相続が発生すると、10ヶ月以内に相続税の申告と納税をする必要があります(相続財産が基礎控除額を超えた場合 下記ご参照下さい)。10ヶ月と聞くと余裕があるように感じますが、通常は相続税の申告・納税をするまでの間に、相続人の調査や遺産分割協議、財産の名義変更などの相続手続きを行うことになるため、スムーズな対応が求められます。しかし、相続は多くの方にとって初めての経験となるため、手続きに時間がかかったり相続人間でのトラブルが発生したりと、思わぬリスクが生じる可能性があります。

 

今回は、スムーズな相続手続きを実現するために、相続が発生した場合のスケジュールについて確認していきましょう。

 

 

相続が発生したら、まずは遺言書が残っているか確認しましょう

相続が発生したら、まず1番最初に「遺言書が残っているか」を確認しましょう。遺言書とは、主に被相続人(亡くなられた方)がご自身の財産を誰に引き渡したいかについて記したもので、被相続人の最後の意思表示です。被相続人に遺言書が残っている場合は、その遺言書の内容通りに財産が分割されることになります。遺言書が有るか無いかで遺産分割の内容や必要な手続きなどが大きく変わってきますので、なるべく早めに確認しましょう。

 

遺言書には「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」などいくつか種類があり、その種類ごとに探し方や扱い方が異なります。

「自筆証書遺言」とは被相続人が自分で書いて作成する遺言書のことです。そのため、遺言書を作成した本人しか存在を知らないことも多く、遺言書が見つからないまま相続手続きに進んでしまう可能性があります。そのため、自筆証書遺言は被相続人の棚や机の中、銀行、親族や専門家などをしらみ潰しに探していくほかありません。しかし、2020年7月から「法務局における自筆証書遺言の保管制度」がスタートし、作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。法務局では遺言書の原本だけでなく、画像データも保管されますので、被相続人の死亡後は全国の法務局で被相続人の遺言書の有無や内容を確認することができます。

一方で、被相続人が「公正証書遺言」を作成していた可能性がある場合は、公証役場で遺言の有無を確認しましょう。公正証書遺言とは、被相続人が公証人に遺言内容を伝えて作成してもらう遺言方法です。作成した遺言の原本は公証役場で保管され、全国の公証役場で公正証書遺言の有無を検索をすることができます。

 

 

相続財産と相続人を確定する

被相続人に有効な遺言書が残っていれば、その内容の通りに遺産分割を行うことができますが、実際の相続では遺言書が残っていない場合や残っていたとしても遺言書としての効力がないケースも多くあります。そのようなケースでは、「誰が、何を、どのくらい相続するか」を相続人同士で決めなければなりません。したがって、相続が発生し遺言書の有無が分かったら、相続財産と相続人を確定するための調査を行いましょう。  

 

相続財産の調査方法

相続の対象となる財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、住宅ローンや借金などのマイナスの財産も全て含まれます。

調査方法は財産によって異なりますが、預貯金の場合は、通帳や金融機関から被相続人宛に届いた手紙などから利用していた金融機関を特定します。最近では、ネット銀行なども増えてきているので、パソコンの中のメールもチェックしておきましょう。金融機関が特定できたら、窓口で残高証明書の発行を申請して残高や利用状況を把握します。

また、被相続人が不動産を所有していた場合は、登記識別情報(登記済権利書)や固定資産税納税通知書から不動産の特定をしましょう。もしこれらの書類が見つからなければ、その不動産がある地域を管轄している市区町村役場で「名寄帳」を取得して特定することができます。

借金などのマイナスの財産は、被相続人の自宅に金融機関からの督促状や返済の明細書などが残っていないかを調べましょう。ローンや借金に関する書類が残っていなくても、実際は借金が存在している可能性もあります。不安な場合は、信用情報機関(CIC・JICC・JBA)に問い合わせて過去のキャッシングを確認するなど、積極的に調査を行うようにしましょう。

 

相続人の調査方法

相続人の調査は、被相続人の「戸籍謄本」を取得して行います。戸籍謄本とは、その人の氏名や本籍などの他に、親子関係や結婚離婚などの身分事項が記載された文書のことです。

まずは、被相続人の本籍地の役所で死亡日が記載されている戸籍謄本を取得しましょう。戸籍謄本の内容を確認して、さらに古い戸籍謄本があればその本籍地の役所で取得します。それを繰り返して、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が揃ったら、そこから誰が相続人になるのかを判断していきます。

 

 

相続放棄や限定承認は3ヶ月以内に

相続人にも、財産を相続するかどうかを選ぶ権利があります。相続の方法には大きく分けて「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つがあり、どれを選ぶかは被相続人の財産構成などを見て決めることができます。

単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て相続する方法で、主にマイナスの財産よりもプラスの財産の方が多い場合に利用されます。

しかし、被相続人に多額の借金がありプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多いケースも多くあります。このような場合は、相続放棄や限定承認の選択を検討しましょう。

 

相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しない方法です。相続放棄をすると初から相続人ではなかったとみなされ、借金などのマイナスの財産を相続する必要はありませんが、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続することができなくなってしまいます。

 

限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する方法です。例えば、被相続人に1000万円の家と5000万円の借金があるケースを考えてみましょう。このとき、限定承認をすると借金の債権者に1000万円を支払うだけで家を相続することができます。今まで一緒に過ごしてきた家や思い入れのある指輪など、どうしても手放したくない財産がある場合に利用される方法です。なお、限定承認をする場合は相続人全員で手続きをしなければなりません。

 

限定承認と相続放棄の手続きには期限があり、相続があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申述を行う必要があります。この期間を過ぎてしまうと、自動的に「単純承認」をしたとみなされてしまいますので、限定承認や相続放棄を検討している場合は、早めに準備をしておきましょう。

 

 

亡くなった方の準確定申告を済ませる

被相続人が個人事業を行なっていた場合や不動産の賃貸により収入を得ていた場合は、準確定申告が必要になる可能性があります。

通常、確定申告はその年の1月1日から12月31日までの所得にかかる税金を計算し、翌年の2月16日から3月15日までに税務署に申告・納税して行います。

しかし、確定申告が必要な被相続人が確定申告をする前に亡くなってしまった場合、相続人が代わりに確定申告を行わなければなりません。これを「準確定申告」といいます。

準確定申告には期限が設けられており、相続があったことを知った日から4ヶ月以内に申告・納税を行う必要があります。この期限に遅れると加算税が課されてしまい、本来納める必要のない税金まで払うことになりますので、早めに準備をしておきましょう。

 

 

遺産分割協議を成立させる

被相続人に遺言書がない場合や遺言書に記載のない財産が見つかった場合には、相続人全員で「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」を行ないます。遺産分割協議とは、被相続人の財産について「誰が、何を、どのくらい相続するか」を決める話し合いのことです。

話し合いがまとまったら、相続人全員の合意が得られたことを証明するために「遺産分割協議書」を作成します。この協議書は、不動産の名義変更や相続税の申告をする際に必要な書類ですので、記入漏れのないように作成しましょう。

もし、遺産分割協議で話がまとまらない場合は、遺産分割調停や遺産分割審判などの手続きをとり、裁判所に遺産分割を委ねることになります。

 

 

協議内容または遺言内容に沿って遺産分割をする

相続財産と相続人を把握し分割の内容が決まったら、いよいよ遺産分割を実行します。具体的には、不動産や預貯金、有価証券などの名義を被相続人から相続人へ変更する手続きです。

被相続人が不動産を所有していた場合は、その不動産の所在地を管轄する法務局で名義変更を行います。不動産の名義変更には、登記申請書の他に被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と住民票除票、相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書などの書類が必要になります。さまざまな書類を準備しなければなりませんので、不安な方はあらかじめ法務局に問い合わせるか、専門家への依頼を検討しましょう。

なお、当該不動産を売却することが決まっている場合でも、一度相続人の名義に変更してから売却の手続きをする必要があります。

 

預貯金や有価証券等の名義変更は、利用していた金融機関や証券会社によって手続きの方法が異なるため、あらかじめ問い合わせをし、所定の方法に従って手続きを行いましょう。

証券会社で名義変更をする場合、相続人がその証券会社に口座を持っていなければなりません。口座を持っていない場合は、名義変更の際に新たに口座を開設する必要があります。

 

 

10ヶ月以内に相続税の申告・納税を

相続税がかかる場合は、相続があったことを知ったときから10ヶ月以内に「相続税の申告・納税」をする必要があります。相続税がかかるかどうかは、税務署から通知が来るわけではなく相続人側で計算して判断しなければなりません。では、どのような場合に相続税がかかるのでしょうか。相続税がかかるかどうかの基準となる「基礎控除」についてご説明します。

 

相続税の基礎控除とは

相続税には「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算される基礎控除があります。相続財産の額がこの基礎控除額を超える場合にのみ相続税が発生する仕組みです。

例えば、被相続人が6000万円の資産を残して亡くなり、妻と2人の子どもが法定相続人になるケースを考えてみましょう。この場合、法定相続人は合計で3人ですので、相続税の基礎控除額は3000万円+(600万円×3人)=4800万円となります。したがって、資産6000万円から基礎控除額4800万円を差し引いた1200万円に対して相続税がかかることになります。

実際に相続税がかかることが分かったら、相続人全員が共同して税務署へ申告書を提出をします。相続税の納税は「現金一括」が原則です。もし、期限までに申告・納税をしなければ、加算税や延滞税がかかってしまいますので、早めに準備をしておきましょう。

 

■こちらの記事もおすすめです

皆さんは相続税対策ができていますか?【相続コンサルタントコラム】