皆さんこんにちは。

相続コンサルタントの久保田です。

 

賃貸住宅に住んでいる方が亡くなった場合どの様な手続きが必要かご存知でしょうか?

稀に賃借人様の名義変更をせず有耶無耶になっている賃貸借契約をお見かけすることがありますので、賃借人様に相続が発生した際の手続きをご説明します。

 

【賃借人の相続人の立場では】

賃貸借契約の賃借人(借主)が亡くなっても、自然に賃貸借契約が終了するわけでは有りません。

実は賃貸借契約も相続人様が相続する権利(賃借権)なので、相続が発生した後、遺言による名義変更や遺産分割協議が整うまでは賃貸借契約は相続人様共有の権利となります。

そのため、賃貸借契約を引き継ぐ(名義変更)か賃貸借契約の解約の手続きが必要になります。

 

<賃貸借契約を引き継ぐ場合>

相続人様が被相続人様と賃貸住宅に同居していた場合は、賃貸借契約を引き継ぐ方も多いと思います。

一般的な賃貸借契約は借地借家法で賃借人様の権利が強く保護されているので、各種役所での手続きや相続の手続きを済ませて落ち着いてからの手続きでも問題ないことは多いものの、できるだけ早いタイミングで賃貸人様や管理会社様に賃借人様がお亡くなりになられたことをご報告頂くとその後のお手続きもスムーズになります。

基本的には賃貸借契約の賃借人名義を相続人様に変更するために賃貸借契約書を作成し直したり、賃借人名義変更の覚書締結を行います。

厳密には遺産分割協議等を終わらせて、賃貸借契約名義を引き継ぐ方が確定した後に賃貸借契約名義の変更を行うことになりますが、建物賃貸借契約の場合賃借権を登記することはほとんどないので、賃貸人様や管理会社様とのお話し合いの中で決めていただくことになるかと思います。

 

<賃貸借契約を解約する場合>

被相続人様がお一人で賃貸住宅に住んでいた場合、相続発生後に賃貸借契約を解約することも多いと思います。

賃貸借契約を引き継ぐ場合と同様に、賃貸借契約を引き継ぐ相続人様が賃貸借契約の解約手続きを行う必要があります。

一般的な賃貸借契約の場合、解約希望日の1か月前まで(賃貸借契約ごとに通知期間は異なります。)に書面で解約通知を行うことが条件付けされていますので、賃貸人様や管理会社様に連絡して解約通知書の書式や解約手続きの方法をご確認ください。

解約する場合の注意点は、解約日までの未払い賃料やお部屋の原状回復費用のご負担が発生する点です。

お部屋の利用状況や敷金の金額にもよりますが、予想外の出費になってしまうこともありますので、状況によっては相続放棄をご検討頂く必要があるかもしれません。

相続放棄を行うことで賃借権を含めて被相続人様の相続財産すべてを放棄することになりますので、賃貸借契約の解約手続きも対応しなくて良いことになります。

尚、単純に相続放棄手続きをしただけでは証明書は発行されませんので、相続手続きを行う際には相続放棄申述受理証明書を発行してもらう手続きも同時に行っていたくことをお勧めします。

 

【賃貸住宅の賃貸人の立場では】

前述の通りご所有の賃貸住宅の賃借人様がお亡くなりになった場合でも賃貸借契約が自然と終了するわけではありませんので、まずは賃貸借契約を継続するか解約するかを賃借人様の相続人様にご判断頂く必要があります。

 

<賃貸借契約を継続する場合>

比較的手続きはスムーズですが、賃貸借契約を引き継ぐ相続人様に賃料を滞納せずお支払いを継続できる資力や安定した収入があるかをしっかりと見極める必要があります。

そのため、簡易的な名義変更の覚書締結ではなく、初回契約時と同様に申込書類をご提出頂き判断した上で賃貸借契約書の締結し直しが良いと思います。

賃料滞納が発生してしまうと、賃料の督促や明渡しの手続き等別の問題が発生してしまいますので、賃料の滞納リスクの判断は重要なポイントになります。

 

<賃貸借契約を解約する場合>

解約の場合は通常の解約手続きと同様に進めて問題はありませんが、できれば賃借人様(=被相続人様)と解約手続きを行う方(=相続人様)との繋がりがわかる戸籍や遺産分割協議書等賃借権を確認して解約手続きを行う方が正式に賃借権を相続したことがわかる書類を確認していただくことをお勧めします。

あまりないケースだとは思いますが、別の相続人様から勝手に賃貸借契約を解約した等のクレームが発生してしまうリスクが考えられるため、正式に賃借権を相続した方が解約手続きを行ったことを後々説明できるようにしていただくと安全かと思います。

 

<相続人様が相続放棄をした場合>

賃貸借契約を継続・解約の場合と比較して大変な状況になります。

相続人様が相続放棄をした場合、相続権は次順位の方に移りますので、次順位の方に連絡を取り、その方と賃貸借契約を継続するか解約するかを相談することになります。

ただ、次順位の方も相続放棄をしてしまい相続人様がいなくなった場合は、相続財産清算人の申立を行い、選任された相続財産清算人と解約手続きを行う必要があります。

この様な状況となった場合、ご自身での対応は難しいと思いますので、費用がかかったとしても弁護士へご依頼頂くことをお勧めします。

また、この様な状況にならないよう、賃貸借契約締結の条件として保証会社の利用を義務付けるようにしていただきたいと思います。

 

【賃借人様の相続発生によるリスクを軽減するために】

賃借人様の相続人様・賃貸人様それぞれの立場から大まかな手続きの流れをご説明しましたが、賃借人様がお亡くなりになってしまうと、どの様な方向性でも賃貸借契約の手続きが必要になります。

相続人様・賃貸人様どちらの立場も相続が発生した後に賃貸借契約や相続に係る書類の確認を行うとご負担が大きくなってしまいますので、賃借人様はご自身に万が一が発生した際に相続人様がお困りにならないよう賃貸借契約書をわかり易い場所に保管しておく・賃貸人様や管理会社様の連絡先をわかるようにメモを残しておく等のご対応をしていただくと良いと思います。

一方で賃貸人様としては、賃貸借契約締結の際に、保証会社の利用を義務付ける・緊急連絡先として推定相続人様をご指定頂く等すぐに連絡を取れる状況にしていただくと良いと思います。契約締結時だけでなく、更新や再契約の際に都度緊急連絡先の電話番号に変更が無いかをご確認頂くことも重要なポイントだと思います。

また、賃借人様がお亡くなりになってしまった際は、相続人様・賃貸人様でご協力いただきお手続きを進めていただきたいと思います。