将来、相続を予定している方にとって大きな課題の一つが相続対策ではないでしょうか。なぜなら、個々に相続対策のアプローチも異なるからです。実際、相続は財産の大小に限らず、人が亡くなることで開始されます。だからこそ、事前に相続の課題を整理することが大切であり、いざというときに慌てないためにもしっかりと事前準備をしておくことが重要でしょう。

 とはいえ、そもそも相続対策のアプローチが分からないという方もいると思います。そこで、今回は相続対策における有効な手段と準備方法について解説していきます。

 

1.相続プランをつくって整理する

 相続のスタートは課題を知ることです。課題が整理できれば、どのように解決していくのかシミュレーションすることも可能だからです。それから、相続するにあたり、そもそも誰が相続人であるのかを確認することが必要です。その他にも、財産の有無の確認、相続税がかかるのかどうか、こうした全体像をイメージすることから始めましょう。

 そこで有効な手段となるのが、想定される相続プランを作ることです。なぜなら、相続において親族間で遺恨を残すような事態にならないように対策しておくことが大切だからです。そのため、相続には金銭面だけでなく感情面にも考慮したバランスが求められるでしょう。この点において、自分自身で全て決断することも可能な資産運用とは大きく異なるポイントになるはずです。

 また、事前に相続準備をしっかりしておけば、被相続人への感謝の気持ちも高まることも考えられます。つまり配慮のある相続対策の準備は、家族の絆やコミュニケーションの再確認の場にもつながるということです。

このような理由から、相続プランの作成は円滑な相続のための有効な手段といえるのではないでしょうか。次に、感情面と経済面から具体的な相続対策について解説していきます。

 

2.感情面から考える相続

 感情面から考える相続とは、財産を相続させる親の立場と財産を相続する子どもの立場、双方の異なる状況を理解するためのコミュニュケーションが大切です。なぜなら、多くの場合、親と子のホンネは異なることが多いからです。言わなくても分かってくれるという考え方が後の大きなギャップを生む要因にもなるのです。相続をさせる親のホンネとしては、例えば、お金を当てにするような生き方はさせたくないなど、さまざまな思いがあるかもしれません。

 その一方、相続する子どものホンネとしては、相続によって兄弟間で揉め事を起こしたくない、または相続税はできるだけ節約したいという思いがあるかもしれません。こうした意見の違いを理解して相続を家族のテーマとして捉えることが大切でしょう。そのため、相続する財産や生前贈与などは、隠し事をしないで情報をオープンにしておくことが大切です。

こうしたケアをしつつ、揉めない具体策をしては配慮ある「遺言書」が必要ではないでしょうか。また将来、財産を託して財産の活用ができることを考えると「民事信託」という契約書を専門家に依頼することも有効な手段のひとつです。なぜ、民事委託が必要なのかというと、相続をさせる親の意志能力が低下した場合に「後見人」をつけることになります。また「任意後見人」といって、事前に指定がない場合は通常、弁護士がその役割を担うことになりますが、この場合、あくまでも「財産管理」が目的です。そのため遺言書や贈与、あるいは不動産活用などの前向きな対策が一切できなくなります。そのため「遺言書」と「民事信託」がとても重要になってくるのです。

 また、無事に遺言書を作成するとなった場合、いかに「揉めない遺言書」を作るのかも重要です。そのためには、こっそりと遺言書を作るのではなく「公正証書遺言」を作成することで、遺言書を誰が作ったのかを全員に明らかにしておくことが大切です。また、遺産分割自体は平等に分割するのが無難ではありますが、難しい場合は付帯事項を明記しておくことがポイントになるでしょう。なぜなら、相続の悩みのトップは遺産分割といわれており、残念ながら揉める相手は、実の兄弟姉妹が最も多いからです。また、財産が多いから揉めるのではなく、ほとんどの場合、それぞれの主張が対立することで起こります。いつまでもまとまらずに裁判になるケースはお互いが疑心暗鬼になってしまったことも要因です。そうならないように、出来るだけ情報を共有することが重要になるでしょう。

 

3.経済面から考える相続

 次に、経済面から考える相続について考えていきましょう。相続によって財産が減ることをできるだけ避けるためには節税することが必要です。具体的には、財産を減らし、評価を下げることが有効な対策です。気をつけなければならない、よくあるケースとして「土地」と「現金」があるから安心だと考える方がとても多いことです。例えば、土地の場合、かつては土地神話という言葉があったように、土地さえ持っていれば値上がりする時代がありましたが、その常識は現在では崩れています。こうした土地の値下がりリスクから「現金」や「預金」を頼れる財産として残そうと考えている方もいるでしょう。

 実際、2021年に日本銀行が発表した2020年10-12月の資金循環統計によると、個人が自宅で現金を保管するタンス預金が100兆円を突破しています。これは土地でもなく投資でもなく、現金を頼れる財産として位置付けている方が多いからです。また預金についても、相続税がかかったとしても現金があれば払えるので安心していると考える方もいるでしょう。

 しかし、これは本当に合理的な判断といえるでしょうか?なぜなら、低金利時代の今、預金をしていても資産が増えることはありません。いざ相続となった場合、預金にも相続税が課税されるため納税分、資産が目減りしていきます。実際、相続税は無視することができません。

例えば、1億円の現金を1人の相続人が相続する場合の相続税は1,220万円かかります。またその他の申告税などを申告する費用もかかり、仮に残った資産が8500万円だったとすると15%の財産が減少したことになります。そのため、現金だけを持っていても資産は増えないため、不動産などの投資を通じて節税しながら収益を得る方法を検討してみるのも良いでしょう。特に、不動産を軸に考えた場合、下記のような方法が考えられます。

  • ①贈与する

 保有する不動産を配偶書や子どもに贈与する方法

  • ②建物にする

 保有する現金を不動産に変更する

  • ③購入する

 不動産を現金で購入する

  • ④資産の組替

 土地を売却して賃貸不動産に買替える

  • ⑤土地を活用

 土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする

  • ⑥法人を設立する

 賃貸経営の会社を作り資産が増えることを回避する

 もちろん、相続にも様々なケースがありますが、マネーリテラシーを身につける良い機会でもあるのです。これらのパターンをシミュレーションしてみることも相続の準備をする上で有効ではないでしょうか。

 

4.相続後の節税方法

 相続後の節税方法として考えられるのは「財産評価を下げること」と「納税を減らすこと」という2つの組み合わせです。言いかえれば、「財産評価を下げる」とは「申告の評価を下げること」です。特に土地の評価方法は一つではなく、そもそも土地自体も個々で状況が異なります。そのため、減額できる要素を積み重ねていくことで合法的に相続税を安くすることも可能です。また、「納税を減らすこと」の選択肢としては、「配偶者の税額軽減の特例」や「農地の特例猶予」などがあります。実際、相続後の節税には遺産分割、評価や申告、納税などのタイミングで検討できるため、専門家のサポートを受けることも有効な手段でしょう。

 

5.おわりに

 相続の不安や悩みは個々によって異なるはずです。そこで大切なことはなるべく一人で抱え込まないことではないでしょうか。事前に準備さえしておけば、将来の相続についての不安も円満に解消できることも多いはずです。

 また、相続対策だけでなく投資などの資産運用によって資産を育むアプローチも大切です。なぜなら、相続も資産運用もお金を上手に活用していくという共通点があるからです。相続を通じてお金と向き合い、前向きに財産を活用して頂けたらと思います。

 

執筆:鈴木 林太郎

 

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