被相続人(亡くなられた方)から財産を引き継いだとき、「相続税がかかるかどうか」「かかるとしたらどれくらいか」を心配している方も多いと思います。

実は、相続税がかかる人は1年間に亡くなられる方全体の約8%ほどしかおらず、大半の人は相続税を納税する必要がないのが現状です。しかし、だからといって相続税について何も知らないままでは、相続税が発生することが分かったときに慌てて納税資金を集めることになりかねません。

相続が発生する前に相続税についての知識を身につけておくことは、スムーズな相続手続きの実現だけでなく、生前の相続税対策や納税資金対策にもつながります。

 

今回は、相続税の仕組みや計算方法、相続税の申告・納税について詳しくご説明していきます。

 

相続税とは

相続税とは、個人が被相続人から財産を「相続した」または「遺贈を受けた」場合に、その財産に対してかかる税金のことをいいます。

遺贈とは、被相続人が遺言によって相続人やそれ以外の人に財産を譲り渡すことです。例えば、遺言に「友人AにB不動産を贈与する」と書いてある場合は、友人Aに対して遺贈があったことになります。

このように、相続が発生したことによって被相続人の財産を引き継いだときに、その財産に対して相続税が課されるのです。

 

 

相続税の仕組み

相続税は、被相続人の財産を引き継いだときにかかる税金であるとご説明しました。しかし、財産を引き継いだからといって、必ずしも相続税がかかるわけではありません。

相続税は、相続財産の総額から「相続税の基礎控除額」を差し引いた額に対して課される仕組みになっています。そのため、財産の総額が基礎控除額よりも小さい場合には、相続税を納税する必要がないのです。

 

相続税の基礎控除

相続税には一定の金額までは相続税がかからない「基礎控除」という制度があります。相続税の基礎控除は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算することができ、この基礎控除額を超える範囲にのみ相続税が発生します。

 

例えば、被相続人に6,000万円の財産があり、妻と長男が法定相続人となるケースを考えてみましょう。法定相続人は妻と長男の2人ですので、このケースの基礎控除額は3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円となります。したがって、相続財産6,000万円から4,200万円を差し引いた1,800万円に対して相続税がかかることになります。

 

上記の計算式から、基礎控除額は法定相続人の数が多ければ多ほど高くなることがわかります。では、どのような人が法定相続人になることができるのでしょうか。

 

法定相続人とは

法定相続人とは、被相続人の財産を相続することが民法によって認められている人のことです。法定相続人になれるのは「配偶者」と「血族」のみで、被相続人の配偶者は常に法定相続人となります。一方で、血族には優先順位が定められており、順位の高い人から相続人になることができます。血族相続人の優先順位は以下の通りです。

 

・第1順位:子や孫などの直系卑属

被相続人に子がいれば、子が法定相続人になります。

なお、子が被相続人よりも前に亡くなってしまっている場合は、その人の子(被相続人から見た孫)が代わりに法定相続人となることができます。これを「代襲相続」といいます。

 

・第2順位:父母や祖父母などの直系尊属

被相続人に子や孫がいない場合は、父母や祖父母などの直系尊属が法定相続人になります。父母と祖父母がどちらも存命であれば、被相続人に最も親等が近い人(この場合は父母)が法定相続人となります。

 

・第3順位:兄弟姉妹

被相続人に子や孫などがおらず、直系尊属もすでに亡くなっている場合は、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。

なお、兄弟姉妹が被相続人よりも前に亡くなっている場合は、その人の子(被相続人から見た甥・姪)が代わりに法定相続人となります。

ただし、兄弟姉妹の代襲相続は甥・姪の一代限りですので、甥・姪も亡くなっていた場合の再代襲相続は起こりません。

 

相続税が課される財産

被相続人の財産の中にも「相続税が課される財産」と「相続税が課されない財産」があります。どの財産に相続税が課されるのかを把握しておくことは、相続税額を計算する上で非常に重要です。以下の項目を参考に、相続税額がいくらになるか計算してみましょう。

 

①被相続人が死亡した時点で所有していた財産

現金や預貯金、不動産、有価証券、車や時計などの動産のほか、被相続人が死亡時に所有していた財産は、全て相続税の課税対象となります。

また、被相続人以外(配偶者や子、孫など)の名義の財産であっても、被相続人が管理をしていた場合は、相続税の対象となる可能性がありますので注意が必要です。

 

②みなし相続財産

みなし相続財産とは、民法上は相続財産ではありませんが、相続税を計算する上では相続財産とみなして相続税を課税する財産のことをいいます。代表的なみなし相続財産は「生命保険金」と「死亡退職金」です。

生命保険金等は被相続人が死亡時に所有していた財産ではないため、受取人固有の財産として扱われます。しかし、保険料の負担者が被相続人であることから、相続財産と同様に相続税の対象となるべきとされているのです。

なお、生命保険金等には一定の非課税枠があり、「500万円×法定相続人の数」を生命保険金等の金額から差し引いた額に対して相続税がかかる仕組みとなっています。

 

③相続時精算課税制度で贈与された財産

相続時精算課税制度とは、2,500万円までは贈与税を払わずに贈与を受けることができ、贈与をした人が死亡したときに、その贈与財産の価格を相続財産に含めて相続税額を計算する贈与の方法です。

被相続人の生前に贈与を受け、贈与税の申告の際に相続時精算課税制度を適用していた場合、その財産には相続税がかかることになります。

なお、この場合は、相続が始まった時の価格ではなく、贈与をした時の価格を相続税の課税価格に加えて計算します。したがって、贈与時に1,000万円だった土地が、相続開始時に3,000万円に値上がりしていたとしても、相続税の課税価格に加算されるのは1,000万円です。

 

④被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産

被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産は、相続税の課税対象になります。これは、被相続人の死亡間近になって、相続税対策のために駆け込みで贈与をするのを防ぐ目的で規定されているものです。

この場合も、相続時精算課税制度と同様に、相続が始まった時の価格ではなく、贈与をした時の価格を相続税の課税価格に加えて計算します。

 

相続財産額から控除できる財産

相続税が課される財産のほかに、相続財産額から差し引くことができる財産や費用も存在します。これらを把握しておくことで相続税額が小さくなる可能性がありますので、以下の項目で確認していきましょう。

 

①被相続人の債務

被相続人に債務がある場合は、その債務の額が相続財産の額から差し引かれます。

差し引くことができる債務には、借金や住宅ローンのほかに、所得税や固定資産税などの税金、被相続人が使用していた水道光熱費や電話代などの未払金も含まれます。

 

②被相続人の葬式費用

被相続人の葬式を行う際に相続人が葬式費用を負担した場合は、葬式費用を相続財産の額から差し引くことができます。

葬式費用には、お寺や葬儀社に対する支払い、お通夜にかかった費用などが含まれますが、墓地の購入費用や香典返し・法要にかかった費用などは含まれませんのでご注意ください。

 

 

相続税の計算方法

相続財産の総額が基礎控除額を超え、相続税がかかることが分かったら、実際に相続税額を計算していきます。

被相続人には1億円の財産があり、妻と2人の子が法定相続人になるケースを例にして、次の手順で相続税を計算していきましょう。

 

手順①相続税の課税対象額を法定相続分で分ける

法定相続人が3人の場合の基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円ですので、相続税の課税対象額は1億円から4,800万円を差し引いた5,200万円です。

法定相続分は妻1/2、子がそれぞれ1/4ずつですので、課税対象額を法定相続分で分けると以下の通りになります。

 

妻:5,200万円×1/2=2,600万円

子:5,200万円×1/4=1,300万円

子:5,200万円×1/4=1,300万円

 

 

手順②それぞれに相続税率を掛けて税額を計算する

相続税の課税対象額を法定相続分で分けたら、それぞれの金額に対して相続税率を掛けて税額を計算します。相続税率は下の速算表を参考にしましょう。

 

妻:2,600万円×15%ー50万円=340万円

子:1,300万円×15%ー50万円=145万円

子:1,300万円×15%ー50万円=145万円

 

 

相続税の課税対象額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

なし

3,000万円以下

15%

50万円

5,000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億円以下

40%

1,700万円

3億円以下

45%

2,700万円

6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

 

 

手順③②で求めた税額を足し合わせて相続税の全額を算出する

法定相続人それぞれの相続税額を算出したら、その税額を一度足し合わせて相続税の全額を算出します。

今回のケースでは妻が340万円、子がそれぞれ130万円ですので、相続税の合計は340万円+145万円×2人=630万円となります。

 

手順④③で求めた相続税の全額を実際の取得割合に応じて負担する

②でそれぞれの相続税額を計算しましたが、実際に負担する税額は財産の取得割合によって異なります。

例えば、相続財産1億円のうち8,000万円を妻が、残りの2,000万円を2人の子で平等に分けた場合、実際の負担税額は以下の通りです。

 

妻:630万円×8,000万円/1億円=504万円

子:630万円×1,000万円/1億円=63万円

子:630万円×1,000万円/1億円=63万円

 

なお、「相続税の配偶者控除」を適用すると、配偶者の相続財産額が1億6000万円まで、または法定相続分の範囲内の相続であれば相続税がかかりません。

 

 

相続税の申告と納税

相続税がかかることが分かったら、被相続人の住所地を管轄する税務署に対して「相続税の申告・納税」を行います。

相続税の申告・納税には期限があり、「相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に行わなければなりません。この期限までに、相続税申告書の提出と相続税の支払いを両方済ませておく必要があり、どちらか片方でも期限に遅れると、加算税や延滞税などのペナルティが課せられてしまいますので、できるだけ早い段階から準備を進めておきましょう。

 

監修;税理士高田 担当:城和

 

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