相続人が上場株式を相続する場合、被相続人が取引していた証券会社に、自分の取引口座を新しく開設しなければならないことがあります。その際には「口座開設申込書」という書類を記載しなければならないのですが、この書類には、株式投資未経験者にはわかりにくい専門用語が沢山使用されています。そこで今回はそれらの中から「特定口座」という用語を簡単にご紹介しようと思います。
まずは原則論ですが、上場株式を売買して利益を得た人は、その翌年に確定申告を行わなければなりません。しかしほとんどの人は、確定申告という作業に対して苦手意識を持っています。なかには「確定申告が嫌だから株式投資を行わない」といった人も少なからず存在します。
しかしその一方で日本政府は、種々の経済的な事情により株式投資を日本全体に広く普及させたいと考えています。そこで政府は確定申告が嫌いな人にも株式投資を行ってもらいやすいように「特定口座」と呼ばれる制度を導入しました。
この制度の最大の特徴は、証券会社側で「投資家ごとの1年間の売買損益」を計算して、書類(特定口座年間取引報告書といいます)にまとめてくれるという点です。つまり投資家が確定申告するための準備が大幅に軽減されるのです。
さらに特定口座の開設時に「源泉徴収あり」を選択すると、上場株式の売買で譲渡損益が発生する際に、税金の徴収・還付も自動で行われるため、確定申告が不要となります。
ちなみに特定口座の開設時に「源泉徴収なし」を選択すると、税金の源泉徴収が行われないため、「特定口座年間取引報告書」を税務署に持って行って自分で確定申告に行かなければなりません。それでも先に述べましたように、年間の譲渡益を証券会社が計算してくれているので、確定申告のハードルは相当下がることになります。
ただし・・・特定口座には1つ残念なルールがあります。それは「買値が不明確な上場株式を預け入れることができない」というルールです。税務署からすれば、買値が不明確な株式は、売却時に譲渡損益を確定できないので、自動的に税額を計算する特定口座に入れることを認めにくいのでしょう。
つまり相続人が相続手続きを行う際に特定口座の開設を選択したとしても、被相続人の保有している上場株式の買値が不明である場合は、相続人の特定口座には移管できません。この場合は相続人の「一般口座」と呼ばれる口座に相続株式が移管されることになります。
そして相続人が一般口座で上場株式を売却した場合は、相続人自身が自力で準備して確定申告を行うことになります。これは株式投資の経験が無い人には辛いですね。
逆に言えば、被相続人が特定口座内で上場株式を保有している場合は、相続人が引き継ぐ上場株式も特定口座に簡単に入れることができる(被相続人の買値が判明しているため)ので、相続人が相続した株式を売却した際の確定申告を省略することができます。そういう意味では特定口座は、被相続人にも相続人にも非常に活用しがいがある制度であると思います。
実は特定口座という制度には、この他にも色々と細かい規則やメリットがある(いずれ当コラムでご紹介したいと思います)のですが、一番の魅力はやはり先に述べたように、確定申告の手間を省けるという点にあります。
証券投資のご経験が無い方が、証券会社で新規に口座開設する場合は、「特定口座(源泉徴収あり)」を選択しておくのがいいかもしれませんね。ただし繰り返しになりますが、相続人が特定口座を開設しても、被相続人の上場株式の買値がわからなければ特定口座最大のメリットは失われますのでご注意を。
※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp
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