株式投資を行っていると、投資している企業の株式が上場廃止になるということがたまに起こります。では相続財産に上場廃止となった株式があった場合、いったいどうなるのでしょうか?

 

実は上場廃止といっても大きく分けて2通りあり、1つ目は買収などによって非上場化する場合、そして2つ目は企業が倒産する場合です。前者の場合は企業価値がなくなるわけではないため、通常は買収した側の会社の株式が交付されたり、上場廃止の際に買収提示価格等で買い取ってくれたりします。ですから相続手続きについては、それほど大きな問題にはなりません。

 

問題は後者である企業倒産などが起こって上場廃止となった場合です。もちろんですが発行会社の倒産によって上場株式が価値を失った場合、基本的にはその上場株式の相続財産としての価値はゼロということになります(ただし厳密に言うと、民事再生などの場合は上場廃止になっても株式価値が残る場合もあることから、注意が必要です)。

 

そして倒産による上場廃止の場合、基本的には「税務上の損失が認識されない」という点にも注意が必要です。

 

なぜなら、上場株式を売却(譲渡)して損失が発生した場合は、その損失は他の上場株式の譲渡益と損益を通算できます(譲渡損を認識できる)。しかし保有したまま上場廃止となった場合は、売却(譲渡)されていないため、基本的には譲渡損を認識できないのです(とは言っても税務署で頑張って交渉すれば譲渡損扱いにしてくれるかもしれませんが・・・)。

 

ただし・・・証券会社で保管されていた上場株式が倒産によって上場廃止となった場合は、以下の3要件をすべて満たしている場合に限り、証券会社から「価値喪失株式に係る証明書」というものが発行され、「みなし譲渡損」という譲渡損失と同様の扱いできるという特例があります。

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  • ① 特定口座内で保有していた上場株式である
  • ② 特定管理口座に移管され、振替口座簿に引き続き記載または記録されている
  • ③ 清算決了等の事実が生じて株式としての価値を失っている

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ただ③の要件が決定するまでには、上場廃止から数年単位の時間が費やされることも珍しくありませんから、倒産イコール即譲渡損扱いとはならないのが現状です。また一般口座で保管している上場株式の場合は、この「みなし譲渡損」の特例は利用できません。

 

ところで被相続人の保有株式に「みなし譲渡損」が適用できる銘柄がある場合、相続人はこの「みなし譲渡損」を相続できるのでしょうか?そこで色々な証券会社に問い合わせてみたのですが、「理論上は相続できそうだが、そのような例に当たったことがないのでなんとも言えない」ということでした。

 

なんせ見かけ上の財産価値はゼロ(倒産企業の株式なので)ですが、株式の譲渡益税を減らすという財産価値があるという不思議な財産?ですから判断が難しく、このような不明瞭な解答になったのでしょう。

 

以上のことを踏まえると、被相続人の財産に「みなし譲渡損」がある場合は、もし可能なのであれば、直接的な財産価値ゼロでも、株式投資を行っている相続人は証券会社に相談して相続しておくべきなのかもしれませんね(重ねて書きますが、この手続きが可能なのかどうかはわかりませんので念のため)。

 

それはともかくとしても、通常の株式投資において、倒産の発表がなされた場合には、わずかの価格でもよいのでとりあえずその銘柄を売却(譲渡)さえしておけば、それは立派な譲渡ですから、当年の損益通算に利用できます。実は倒産した企業の株でも投機狙いで購入する人がいるため、株価自体は形成されることも多く、売却できることが多いのです。

 

ちなみに2003年に経営破綻した足利銀行(あしぎんフィナンシャルグループ)の株などは経営破綻後の株価1円から20円くらいまで大暴騰し、それで儲けた投機家がお金をテレビ塔からバラまいたという事件がありました。もちろん最終的にはあしぎんの株式は紙くずになりましたが・・・

 

まあ色々と書きましたが、基本的には財務内容の悪い企業に投資するのは避けた方が無難です。譲渡損を認識しようがしまいが、投資家からしてみたら投資した株式の財産価値がゼロになって大損することに変わりはありませんからね。

 

※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp

 

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