いつかは誰もが経験する可能性のある、相続。しかし、来るべき日に備えて準備を整えている方は決して多くありません。

相続トラブルは資産の多い方にのみ発生する、と感じている方もいますが、実はそうではありません。遺産が少ないケースでも、トラブルとなっているケースは非常に多いのです。

相続がトラブル化し協議が難航すると、家庭裁判所での遺産分割の調停や審判の手続きを進める必要があります。

こうしたトラブルは家庭裁判所では「遺産分割事件」と呼ばれていますが、遺産総額が1000万円以下のケースであっても事件化しているケースは多く、令和3年度の司法統計年報を参照

にすると、遺産が5000万円以下を巡って争う遺産分割事件が全体の8割を占めています。

 

また、遺産を巡って対立するのではなく、家族仲が元々良くなかったために相続人同士で激しく言い争ったり、長年疎遠だった家族が相続人となることで、トラブル化したりするケースも少なくありません。そこで、この記事では「長女」そして「嫁」という立場で相続する際に、気を付けたいポイントについて詳しく解説します。ぜひご一読ください。

 

出典:”令和3年 司法統計年報(家事編)” 裁判所ウェブサイト

https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/597/012597.pdf

(参照2023.7.27)

 

相続トラブルはなぜ起きる?

 

相続トラブルは高額の遺産を巡って家族間がバトルする…こんなイメージがあるかもしれませんが、冒頭に触れたように遺産相続の総額が高額ではなくても、家庭裁判所での解決を求めるケースは多くなっています。では、相続トラブルはなぜ起きてしまうのでしょうか。多くの相続では、遺言書が無いため遺産分割協議を相続人間で行います。相続トラブルとは、この遺産分割協議が難航することで発生することが多くなっています。相続トラブルの一例は以下のとおりです。

 

よくある相続トラブルの一例

 

・家族仲が悪く、相続が始まった後も改善しないため、言い争いになっている

・遺産相続に現金や預貯金など分配しやすい財産が無く、不動産を巡ってトラブルになっている

・被相続人の生前時に、他の相続人よりも介護に貢献していた相続人が財産を多く欲しいと主張している

・被相続人と生前同居していた方の使い込みが疑われる

・相続人の中に、あまり面識のない方がおり、協議が進まない

 

また、遺言書があった場合も、トラブルは起きています。相続人の一部の遺留分が侵害されている場合や、記載内容があいまいであったり、偽造が疑われたりするケースなどです。特に、専門家のアドバイス無く作られた遺言書はトラブルの温床として知られています。

 

相続トラブルを回避するためにできること

 

相続トラブルは上記で挙げたようなケース以外でも、発生してしまう場合もあります。しかし、相続トラブルは予防することが可能です。健康診断や予防接種で病気のリスクを下げておくように、相続トラブルも生前から対策をすることでトラブルのリスク回避につながります。

 

では、相続トラブルを回避するためには、どのようなことができるでしょうか。

 

相続トラブルを避ける方法には、生前から家族間で相続の話し合いを行っておく、財産がどのぐらいあるのか、「財産目録」を作っておくなどの方法が考えられます。いずれ訪れる相続に対して、正しい形の遺言書を作っておくこともおすすめです。

 

では、「長女」と「嫁」という立場にいらっしゃる方は、どのように相続トラブルを回避できるでしょうか。

 

長女だからこそ知っておきたい相続対策とは

 

長女の立場にいる方は、相続対策にどのような準備を進めておくと良いでしょうか。長女は結婚によって生まれた家を離れている方が多く、姓も夫側に変わっている方が多いでしょう。

 

たとえ結婚して、名前が変わっていてもご両親の相続が発生した際には、相続人として相続する権利があります。ご実家を長男が継いでいても、子どもの法定相続分は長男と長女で差異はありません。

 

・子どもの法定相続分…2分の1 

複数人の子どもがいる場合は、2分の1を子どもの人数で分割します。たとえば、父が亡くなり、妻(母)と長男・長女の計3名で相続するなら、以下のような法定相続分が適用されます。

 

・妻…配偶者は常に2分の1

長男…4分の1

長女…4分の1

 

長女は相続できない、と考えている人がいるって本当?

 

地方によっては長男が家の跡を継ぐ習慣が今も残っており、長女は別の家へと嫁いでいるケースが見受けられます。旧民法と呼ばれる古い民法には、「家督相続制度」と呼ばれるしくみがあり戸主となる方がすべての財産を相続していました。戸主は長男であることが多く、長女は結婚と同時に実家側の戸籍から離籍していました。そのため、今も長女は相続できないと考えている方がいるのです。

 

長女が巻き込まれやすい相続トラブルと対策方法

 

長女は結婚で実家を離れている方が多く、両親の介護などを別の兄弟に任せていることがあります。このようなケースでは、以下のような相続トラブルに備えておく必要があります。

 

・ご両親と同居していた相続人が、「寄与分」を主張するケースがある

・ご両親と同居していた相続人が、引き続き実家に住むため不動産の相続を主張する

・別の相続人に手続きを任せきりとなり、何をしたらいいのかわからない

・ご両親との別居期間が長く、遺産相続の総額がいくらになるのか把握できない

 

対策方法

ご両親と別居していた場合、同居していた相続人が介護への貢献による寄与分を主張したり、実家の土地や建物の取得を主張したりする場合があります。もちろん、主張に同意できるなら問題はありませんが、遺留分すらもらえない場合には交渉することも検討しましょう。

 

寄与分は対立を生みやすいため、生前からご両親の介護問題について、介護に必要な費用や相続に関して子の間(兄弟姉妹の間)で話し合っておくことがおすすめです。

 

被相続人と同居していなかった相続人は、遺産総額がいくらなのか把握しにくく、相続手続きや遺産分割協議もどうすればいいかわからない、という事態に陥りやすいでしょう。万が一の事態に備えて自分が何をする必要があるのかも、早めに調べておきましょう。

 

不動産しか財産が無かったらどうする?

被相続人の遺した遺産に、現金や預貯金などがなく、実家の土地や建物といった不動産しかなかったらどうするべきでしょうか。長男が引き続き実家に住む、という場合は以下の方法を検討しましょう。

 

・現物分割

現物分割は不動産をそのまま相続する方法です。複数の不動産があれば、協議を行い納得できる不動産を相続人がそれぞれ取得します。土地の場合は「分筆」できます。分筆とは、1つの土地を複数に割って登記することです。建物は分筆できません。文筆が認められない土地もあります。

 

・代償分割

よくある解決方法が代償分割です。引き続き実家に住む長男が、法定相続分にそって、長女に代償金と呼ばれる解決金を支払います。この方法なら長女は現金、長男は住まいを取得できますが、適切に長女が代償金を得るためには、「不動産の評価」を正しく行う必要があります。

 

・換価分割

不動産が相続人間で不要となる場合は、換価分割と呼ばれる方法での解決も可能です。不動産を売却し代金の分配を行うことで解決を目指します。

 

嫁が巻き込まれやすい相続トラブルと対策方法

 

では、嫁が巻き込まれやすい相続トラブルと対策方法とは、どのようなものでしょうか。嫁が経験する相続は2つのパターンがあります。対策方法と合わせて解説します。

 

1.夫に先立たれた場合

配偶者は常に法定相続人ですが、子どもがいない場合に残された遺産を全部もらえるわけではありません。存命なら、夫の両親も相続人になるからです。舅や姑と、遺産分割協議を行う必要があります。また、前妻との間に子がいる場合、婚外子がいる場合も相続人となるため、普段交流の無い方と遺産分割協議をするケースも少なくありません。また、内縁の妻である場合は相続人になれません。

 

対策方法

夫の死去後に婚外子や前妻と間に子が居たことを知る方がいます。できれば生前の段階から、相続に備えて誰が相続人になるのか、家族間で情報を共有しておくことがおすすめです。また、トラブルに備えて遺言書を作成し、舅や姑との相続もトラブルにならないように準備をすることが望ましいでしょう。

 

内縁の妻の場合、遺言書を使った贈与や生前贈与、特別縁故者とよばれるしくみの活用などの対策方法があります。いずれの場合も一般的な相続よりも複雑な手続きのため、専門家に相談しながら進めることがおすすめです。

 

2.介護をしていた舅や姑が亡くなった場合

舅や姑と同居し、長年介護に貢献してきた嫁も多いでしょう。しかし、舅や姑が亡くなった際に、夫は子であるため相続人になれますが、嫁は血縁関係ではないため相続人になれません。「あれだけ介護で尽くしたのに…」と肩を落とす人もいます。

 

対策方法

相続人ではない、被相続人の親族が介護などに貢献していた場合、「特別寄与」が認められる可能性があります。この方法は相続後の遺産分割協議とは異なり、相続人に「貢献した分のお金を支払ってほしい」と請求を行うものです。協議が難航する場合は、家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申立てすることもできます。長年家族のために頑張ってきた嫁は、相続の際に泣き寝入りすることも多かったですが、こうしたしくみを知っておけば安心です。

 

生前に、舅や姑との関係が良好の場合は遺言書を作ってもらうこと、生前贈与を受けることなども対策方法になります。生命保険の活用も検討できるでしょう。

 

ただし、嫁が遺言書を作らせた、となると他の相続人とトラブルになるおそれもあります。無用なトラブルを防ぐためにも家族がみんなで、相続相談に出向けると良いでしょう。

 

まとめ

 

今回の記事では、「長女」そして「嫁」という立場にいる方が、相続の際に気を付けるべきポイントについて、詳しく解説を行いました。相続は遺産相続の額によらず、思わぬ形でトラブルになることがあります。特に結婚によってご実家を離れた方、あるいは夫の家に嫁いだ方は、相続にしっかりと準備をしておくことがおすすめです。相続開始後に対処するのではなく、生前の段階から相続に関する制度やしくみを知っておくだけでも、トラブルを防ぐ効果があります。

 

本記事をきっかけに、もっと相続に詳しくなりたい、備えたいと感じたら、お気軽にさいたま幸せ相続相談センターにお問い合わせください。

 

執筆:岩田いく実

監修:おがわ司法書士事務所 小川 直孝 司法書士