相続財産の調査
ご家族が亡くなると、被相続人(亡くなった方)の持っていた財産は相続人に受け継がれることになります。被相続人が遺言書を残していれば良いのですが、残していない場合はどのような財産を持っていたのか分かりません。そのため、被相続人が亡くなったら早い段階で「相続財産の調査」を行い、どのような財産をどのくらい持っていたのかを調べる必要があるのです。
今回は、相続財産を調査する目的や方法について詳しくご説明します。
相続財産とは
相続財産とは、被相続人が亡くなって相続が発生したことにより、被相続人が亡くなった時点で所有をしていた財産のことです。相続財産には、被相続人が亡くなった時点で持っていたすべての権利・義務が含まれます。そのため、不動産や預貯金などのプラスの財産はもちろん、借金や未払いの税金などのマイナスの財産も相続財産となるのです。
なぜ相続財産を調査するのか?
被相続人の財産を把握するために行う財産調査ですが、なぜ財産を把握する必要があるのでしょうか?相続財産を調査する主な理由は以下の通りです。
・遺産分割協議を行うため
・相続するかしないかを選択するため
・相続税申告のため
目的① 遺産分割協議をするため
被相続人が遺言書を残していない、あるいは遺言書を残しているが遺言書に記載のない財産が存在する場合は、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。
遺産分割協議とは、被相続人の財産について「誰が、何を、どのくらい相続するか」を決める話し合いのことです。相続人が複数人いる場合は、この協議を行ってどのように相続財産を分割するかを話し合わなければなりません。
そのため、遺産分割協議をする前に、まずは相続財産の調査を行って全容を明らかにしておく必要があります。
目的② 相続するかしないかを選択するため
被相続人の財産について、相続人にも相続するかしないかを選択する権利があります。
前述の通り、相続財産には不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、被相続人が生前に多大な借金を抱えていた場合には、相続財産の合計がマイナスになる可能性もあるのです。
「借金なんてしていないだろう」と思っていても、被相続人が生前に借金をしていたことを隠しており、相続人が知らなかっただけというケースも珍しくありません。このような場合に、財産の調査をせず相続をしてしまうと、多大な借金を相続することになってしまいます。
相続人は、必ず財産を相続しなければならないわけではなく、相続を放棄することもできますので、相続をするかしないかの判断をするためにも、相続財産を調査しておく必要があります。
目的③ 相続税申告のため
相続財産の総額が一定の金額を超えると「相続税」が発生します。相続税がいくらかかるかは、税務署から通知が来るわけではなく、相続人が自ら計算しなければなりません。相続税の申告・納税が必要であるにもかかわらず行わなかった場合は、加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまいます。
このようなことを防ぐためにも相続財産の調査を行い、相続税申告の必要性を判断する必要があります。
なお、相続財産の総額が一定の金額を超えなければ、相続税の申告は不要です。
相続財産の調査方法
前項では、相続財産を調査する目的についてご説明しました。では、実際にどのようにして調査を進めていくのでしょうか?財産ごとに次のような方法で調査を行います。
① 家や土地などの不動産
被相続人が家や土地などの不動産を所有していた場合は、権利書(登記済権利書)や固定資産税の納付書がないかを探しましょう。
権利書とは、対象となる不動産の権利者であることを証明するための書類です。現在は、電子化により「登記識別情報」に変更されているため、権利書の交付はされていません。
また、固定資産税の納付書とは、不動産を所有している場合にその不動産のある市区町村から発行される書類のことです。地域によっては、課税明細書や納付書などと記載されている場合もありますので、ご注意ください。
権利書や固定資産税の納付書が見つかれば話が早いのですが、見つからないからと言って不動産の特定ができないわけではありません。被相続人が所有していた不動産がある範囲をある程度絞ることができれば、その不動産がある市区町村役場で「名寄帳」を取得することで特定することができます。
ここで注意するべきなのは、名寄帳に記載される不動産はその市区町村内にあり、固定資産税の対象となっているものに限られることです。そのため、学校や福祉施設が建っている土地などの固定資産税非課税の不動産は名寄帳に記載がなく、特定が難しい場合もあります。
② 預貯金
被相続人の持っていた通帳やカード、銀行からの郵便物などをもとに、被相続人の利用している金融機関を特定します。
利用している金融機関が明らかになったら、その金融機関の窓口や郵送で「残高証明書の発行」を申請しましょう。残高証明書を発行することで、普通預金・定期預金・投資信託などの全ての利用状況や残高を確認することができます。
残高証明書の発行は相続人1人でも申請することができますが、被相続人との関係を明らかにする戸籍謄本や本人確認書類の提出を求められることがあります。金融機関によって必要書類が異なりますので、事前に各金融機関へお問い合わせください。
また、最近ではネットバンキングを利用する方が増えています。ネットバンキングでは通帳やキャッシュカードがないため、特定に至らないケースも珍しくありません。ネットでの取引の場合、パソコンや携帯電話に取引の明細が残っているはずですので、被相続人が使用していたパソコンや携帯電話の履歴も調査しましょう。
③ 国債や株式などの有価証券
有価証券を調査する場合、その有価証券に関する書類やメールがないかを探しましょう。例えば、国債であれば証券、株式であれば残高通知や取引案内などが考えられます。
被相続人が利用している証券会社が明らかになったら、その証券会社に依頼して「取引残高報告書の発行」をしてもらいます。取引残高報告書には、預貯金調査の残高証明書と同じように、過去の取引や預かり残高などが記載されています。発行にあたり所定の書類が必要になりますので、事前に各証券会社にお問い合わせください。
また、預貯金と同様、最近では取引手数料の安いネット証券を利用する方も増えています。もし、被相続人がネット証券を利用していた場合、証券会社の特定は難しくなってしまいます。こうした場合には、証券保管振替機構に対して「登録済加入者情報」の開示を請求しましょう。情報の開示をしてもらうことで、被相続人がどの証券会社に株式を保有しているかを一括で調査することができます。
④ その他の動産
相続というと預貯金や不動産などの大きな財産に関心が集まりがちですが、価格にかかわらずその他すべての動産も相続財産に含まれています。動産とは、家や土地などの不動産以外の有体物で、日常的に使用するペンやコップから、価値のある時計や宝石、車、美術品まで、広い範囲で存在しています。そのため、被相続人がどのような動産を所有していたかを隅々まで調査し、その名称や種類、形状を特定しておきましょう。
また、被相続人が個人事業をしていた場合は、その事業で使っていた動産も相続財産に含まれます。例えば、事業で使う車や器具、機械などの「減価償却資産」、製品や原材料などの「棚卸資産」、売掛金や貸付金などの「貸付金債権」があり、それ以外にも事業用の資産があれば相続の対象になります。
ただし、被相続人のみに与えられるような資格や権利は相続の対象となりませんのでご注意ください。例えば、被相続人が生前に弁護士事務所を開設していた場合、相続人は被相続人が事務所として借りていた建物や、業務のために使っていた車などを相続することはできますが、弁護士資格まで相続することはできません。したがって、弁護士事務所を承継したい場合は、相続人自身が弁護士の資格を取得する必要があります。
⑤ マイナスの財産
借金などのマイナスの財産も必ず調査しましょう。まずは、被相続人の家に金融機関からの督促状や返済の明細書、消費者金融のキャッシュカードなどがないかを調べます。他にも、銀行口座の通帳を見て、特定の企業や個人宛に定期的な支払いがされていないかを確認しましょう。
手がかりが見つかれば良いのですが、見つからない場合はJICCやCIC、JBAなどの各信用情報機関に対して情報開示を求めることで、被相続人が生前に行ったローンやキャッシングの契約を確認する事ができます。情報の開示には2週間〜1ヶ月ほどの期間を要するため、なるべく早くに手続きを行いましょう。
借金の借入先が分かったら、次は借入の額を調査します。借入先の金融機関に対して「借入金残高証明書の発行」を依頼し、借入額を把握します。
相続財産の調査をせずにいると
相続財産の調査をする必要性は十分わかりましたが、調査をしないままでいるとどのような危険があるのでしょうか?相続財産の調査を怠ると、次のようなリスクがあります。
リスク① 借金の返済を求められる
相続財産の調査をせずにいると、相続することを選択した後に新たな借金が見つかる可能性があります。被相続人の借金は、相続放棄をしない限り各相続人に対して法定相続分にしたがって請求されることになります。そのため、相続することを選択した後に新たな借金が見つかった場合でも、債権者から借金の返済をもとめられるかもしれません。
相続放棄は、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行うのが原則です。「借金が見つかったけど、期間が過ぎていて相続放棄ができない」なんてことにならないためにも、なるべく早い段階で相続財産の調査をしておく必要があります。
リスク② 相続税の未払いでペナルティが課される
相続財産の総額が一定の額を超えると、相続税が課税されます。相続財産の調査を行わなければ財産の総額が分からないため、相続税がいくらかかるのかを正確に計算することができません。
仮に、相続税の納税が必要であるにもかかわらず、納税をしなかったり納税額が足りなかったりすると、ペナルティが課されてしまいます。例えば、適正な納税がされなかった場合は、延滞日数に応じて「延滞税」の支払いを求められることもあります。また、相続税を納めたが納税額が足りなかった場合は「過少申告加算税」、期限になっても納税を行わなかった場合は「無申告加算税」を支払わなければなりません。
余計な税金を支払うことのないように、相続財産の調査はしっかりと行いましょう。
まとめ
亡くなった方の相続財産を調査することは、相続人同士で遺産分割を行うためだけでなく、正確に相続税を計算したり相続放棄を検討したりするためにも必要である事がわかりました。
しかし、相続財産の調査は、相続の経験が少ない方だけで行うと非常に時間がかかってしまいます。自信のない方は相続に強い専門家に調査を依頼することをおすすめします。
執筆:山形 麗
監修:城和 信太郎
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