。家族信託を利用する場合は、事前に家族内での合意や理解が重要です。

 

まとめ

家族信託は、認知症による財産凍結を防ぎ、柔軟な財産管理が可能な制度ですが、契約には委託者の判断能力が必要です。軽度認知症の段階であれば契約が可能な場合もありますが、できるだけ早い段階での検討が推奨されます。認知症が進行してしまった場合には、成年後見制度を利用する必要があり、その際は財産管理に制約が生じることに注意が必要です。

財産管理や相続に関して不安を感じている場合は、早めに専門家に相談し、適切な対策を講じることが大切です。家族信託の利用を検討することで、安心して老後を迎える準備ができるでしょう。

一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、家族信託についてのご相談を受け付けております。お悩みの方は、ぜひお問合せください。

 

執筆:成田春奈