相続はプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も引き継ぎます。では、被相続人に生前借金があった場合には、相続にどのような影響があるでしょうか。また、親族や友人など、個人間で貸し借りがあった場合にはどのような影響を及ぼすでしょうか。今回の記事では相続時に気になる「借金」や「個人間の借金」に焦点を当てて、詳しく解説します。

 

相続財産に借金がある場合の注意点

 

被相続人が遺した相続財産の中には、現金や預貯金のようにプラスの財産だけではなく、住宅ローンなどのマイナスの財産が遺されていることもあります。家族が知らなかった借金が相続開始後に発覚することも多く、相続財産の調査は慎重に行う必要があります。では、相続財産に借金がある場合には、どのような注意点があるでしょうか。

 

借金も相続の対象

 

相続はプラス・マイナスを問わずに承継する必要があります。住宅ローンなどの債務だけを放棄し、預貯金や有価証券は相続する、といった方法は選択できません。もしも高額の借金をどうするべきか悩んだら、以下の2つの方法を検討しましょう。

 

1.相続放棄とは

 

高額の借金を相続せざるを得ない場合、「相続放棄」をすれば相続はしなくてもよくなります。ただし、相続放棄はプラスの財産も含めて一切を放棄するため、被相続人名義の建物や土地なども相続できなくなってしまいます。

 

相続放棄は相続の開始を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。自動的に放棄できるわけではないため、家庭裁判所に申立てを行い、放棄を認めてもらう必要があります。

 

参考:“相続の放棄の申述”裁判所ウェブサイト(参照:2023.10.20) 

 

2.限定承認とは

 

限定承認とは、プラスの相続財産を限度に、マイナスの財産も相続することを意味します。相続放棄とは異なり、借金も相続する代わりに、プラスの財産も確保できる方法です。

 

限定承認も相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に手続きを行う必要がありますが、相続人全員の同意が必要であるなど、相続放棄よりも複雑な手続きを要します

 

参考:“相続の限定承認の申述”裁判所ウェブサイト(参照2023.10.20) 

 

親族や友人からの貸し借りは相続対象となる?

 

相続財産の中にはローンなどの借金も含むと解説しました。では、被相続人が生前に親族や友人との間で貸し借りを行っていた場合、相続の対象となるのでしょうか。

 

親族や友人から借りていた場合

 

親族や友人からお金を借りていた場合でも、借金であるため相続する必要があります。相続財産の調査時に債務者として親族や友人が名乗り出てくる可能性があるためご注意ください。

 

なお、相続財産を計算する際に、親族や友人からの借入であっても相続財産の総額から「控除」できます。

 

親族や友人に貸していた場合

 

被相続人が生前に親族や友人にお金を貸していた場合は、債権が相続人に引き継がれます。

 

たとえば、被相続人が生前に、友人に500万円を現金で貸していたと仮定しましょう。この場合、相続人は500万円を請求できる権利を相続するため、返済を被相続人の友人に対して求めることができます。なお、このような債権は「貸金債権」と言いますが、法定相続分に応じて割ることもできます。

 

上記のケースで、相続人が子2名である場合、250万ずつの貸金債権を継承します。それぞれの立場から、友人に対して250万円の返済を行うように求めることが可能です。

 

■相続人にお金を貸していたら債権の相続はどうなる?

 

では、上記のケースを友人ではなく相続人に仮定してみましょう。被相続人が生前に子1名に対し500万の貸付を行っていました。相続開始後、500万の貸付債権は、子2名に法定相続分どおりに250万円ずつ相続されました。

 

つまり、このケースでは500万円を借りていた子が、250万円の貸付債権を相続しています。このようなケースは「混同」と言い、結論として債権は相殺されるため、もう1名の相続人に対して250万円を返済すればよくなります。

 

親族間の貸し借りは贈与とみなされる?

 

生活資金などのために、親族間や親子間で貸し借りを行うことは一般的によく起きることです。では、完済していない状態で、お金を貸してくれた親族が亡くなってしまった場合には、相続時にどのような注意をしておくべきでしょうか。この章では親族間の貸し借りが贈与とみなされやすい点に注目し、詳しく紹介します。

 

贈与とみなされるケース

 

親族間で貸し借りを行っており、相続時に「贈与」とみなされるのはどのようなケースでしょうか。

 

■被相続人からお金を借りていた子。利子や金銭消費貸借契約書も無く、返済履歴もあいまい。

このようなケースでは、被相続人から子への贈与とみなされるため、相続に影響する可能性があります。たとえば毎月返済をしていても、現金での支払いで返済履歴が分からない、正式な契約書が存在していない場合は、「特別受益」とみなす可能性が高いのです。

 

贈与とみなされないためにできること

 

贈与とみなされないようにするためには、貸し借りの発生時にきちんと印紙も貼った金銭消費貸借契約書を作り、親子間以外の借入(例・金融機関など)と同様に返済期限や利息を設定することが重要です。また、返済計画を作成し、計画通りに返済を続けることで、贈与とはみなされにくくなります。なお、親族間の貸し借りであっても利息が発生し、債務者側が利息を受け取る場合は受け取った利息を雑所得として申告する必要があるためご注意ください。

 

知っておきたい相続した債権の時効

 

被相続人が親族や友人にお金を貸していた場合、相続人は「債権」を相続できるため、債権者として債務者側に返済を求めることができます。なお、養育費の請求権や年金などの受給権など、相続対象にはならない債権もあります。

 

相続できる債権は一般的な売掛金の債権や貸金に関する債権が該当しますが、債権には「時効」があるため請求時には注意が必要です。なお、債権の時効は民法改正により、2020年4月1日以降と以前に分けられます。

 

債権の時効

 

 

行使できると知った日から

権利を行使できる日から

2020年4月1日以降

5年

10年

2020年3月31日以前

10年

10年

※ただし、職業ごとの短期消滅時効あり

 

■債権の時効を防ぐ方法とは

 

債権の時効を防ぐためには、「消滅時効の完成」を防ぐ方法があります。時効は更新(中断)、完成猶予(停止)が可能です。2020年4月1日の民法改正で、時効の中断などは名称が変更されました。時効を防ぐ方法は現在のご状況に合わせて慎重に判断する必要があり、法律に精通した専門家に相談することがおすすめです。

 

・時効の更新(中断)…時効の期間をリセットする方法です。親族や知人からお金を返済してほしい場合は、裁判所上の手続きを行ったりすることで中断(更新)できます。

 

・時効の完成猶予(停止)…内容証明などを使って時効の完成を一旦ストップさせる方法です。

 

生前から親族や友人間の貸し借りは情報の共有を

 

相続人は被相続人の債権を相続し、返済を求めることができますが、親族や友人間の貸し借りは家族も把握していないことが予想されます。その間に時効が進んでしまうと、返済を求められなくなる可能性があります。生前から身近な人とのお金の貸し借りであっても、家族が情報を共有しておくことが理想でしょう。

 

まとめ 

 

今回の記事では、相続時のお悩みに多い「親族間や友人とのお金の貸し借り」について、相続に与える影響の観点から詳しく解説を行いました。被相続人がお金を借りているケースもあれば、貸しているケースもあるため、相続財産の調査の段階で被相続人に生前どのようなお金の動きがあったのか、慎重に調査をすることがおすすめです。

 

相続時に発覚したお金の貸し借りの内容によって、相続放棄や債権の行使などを検討していく必要があります。相続後に親族間や友人とのお金の流れについて、疑問や不安を感じたら、お気軽に一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターにお寄せください。

 

執筆:岩田いく実

監修:おがわ司法書士事務所 小川 直孝 司法書士