両親から相続財産を受け取った場合、あなたはどのような選択をされるでしょうか?もちろん、金額によってシチュエーションは異なるものの、いざ相続財産を受け取った場合、もしくは、将来の相続が予定されている場合、知っておいて損がないのが、資産運用ではないでしょうか。

もしも、相続財産をできる限り守りながら運用できるとしたら、貯金との併用など様々な選択肢を持つようになるはずです。そこで今回は、相続財産の運用準備として、具体的は方法について考えていこうと思います。

 

1.資産運用のポイントを整理する

 まずは、資産運用におけるポイントを不確実性と確実性に分けてみると、不確実性は「運用利回り」であり、確実性は「配当利回り」と「長期的な経済成長」に整理することが出来ます。

 「運用利回り」とは、年間何%で資産を運用できたかを表す数値であり、そのときどきの経済市況にパフォーマンスが左右される一方、「配当利回り」とは、一株あたりの年間配当金であるため、株を保有していれば確実に計算できるお金です。

 また、「長期的な経済成長」についてですが、地球規模で見た場合、今後も人口増加を続けるので、それに伴い経済規模が拡大し続けることは確実です。つまり、長期的に経済成長を続けていく前提条件があるかぎり、投資をすることで資産を増やすことは可能であることを意味しています。

 では、次に資産運用における運用利回りを3つのシナリオで考察していきます。

 

2.運用利回り3つのシナリオ

 運用利回りにおける3つのシナリオを考える上で大切なことが、運用にはマーケットの不確実性が伴うことを認識した上でリスクを決定することです。なぜ銀行預金だけでなく資産運用が必要なのか、それぞれのシナリオから検証していきます。

ここでは運用期間を22歳~50歳までの28年間として、現実的に、より早期にFIRE(※)できる運用資産を目指す方が毎月3万円or8万円をさまざまな利回りで運用した場合のシナリオを比較してみます。これは相続した財産をどのように運用するのか検討する上でも役立つはずです。

 

①銀行預金のみで運用利回り年0.01%のシナリオ

【毎月3万円を28年間積立した場合】

積立元本は1008万円、年0.01%の利回りで運用すると1009万円、利益+1万円

 

【毎月8万円を28年間積立した場合】

積立元本は2688万円、年0.01%の利回りで運用すると2692万円、利益+4万円

 

②国内外に分散投資をして運用利回り年4.0%を目指すシナリオ

【毎月3万円を28年間積立した場合】

積立元本は1008万円、年4.0%の利回りで運用すると1853万円、利益+845万円

 

【毎月8万円を28年間積立した場合】

積立元本は2688万円、年4.0%の利回りで運用すると4942万円、利益+2254万円

 

③個別株なども組み入れて運用利回り年8%以上を目指すシナリオ

【毎月3万円を28年間積立した場合】

積立元本は1008万円、年8.0%の利回りで運用すると3746万円、利益+2738万円

 

【毎月8万円を28年間積立した場合】

積立元本は2688万円、年8.0%の利回りで運用すると9989万円、利益+7301万円

 

 このように①②③を比較すると、銀行預金だけに預けておくだけでは、資産は全く増えていきません。超低金利時代の今、運用できる資産があるのに投資をしないことは「機会損失」であり、時間の経過と共に大きな資産の差が生まれる可能性が極めて高いといえるでしょう。

 もちろん、投資にはリスクがつきものであるため、資産運用と銀行預金のバランスがとても重要になるといえます。

 

3.資産運用と銀行預金の考え方

 投資には不確実性が必ず伴いますが、銀行預金には「元本割れしない」というメリットがあります。つまり、銀行預金は、投資のリスクを補う位置付けとして一定のメリットがあります。そのため、ポートフォリオを設計する上で、銀行預金と資産運用とのバランスを考え、資産全体のリスクコントロールをすることがとても重要になるはずです。

 また、年齢やライフスタイルによってもリスクの取り方は大きく異なります。より安全で確実性を優先するなら定期預金という選択肢になってしまうので、その選択だけでは基本的に資産が増えていきません。

 

4.定期預金が高金利であった時代のインフレ

 銀行預金が超低金利時代に突入したいま、昔の定期預金と比較されることがあります。郵便貯金の定期預金の金利も1970年代~90年まで5%~7.5%の利回りでした。しかし、ここで注意しなければならないのが、インフレの上昇率です。物価と同じように利回りが増えた場合、実質的にはプラスにはなっていないからです。

 実際、インフレ率を調べてみると1970年のインフレ率+7.7%(前年比ベース)、1980年のインフレ率+8.0%(前年比ベース)、1990年のインフレ率+3.0%と推移しています。こうした金利とインフレ率の関係は資産運用をする上で大切な感覚です。なぜなら、運用先が高利回りであったとしても、インフレにより物価が上昇していれば、実質的な資産は差額分の増加にしかならないからです。

 特に日本の場合、しばらくインフレ率を考慮する必要がない時代が続いたため、運用で8%稼いだとしたら資産が8%拡大したと同じような意味を持っていましたが、日本経済が右肩下がりの状況を考えたとき、インフレリスクも考慮した方が良いでしょう。

 例えば、相続してFIRE(※)達成するだけの資産がある方や相続した上で将来的なFIRE(※)を目指している方、またとにかく大事に資産運用したい方も、インフレ率が上昇する可能性があることを考えることが大切であり、その上でポートフォリオを構築することを意識しておくことも運用戦略を考える上で重要です。

 

5.インデックス投資をポートフォリオに組み入れる最大のメリット

 では、資産運用をする上で、どんな選択をするべきかというと、それぞれのライフプランによってゴールが異なるはずですが、大半の方にとって長期投資をする場合は、インデックスファンドをポートフォリオに組み入れることで、運用方法のメンテナンスの負担を軽減させることができるのではないでしょうか。なぜなら、インデックス投資の最大のメリットは運用の負担とコストを下げることだからです。

 もちろん、個別株投資がメインの方もいるでしょう。実際、個別株投資によって市場と連動するインデックス投資以上のリターンを得て成功している投資家も沢山存在します。しかし、リスクも大きく、相続した資産を大切に運用したい場合、安易にお勧めすることは出来ません。

 また、「コア・サテライト戦略」という投資戦略もあります。これは運用資産をコア(中核)とサテライト(衛星)に分ける方法です。例えば、コアをインデックスファンドにしてサテライトを個別株にすることで、リスクヘッジをしながら個別株の面白さを享受することができる投資方法です。

 このように、インデックスファンドを組み入れることを基本ルールとしながら、前述した「運用利回り3つのシナリオ」の②や③のリターンを目指すのであれば、相場環境が変化しても市場平均よりも大きく負けるリスクは避けられるはずです。実際、つみたてNISAが始まったときに金融庁が発表した資料によると、海外を含めた分散投資を20年間積立したケースでは、勝率(プラスになる確率)は、ほぼ100%と試算されています。長期にわたって世界経済が成長を続けることを信じられるのなら、ほったらかしながら投資をすることが出来るインデックスファンドはとても効率的で優れた投資先のひとつであり、全世界に投資するインデックスor全米全体に投資するインデックスは有力な選択肢といえるでしょう。

 

6.おわりに

 相続の予定のある方や相続財産を大切に運用したいと考えるのであれば、適切な金融リテラシーを身につけることが大切です。資産運用の方法は無数にあり、個々に答えが異なるはずですが、貯金だけにしておくことは大きな「機会損失」です。

 ぜひ、資産運用によってより豊かな時間を享受して欲しいと願っています。

 

 本文は、勧誘目的ではありません。投資をする際の意思決定は、ご自身の責任において行われますようお願い致します。

 

※FIREとは、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取ったもので、「経済的自立」と「早期リタイア」を意味する言葉です。

 

執筆:鈴木 林太郎