「遺言書には付言事項があると聞いた。どのような内容を記載できる?」

「遺言書を作るにあたって、付言事項の注意点を知りたい」

「付言事項にまつわるトラブルはある?」

 

遺言書を作る際には、「付言事項」に何を記載するのかじっくりと検討することがおすすめです。付言事項とは遺言者の思いを示すものであり、相続トラブルの回避にもつながっています。そこで、この記事では付言事項について、記載例や注意点を詳しく解説します。

付言事項とは|法定遺言事項との違い

付言事項とは、遺言書の中でどのような意味を持つのでしょうか。この章では付言事項の概要や、法的遺言事項との違いなどを詳しく解説します。

付言事項の概要

遺言書の中には、法的な効力がある「法定遺言事項」と効力がない「付言事項」があります。付言事項は自由に記載でき、残される家族への感謝や、遺言内容を決めた理由などを書き残すことが可能です。一般的に法的遺言事項への「補足」として書くことが多いでしょう。

法定遺言事項との違い

法定遺言事項に書ける内容は民法で定められており、付言事項のように自由に書けるものではありません。主に以下の内容が該当します。

・相続分の指定(民法902条)

・遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止(民法908条)

・子の認知(民法781条)

・祭祀を承継する祭祀主宰者の指定(民法897条)など

この他に、生命保険金の受取人の指定や変更、遺言執行者の指定なども法定遺言事項の中で行うことが可能です。

法定遺言事項の中で遺産分割内容について相続人間で大きく偏りがある内容にした際には、付言事項を用いて偏りが生じた理由(例・介護や扶養などへのお礼)を書いておくことがおすすめです。「どうして私は財産が多くもらえなかったんだろう…」など、いろいろな思いが残ってしまうと、相続人間で揉めてしまうおそれがあります。

付言事項の有効活用方法とは

法的効力のない付言事項を有効活用するためには、「相続人間のトラブル防止」を心掛けることがおすすめです。法的な効力がない分、自由に書けますが「一体何を書いたらいいのかわからない」という方も少なくありません。有効活用するためにも、法律の専門家のアドバイスをもらってから、相続人間のトラブルを防止する観点で書いてみましょう。

付言事項は自分で書く必要がある?

付言事項は自筆証書遺言の場合「自書」する必要があります。公正証書遺言は公証人が記載しますが、自筆証書遺言は財産目録以外の本文については民法968条により、自書で記載すると定められているためです。

なお、自筆証書遺言は法務局で保管した場合を除き、家庭裁判所における検認が必要であったり、紛失などのトラブルが起きやすい遺言方法のため注意しましょう。

付言事項を記載してみよう!実際の記載例とは

実際に付言事項を記載すると仮定し、この章では記載例や記載のポイントを解説します。

思いを込めてわかりやすく記載

付言事項は残される方へのお手紙のように、思いを込めてわかりやすく書くことがおすすめです。内容は家族に限らず、内縁の方や団体など遺贈先への思いなども記載できます。

署名・捺印箇所の前に入れることが多いですが、遺言書内の記載場所や順序などに定めがあるわけではありません。

 

たとえば、兄弟間で相続分が大きく異なるケースで家族への感謝をつづっておきたい場合は、以下のような内容で書いてみてはいかがでしょうか。

■記載例

長年私と亡妻の介護をささえてくれた長男●●、ありがとうございました。入通院や家事も一生懸命支えてくれたことへ感謝の気持ちを込めて預貯金と同居してくれた家、土地を残します。他の兄弟は理解してくださいね。

このような内容だと、長男に財産を多く残した理由が明確です。

相続人などへの非難は控えること

遺言書を作るにあたっては、日頃から悩んでいたことなど付言事項を使って打ち明けたいと思う方もいるでしょう。

介護に非協力的だった、長年疎遠だった家族がいる、などの理由で非難を込めて書きたくなったとしても、その内容をきっかけに残された家族同士で言い争いに発展するおそれがあります。否定的な内容の記載は遺言内容を巡るトラブルにもつながるため、できる限り記載しないことがおすすめです。

付言事項による思わぬトラブルとは?

家族への思いを託す付言事項は、上手に活用することで円満な相続につながりますが、予期せぬトラブルもあります。そこで、この章では付言事項をきっかけとしたトラブル事例を紹介します。

相続人間の対立をあおってしまう内容を書いた

付言事項は「誰に、どのような財産をあげるのか」を決めた理由について書くことができます。しかし、相続人間の対立をあおってしまう内容を記載するとトラブルになる可能性があります。

■記載例

同居していた長男の嫁が冷たかったので、長男に財産は残しません。代わりに仲が良かった次男に財産をあげます。

 

■記載例

私と長男とは長年仲が良かったが、大学まで行かせたのに次男とは音信不通である。長男にすべての財産を与え、次男には何もあげないことにします。

 

このような内容を書いてしまうと、長男と次男の間で喧嘩になってしまうおそれがあります。特に偏った内容の遺産分割を伝えたり、遺留分を侵害する内容の遺言には、もらえない側に理解を求める文章を残すなどの工夫をし、トラブルにならないようにしましょう。

高額の贈与を匂わせる文章を書いた

遺言書は相続税申告が必要となった場合には、添付が必要です。つまり、遺言書の中身も税務署は読むことになります。この際に、付言事項の中で高額の贈与について書いていたり、名義預金の存在を思わせるような記載があると、税務署としては疑問を感じてしまい税務調査を検討するおそれがあります。

 

例・「生前に学費や子育て資金など、たびたび長女●●にはたくさんのお金をあげてきたので、遺産は長男●●に与えることにします。」

 

例・「介護のお礼に、遺言書には書いていない長女●●名義の預金通帳があります。大切に使ってくださいね」

 

相続税申告に上記で書かれた内容が見当たらない場合、税務署としては申告漏れを指摘する可能性が高いでしょう。特に名義預金は税務署が注目しがちです。誤解されないためにも、付言事項の記載内容は慎重に検討したいところです。

誰に向けた文章なのかわからない

税務調査などに発展するものではなくても、誰に向けたものかわからない文章が付言事項内に記載されていると、残された相続人には解けない疑問として残されてしまいます。たとえば、家族が知らない方へのメッセージが託されていても、家族としてはどうにもできず、心にモヤモヤが残ってしまいます。

 

付言事項は自由な記載が可能であっても、残される方に配慮した内容であることが望ましいでしょう。

まとめ 遺言書作りは専門家のアドバイスを受けよう!

この記事では、遺言書の中に記載できる付言事項について、有効活用の方法や記載時の注意点について詳細を解説しました。自由に記載できる付言事項であっても、残される方への配慮を尽くした内容に留めておくことがおすすめです。また、税務調査などのトラブルを防ぐためにも、お金に関する記載は専門家に相談をした上で書き残しましょう。

一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、相続のさまざまな悩みをサポートしており、遺言書作成に関してのご相談にも対応しています。法定遺言事項や付言事項に関しても、適切なアドバイスを行っていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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執筆:岩田いく実

監修:おがわ司法書士事務所 小川 直孝 司法書士