• 「自分が望む遺産分割を実現したい」

    「残される家族には自分の相続で困って欲しくない」

     

    このように考える人は多いのではないでしょうか。多くの場合は、遺言を用意しておくことで解決することができます。

    しかし、ただ遺言を書くだけでは、望んだ遺産分割がされなかったり、遺言を残したにもかかわらず家族が相続トラブルに巻き込まれたりする可能性もあるのです。

    そこで、より実現されやすく円満に相続手続きが進められる遺言を残すために、「遺言執行者」の存在が必要になります。

    今回は遺言執行者について、指定するメリットや指定した方が良いケースについてご説明していきます。

     

    遺言の内容を実現する「遺言執行者」とは?

    遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現するために、財産管理や相続手続きを行う人のことをいいます。例えば、遺言で「〇〇銀行の預金は長男Aに、××の土地は次男Bに相続させる。」と書いたとき、預金口座や土地の名義変更をしますよね。遺言執行者は、主にこのような名義変更などの相続手続きを、相続人を代表して行います。

    そのほかにも、遺言執行者は以下の業務をすることができます。

     

    【遺言執行者の業務内容】

    ・相続人や相続財産の調査

    ・相続財産目録の作成

    ・不動産の名義変更手続き

    ・預貯金の解約・払戻し手続き

    ・株式の名義変更手続き

    ・遺贈

    ・亡くなった人が子の認知をする手続き

    ・相続人の廃除・廃除の取消し

     

    このように、遺言執行者は相続に関する幅広い業務を行うことができます。

    特に、最後の2つは「遺言執行者でなければできない手続き」です。詳しくは後ほどご説明します。

     

    遺言執行者を指定するメリット

    遺言執行者を指定すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。メリットは以下の2つです。

     

    ①スムーズな相続手続きをすることができる

    ②相続人同士のトラブルを防ぐ

     

    メリット① スムーズな相続手続きをすることができる

    遺言執行者は基本的に、単独で相続手続きをすることができます。

    例えば、通常、金融機関で名義変更の手続きをするときは、相続届出書や相続手続依頼書などの書類に、相続人全員で署名押印をしなければなりません。もし、遺言の内容に納得できない相続人がいると、手続きに協力してもらえずにいつまでも名義変更ができないこともあるのです。

    遺言執行者がいると、書類への署名押印も遺言執行者のみで足りるため、このような手続きを1人で済ませることができます。

     

    さらに、2019年7月の法改正により、遺言執行者の権限が強化されました。それにより、改正前はできなかった「不動産の相続登記」、「預貯金の解約・払戻し」の業務ができるようになりました。遺言執行者の立場が強くなったため、遺言執行者を指定するメリットはさらに大きくなったといえます。

     

    メリット② 相続人同士のトラブルを防ぐ

    メリット①でもお伝えしたように、遺言執行者がいない相続では手続きに相続人全員の協力が必要になる場合があります。もし、協力的でない相続人がいたり、遠方にいて連絡が取りにくい相続人がいたりすると、相続手続きが前に進みません。

    特に、相続財産である不動産を売却する場合には、いったん相続人の名義へ変更する必要があります。不動産を売ったお金で遺産分割をしようと考えていても、相続手続きが進まないと不動産の売却もできず、遺産分割もできないのです。

    この状態が続くと相続人のストレスが高まり、やがてトラブルに発展してしまいます。ですから、相続手続きは個人の予定や感情に左右されず、機械的に行うことが求められる場合もあるのです。

     

    遺言執行者がいると、相続人の予定や感情に振り回されずに、遺言内容を淡々とこなすことができます。相続人同士がぶつかる機会を作らずに手続きを進められることもメリットの1つでしょう。

     

    本当に必要?遺言執行者を指定した方がいいケースとは

    遺言執行者のメリットについてはご説明しました。しかし、まだ「自分にとっては必要かどうかわからない」という方も多いのではないでしょうか。

    そこで、遺言執行者を指定するべきケース・指定した方が良いケースをいくつかご紹介します。

     

    ・遺言執行者を指定するべきケース

    遺言で次の内容を書く場合は、必ず遺言執行者が必要になります。

     

    ①子の認知をしたい

    「認知」とは婚姻していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を、自分の子であると認めることです。

    母親は子を出産することで親子関係があることがわかります。ですから、実際には父親について法律上の親子関係を確定するため、認知の手続きをすることが多いです。

    遺言者が遺言で子の認知をすると、認知された子は遺言者の法定相続人となり、相続財産を受け取ることができるようになります。それにより他の相続人の法定相続分も変動しますので、注意が必要です。

    認知の手続きは、遺言執行者が就任から10日以内に認知の届出をして行います。遺言執行者には正確でスピーディな手続きが求められるため、遺言で子の認知をする場合は、専門家を遺言執行者に指定することをお勧めします。

     

    ②相続人の廃除・廃除の取消しをしたい

    相続人の廃除や廃除の取消しをする場合は、遺言執行者が必要です。

    「廃除」とは、特定の相続人の相続権を失わせることです。

    廃除が認められるのは、⑴遺言者に対する虐待や重大な侮辱がある場合、または⑵推定相続人にその他著しい非行がある場合とされています。

     

    例えば以下のような場合には、廃除が認められる可能性があります。

    ・遺言者は長い間、夫(妻)からの暴言や暴力に悩まされており、離婚したくてもできない状況にあった

    ・ひきこもりの長男を養っていたが、万引きや借金を繰り返し手に負えなくなっていた

     

    遺言による相続人の廃除は、遺言執行者が家庭裁判所へ申立てをして行います。ただし、廃除は相続権を失わせる効果があるため、そう簡単に認められるものではありません。廃除が認められるためには、なぜ廃除をしたいのか、具体的にどのようなことをされたのかを示す資料やメモを用意しておくと良いでしょう。遺言執行者としても、そのような証拠があることで、迅速かつ正確な申立てを行うことができます。

    なお、廃除の取消しは、遺言執行者が家庭裁判所へ請求をするだけで足りるため、理由や証拠は不要です。

     

    ・遺言執行者を指定した方が良いケース

    遺言で次の内容を書く場合は、遺言執行者の指定をご検討ください。

     

    ①遺贈をする場合

    遺贈について記載する場合は、遺言執行者を指定した方が良いでしょう。遺贈とは、遺言によって特定の人に財産を渡すことです。

    例えば、遺言に「〇〇不動産を友人Aに遺贈する」旨の記載をすると、Aさんが法定相続人でなくても〇〇不動産を受け取ることができます。

    不動産の遺贈があると、受遺者(遺贈を受ける人)に財産の名義を変更する必要があります。通常、遺贈された不動産の名義変更は、受遺者と相続人全員が共同して申請しなければなりません。そのため、Aさんが不動産を受け取ることに納得していない相続人が、共同申請に協力してくれない可能性も考えられるのです。

    しかし、遺言執行者がいる場合の名義変更は、受遺者と遺言執行者で申請するだけで足りるため、手続きが圧倒的にスムーズになります。

    相続人と受遺者との争いを防ぐために、遺贈をする際は遺言執行者の指定もしておきましょう。

     

    ②遺言で不利になる相続人がいる

    遺言により不利になる相続人がいる場合にも、遺言執行者の存在がポイントとなることがあります。

    例えば、長男と次男の2人が法定相続人となる場合、遺言に「財産の3分の2を長男に、3分の1を次男に相続させる」と書いてあると、どのような問題が起こるでしょうか。長男にとっては嬉しい内容ですが、次男からすると気持ちの良い内容ではありません。そのため、次男が相続手続きに応じてくれなかったり、勝手に相続財産を使い込んだりという可能性も出てくるのです。

    しかし、遺言執行者がいると、次男の感情とは関係なく遺言執行者が相続手続きを進めてくれます。

    相続人が納得してくれれば良いのですが、お金が絡むと、たとえ仲の良い兄弟であっても激しい争いになることは十分にあります。遺産分割の内容によっては、遺言執行者を指定することも検討しましょう。

     

    遺言執行者を指定する方法

    遺言執行者の指定は遺言の中で行うことができます。指定方法は以下の2つです。

     

    ① 直接指定:(例)Aさんを遺言執行者にする

    ② 間接指定:(例)遺言執行者を指定する人をAさんに任せる

     

    ①の方法では、今の時点で遺言執行者をしてもらいたいと思っている人を指定することができます。例えば、信頼できる家族や中立的な立場の専門家、仲良くしている友人など、自分が「この人になら任せられる」と感じる人を指定することができるのです。

    一方で、②の方法は自分自身で遺言執行者を選ぶわけではありません。そのため、遺言者にとっては少し不安な部分もあるかと思います。しかし、相続が発生してから遺言執行者が決まるので、相続発生時に適任だと思われる人を指定することができる点がメリットといえます。

     

    いずれにしても、遺言を書く前に「遺言執行者(を指定する人)を任せても良いか。」と確認をとっておくことが大切です。残された側にとっては、遺言を開いてみたら急に遺言執行者として自分の名前が出てきた、となると不安に思う方も多いと思います。あらかじめ確認をとっておくことで、スムーズな相続手続きにつながります。

     

    ・相続が始まってからも遺言執行者を立てることができる

    遺言で遺言執行者が指定されていない場合でも、家庭裁判所で遺言執行者を決めてもらうことができます。例えば、以下のケースで行われることがあります。

     

    ・遺言で子の認知がされているけど、遺言執行者が指定されていない

    ・遺言執行者に指定されている人が既に亡くなっている

     

    「遺言執行者が必要だ」と感じた場合は、相続人だけでなく受遺者や遺言者の債権者などが、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を申し立てることができます。申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てには以下の書類を提出します。

     

    【遺言執行者選任の申立てに必要な書類】

    ・申立書

    ・遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本(全部事項証明書)

    ・遺言書のコピーまたは遺言書の検認調書謄本のコピー

    ・遺言執行者の候補者の住民票または戸籍附票

    ・利害関係を示す資料(親族の場合は戸籍謄本など)

     

    ※このほかにも、家庭裁判所によっては追加で提出が必要な書類が出てくることもあります。詳しくは申立先の家庭裁判所へお問い合わせください。

     

    申立人は遺言執行者の候補者を立てることができます。申立てをすると、家庭裁判所がその候補者が遺言執行者にふさわしいかどうかを判断し、選任するかどうかを決めます。申立てから選任までは2週間〜1ヶ月ほどかかりますので、余裕を持った申立てをしましょう。

     

    誰を遺言執行者にするかで相続が大きく変わる

    遺言執行者には特別な資格は不要です。

    ただし、破産者と未成年者は遺言執行者になることができません。

    ですから、妻(夫)や子ども、友人などを指定することもできますし、税理士や司法書士などの専門家に依頼することもできます。

     

    ただし、確実に遺言の内容を実現してほしい場合は、相続に詳しい専門家に依頼することをおすすめします。

    先ほどご説明したとおり、遺言執行者の業務は多岐に渡ります。特に相続人や財産が多い場合や、相続人同士の仲が悪い場合には手続きが大変になります。そのため、相続に精通していない遺言執行者だと、途中で業務を放棄してしまったり、初めから就任を拒否してしまう可能性もあるのです。

    確実でスピーディに遺言内容を実現させるには、相続に詳しい専門家を遺言執行者に指定する方法がおすすめです。

     

    まとめ

    今回は遺言執行者についてご説明しました。

    遺言執行者は全ての人に必要なものではありません。しかし、相続に詳しくない相続人にとっては安心できる存在となります。

    「遺言執行者を指定したい」「遺言執行者を誰にすれば良いかわからない」という方は、さいたま幸せ相続相談センターまでご相談ください。

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執筆:山形麗
監修:司法書士法人T-リンクス 小川直孝 司法書士
 
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