以前に当コラムでご紹介させていただきましたが、相続が発生した際における上場株式の相続税評価額は、以下の4つの中から最も低い価格で評価することが認められています。

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  • ① 相続(死亡日)・贈与日の最終価格
  • ② ①の属する月の平均価格
  • ③ ①の属する月の前月の平均価格
  • ④ ①の属する月の前々月の平均価格

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では上記のルールに則って、相続人がA企業の上場株式を相続したと仮定します。その際のA企業の相続税評価額は5000円、相続した株数は300株でした。

 

そしてこの相続人がA株式を6000円で売却した場合に、手取額はいくらになるでしょうか?上場株式の売却時にかかる税金は利益額の20%、証券会社の手数料等はゼロであるとします(厳密には譲渡益税は20.315%)。

 

この時に相続人がA株式を手に入れた価格(相続税評価額)である5000円を買値だと思って1株あたり1000円の利益×300株=30万円の利益が発生したから、支払う税金(譲渡益税)は20%を掛けて6万円と計算する人が結構多いのですが、実はその計算は間違っています。

 

では相続人はA株式をいくらで購入したことになるのかというと、「被相続人が取得した銘柄ごとの買値を引き継ぐ」ことになるのです。つまり相続人がA株式を売却する際には、被相続人の買値を調べておく必要があることになります。

 

例えばA株式を被相続人が2000円で購入していた場合は、6000円で売却できれば1株あたり4000円の利益×300株=120万円の利益が発生したことになり、相続人は120万円×20%=24万円の税金を支払うことになるのです。

 

それではそのことを踏まえて、以下の上場株式を3人の相続人で分けるケースを考えてみます。なお1人の相続人につき、それぞれ1銘柄を選ぶこととします。

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甲株式の被相続人の買値1000円 → 相続税評価額・現在価格3000円

乙株式の被相続人の買値2500円 → 相続税評価額・現在価格3000円

丙株式の被相続人の買値5000円 → 相続税評価額・現在価格3000円

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被相続人は甲株式、乙株式、丙株式をそれぞれ1000株ずつ保有しており、どの株式も現在価格が3000円です。ですから3人の相続人は、甲・乙・丙のどの株式を相続したとしても、3000円×1000株=300万円の財産を相続したという意味で、格別に有利不利は生じていないように見えます。また実際の相続の現場でも、このケースのように時価をベースにして遺産分割協議を進めていきます。

 

しかし各相続人が相続した株式の時価が同じであっても、それぞれが相続した株式を売却・換金する時には、手取額に大きな差が出てしまうのです。まずは甲株式の売却時手取額を計算してみます。

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甲株式の場合

利益額→ (3000円-1000円)×1000株=200万円

税額→ 200万円×20%=40万円

売却時手取額 → 300万円-40万円=260万円

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同様に計算すると乙株式の売却時手取額は290万円となり、丙株式に至っては利益が出ていないため、譲渡益税が0円なので、300万円全額が手取額となるのです(さらに言えば譲渡損を損益通算できるのでなおさら有利です)。

 

つまりパッと見における甲・乙・丙それぞれの「相続時の財産価値」は各300万円で差異がないにも関わらず、売却時の手取額は大きな差が生まれることになるのです。これでは遺産分割の時点で、すでに不公平が生まれているのと同じですよね。

 

つまり複数の相続人が遺産分割協議をする場合において、この「被相続人の買値を引き継ぐ」という制度を知らない相続人は、知っている相続人と比較すると、相続する銘柄の選択時に損をする可能性もあります。そういう意味では是非覚えておきたい知識ですよね。

 

しかし・・・被相続人からしてみると一番大損して苦々しい思いをした丙株式が、相続人にとって一番有利な株式になるというのは何とも皮肉なものです。

 

では被相続人の買値がわからない上場株式を相続してしまい、それを売却する場合には一体どうすればよいのでしょうか・・・?そのお話はまた別の機会に当コラムでご紹介したいと思います。

 

 

※実際には甲・乙・丙それぞれの銘柄における企業業績や経済環境等が株価に影響するため、丙を選べば将来的に絶対甲や乙より売却時に得が出来るというものでもありません。念のため。

 

※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp

 

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