皆さんこんにちは。
相続コンサルタントの久保田です。
 
相続対策を考える中で、既にご所有の賃貸物件がある場合、この賃貸物件をどの様に活用するかも大きな決断になるかと思います。
室内のリフォームや宅配ボックスやオートロックを設置して収益性の改善、売却して他の資産へ組み換え、一度建物を解体して新たな賃貸物件の建築など、様々な相続対策のメニューが検討できますが、継続中の賃貸借契約の種類によっては相続対策を行う上でネックになってしまうのも事実です。
結論から言ってしまうと、契約形態は『定期建物賃貸借契約(定期借家契約)』にしていただくことをお薦めします。
定期借家契約にすることで、上記に挙げたような相続対策をスムーズに行うことにも繋がりますので、相続対策を始める第1段階としてぜひご検討ください。
 
 

定期借家契約は普通借と何が違うの?

 
建物の賃貸借契約では主に『普通建物賃貸借契約(普通借家契約)』と『定期借家契約』のいずれかを利用することが多いかと思います。
この2種類の契約形態の大きな違いは、貸主様からの解約のしやすさだと考えています。
普通借家契約では借主様保護が強く、貸主様からの解約の場合正当事由(どうしても貸主様側でその物件を使用しなければいけない理由、客観的に老朽化により建物の解体が必要など)が必要になり、一般的に正当事由も認められにくい実情があります。
また、正当事由として認められたとしても、借主様の状況が考慮されることから、引越し代等の立ち退き料を貸主様から支払う必要があるケースが多いかと思われます。
一方で、平成12年3月1日に施行された定期借家契約では、契約締結時に定めた契約期間満了時に更新がなく契約が終了することになります。
契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに対象の定期借家契約が終了する旨の通知を出す必要はありますが、普通借の解約に必要な立ち退き交渉や立ち退き料の支払いと比較すると、大幅にご負担が軽減できると思います。
加えて契約期間満了時に解約ではなく、同条件で再契約を締結することもできるので、対象の賃貸物件で対策を行わなくなった場合には、定期借家契約を継続(再契約)する判断もできます。
既に定期借家契約が一般的になっている印象があり、多くの賃貸管理会社でも定期借家契約の対応は可能かと思いますので、ご相談してみてはいかがでしょうか?
 

普通借家契約が相続対策のネックになる理由

 
上記の通り、一般的には普通借家契約を貸主から解約するのは難しいと言えます。
対策を考える際に、普通借家契約がネックになる理由はそれぞれの対策ごとに下記のようなものが考えられます。
 

1.収益性改善

 空室の状態でリフォーム工事を行い、従来以上の賃料で賃貸者募集を行うことになりますが、そもそも普通借家契約締結中の借主が解約しない限り室内のリフォーム工事は行なえません。
 また、基本的に賃料が安いだけでは正当事由として認められることはありませんので、借主様から解約を申し出てもらうまで何の対策もできなくなります。
 

2.売却して資産組み換え

 買主様がどの様な理由で対象の賃貸物件を買うかによって異なりますが、既存の建物を解体して新たに賃貸物件を建築するための土地として買う場合は、借主様の明け渡し費用が売買価格に反映されて、売買価格自体が安くなってしまう傾向にあります。
 既存の建物をそのまま賃貸物件として保有する場合でも、対象物件から得られる収益を基準に売買代金を算出するため、『1』の様に収益性の改善が出来ないことで結果として売買代金が安くなってしまいます。
 

3.既存の建物を一度解体して、新たに賃貸物件を建築する

 建物を解体するまでに、すべての借主と賃貸借契約を解除する必要がありますが、それぞれの借主様と立ち退き交渉を行う必要があります。
 この場合、建物の老朽化が解約事由になることが多いかと思われますが、この場合でも必要に応じて立ち退き交渉や立ち退き料を支払うこともありますので、ご負担となってしまう可能性があります。
 
定期借家契約の場合、しっかりと手順を踏むことで契約期間満了時点で立ち退き交渉や立ち退き費用の支払い無く解約ができますので、契約期間満了までお待ちいただくことでその後の相続対策をスムーズに進められることになります。
 

定期借家契約のデメリット(注意点)

 
ここまで定期借家契約のメリットを書いてきましたが、下記のようなデメリットや注意点があります。
 

1.賃料が安くなってしまう可能性がある

 近年では定期借家契約で募集しても賃料にさほど影響はなくなってきましたが、現在でも定期借家契約に抵抗のある借主様がいらっしゃる印象があります。
 借主様からすると、契約期間満了時に契約が終了してしまうリスクがあるため、契約形態以外の条件が同じ2物件があった場合普通借家契約が選ばれる可能性が高いかと思われます。
 周辺の賃貸市況で定期借家契約があまり多くない場合は、やや相場賃料よりも安くする必要があるかもしれません。
 

2.契約に関する書類が増える

 定期借家契約では、契約締結前に対象の賃貸借契約が定期借家契約であることを書面(事前説明書)で説明する必要があります。
 万が一事前説明書の交付がなかった場合は、普通借家契約として扱われることになりますので、漏れがないようにご注意ください。
 また、上述したように契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに定期借家契約が終了する旨の通知を出す必要があります。
 こちらの期限を過ぎてしまった場合、通知した日から6ヶ月後が定期借家契約の終了日となります。
 こちらもその後の相続対策をスムーズに進めるためには漏れがないようにご注意ください。
 

3.定期借家契約に切り替えられない契約がある

 こちらは定期借家契約のデメリットとは少し異なりますが、継続中の普通借家契約の一番はじめの契約開始日が平成12年3月1日以前の場合は、普通借家契約から定期借家契約への切り替えは出来ません。
 また、平成12年3月1日以降の普通借家契約であっても、借主様が合意の上、普通借家契約を解約→定期借家契約を締結となりますので、場合によっては定期借家契約に切り替えるための交渉が必要になるかもしれません。
 

定期借家契約がお薦めです

 
この様に、賃貸借契約を定期借家契約にすることは、既に賃貸物件をご所有の方にとってその後の相続対策の第1段階になるかと思います。
一般的には、定期借家契約は不良借家人(賃料を度々滞納する、他の入居者様に迷惑をかけてしまう等)を契約期間満了時に出ていっていただくために利用する貸主様・賃貸管理会社様が多い状況です。
そのため、定期借家契約も広く周知されてきていると思いますので、現在ご所有の賃貸物件の賃貸借契約が普通借の場合は、ご依頼いただいている賃貸管理会社様に定期借家契約への切り替えや今後募集をする際に契約形態を定期借家契約に設定していただくようご相談いただくことをお薦めします。
相続対策で賃貸物件を利用する場合、金額が大きい売買価格や建築費に目が行きやすいのですが、賃貸物件の基本は賃料収入や賃貸借契約になりますので、今一度賃貸借契約の内容が重要な要因となってきます。
 
当センターでは現状賃貸管理をお受けする事は難しいのですが、賃貸借契約を確認して賃貸物件の改善点やその後の相続対策のご提案をさせていただいておりますので、賃貸物件をお持ちの方はお気軽にご相談ください。
 
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