皆さんこんにちは。相続スタッフの成田です。
今回は「介護をしない兄弟が相続権を主張してきた場合、遺産はどう分けるべきか?」というテーマについてお話しします。

相続のご相談の中でも、特に多いのが「介護をしていない兄弟が、当然のように相続権を主張してきた」というケースです。

ここで、実際によくあるケースを一つご紹介します。


【よくあるケースのご紹介】

兄は両親と同居し、長年にわたり介護を担ってきました。
通院の付き添いや生活のサポートなど、日常的な負担は決して小さなものではありません。

ところが両親が亡くなった後、これまで介護に関わってこなかった弟が現れ、「自分にも相続する権利がある」と遺産の分配を主張してきたのです。

介護をしてきた兄としては、「自分だけが苦労したのに、なぜ同じように分けなければならないのか」と納得できない気持ちになるのも無理はありません。


では、このような場合、法律上はどのように遺産を分けることになるのでしょうか。
また、介護を担った人が相続で有利になる方法はあるのでしょうか。

このコラムでは、介護をしない兄弟が相続権を主張してきた場合の考え方と、揉めないための対処法について分かりやすく解説します。

兄弟が介護をしなくても相続権を主張できる理由

兄弟が介護をしていなかったとしても、相続人である限り相続権はあります。

子どもは、親が亡くなった場合に法定相続人となるのが原則です。
そのため、「介護をしなかったから相続させない」と一方的に決めることはできません。

相続では、法律で定められた割合(法定相続分)をベースに遺産を分ける仕組みになっています。たとえ介護を担っていたとしても、自動的に取り分が増えるわけではないため、ここで不公平感が生まれやすくなります。


法定相続人について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご一読ください。


「親に冷たかった」「介護に協力しなかった」など、感情としては相続させたくないと思うこともあるでしょう。

ただ、介護不参加だけで相続権を失わせるのは現実的に難しいです。

相続人の権利を失わせる制度としては、次のものがあります。

  • 相続欠格(民法891条):殺害、詐欺・強迫による遺言妨害など、極めて重大な事情
  • 相続人の廃除(民法892条・893条):虐待や重大な侮辱などがあり、被相続人が家庭裁判所に申し立てて認められる場合があります。

しかし一般に、「介護しない」「実家に来ない」だけでは、このレベルの要件に届きません。

だからこそ、相続を「廃除」で解決しようとすると行き詰まりやすく、現実的には「調整」の方法(寄与分など)を検討する流れになります。


相続欠格について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご一読ください。


介護をした側が「損をした」と感じる背景

介護を担った人が強い不満を抱くのは、次のような理由が重なっているからです。

  • 介護の負担が長期間に及んだ
  • 仕事を休んだり辞めたりして収入が減った
  • 親の通院や生活支援に時間を使った
  • 介護費用を立て替えていた
  • 兄弟から感謝や協力がなかった

こうした状況で相続が始まると、「介護をしなかった兄弟が、相続権だけ主張してくる」ことが強い怒りにつながります。

しかし、相続手続きでは感情的になればなるほど協議がまとまらず、結果として手続きが進まなくなることが多いのです。


兄弟が介護しないのに相続権を主張して揉める主な原因

ここからは、実際に相続相談でもよく見られるトラブルの原因についてご紹介していきます。


原因① 遺産の中心が不動産で分けにくい

兄弟相続で特に揉めやすいのが「実家の土地・建物」です。

預貯金であれば金額を割れば済みますが、不動産は簡単に分けられません。
そのため、

  • 実家を売って現金化したい
  • 自分が住み続けたい
  • 思い出があるので手放したくない

など意見が割れ、揉める原因になります。


こちらのコラムでは、具体的な事例を交えながら「子ども2人、遺産は自宅のみ」の相続で起こりうるトラブルやその解決方法についてご紹介いたします。ぜひご一読ください。



原因② 介護をした側が寄与分を主張し、兄弟が納得しない

介護をしてきた方は「自分が多くもらうべき」と考えますが、介護をしていない兄弟は「法律上は平等では?」と反発することが多いです。

法律には「寄与分」という制度がありますが、寄与分は当然に認められるものではなく、証拠や具体的事情が必要です。
そのため、「寄与分を主張する側」と「認めたくない側」で対立しやすくなります。

寄与分については、後ほど詳しく解説します。


原因③ 生前贈与や援助が不公平だった

介護をしている側からすると、長年大変な思いをして親を支えてきたのですから、「遺産は自分が多く相続したい」と考えるのは自然な感情でしょう。

しかし一方で、介護をしている兄が両親の土地に家を建ててもらっていたり、生活費の援助を受けていたりした場合、介護に関わっていなかった弟としては「すでに十分な支援を受けていたのではないか」と不満を抱く可能性があります。

このように、相続人の一部が生前に特別な利益を受けていたケースでは、相続において「特別受益」が問題となることがあります。

特別受益とは、相続人の中に生前贈与など特別な利益を受けた人がいる場合、その分を相続分の前渡しと考えて調整する制度です。

特別受益については後ほど詳しく解説します。


原因④ 預貯金の使い込みを疑われる

介護をしていた人が親の通帳やキャッシュカードを管理していた場合、相続開始後に

「勝手に引き出していたのでは?」
「使い込んだのでは?」

と疑われることがあります。

実際に不正がなくても、領収書や記録が残っていなければ説明が難しく、疑いが晴れないまま揉めることも少なくありません。


寄与分とは?介護した人が相続で多くもらえる可能性はある?

介護をした人が相続で有利になる可能性がある制度が「寄与分」です。

寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした人がいる場合、その貢献分を相続分に上乗せできる制度です。

参考:民法904条の2

たとえば、親が要介護状態で本来なら介護施設への入所が必要だったにもかかわらず、相続人が同居して無償で介護を続けたことで施設費用を抑えられた場合、親の財産が減らずに維持されたと考えられます。

このように「介護によって支出が抑えられ、結果的に財産が守られた」と説明できるケースでは、寄与分が認められる可能性があります。

寄与分は、遺産分割協議の中で相続人全員が合意すれば反映できますが、合意が得られない場合には家庭裁判所での調停・審判に進むことになります。

ただし注意したいのは、寄与分は誰でも簡単に認められるものではない点です。

寄与分が認められるためには

  • 長期間の継続性のある行為(長期間の介護、家業の手伝いなど)
  • 無償で行っていた
  • 行為(介護や家事手伝いなど)の程度が「特別な貢献」と言える
  • 記録や証拠がある
  • 被相続人の財産の維持・増加に貢献したこと

といった条件が裁判上の重要な判断材料になります。


生前贈与を受けた兄弟がいる場合は特別受益が問題になる

兄弟の一人が、生前に親から住宅購入資金や結婚資金などを援助されていた場合、特別受益として相続分を調整できる可能性があります。

参考:民法903条

相続では法定相続分が基本となりますが、生前に特定の兄弟だけが大きな援助を受けていた場合、そのまま平等に遺産を分けてしまうと、結果として大きな不公平が生じることになります。その不公平を是正するために設けられているのが特別受益の考え方です。

たとえば、介護を担っていた兄が、親名義の土地に家を建ててもらっていた、住宅購入資金を援助してもらっていた、あるいは生活費を継続的に負担してもらっていたというケースがあります。

介護をしていた側からすると「親の面倒を見ていたのだから当然」と思うかもしれませんが、介護に関わっていなかった弟から見れば、「すでに兄だけが多くの利益を受けていたのではないか」と感じ、不満が噴き出す原因になります。

特別受益があると判断される場合、遺産分割では「持ち戻し計算」という方法が用いられます。これは、生前贈与などの利益を相続財産に一度加算して、相続財産が最初からその分も存在していたものとして相続分を計算し直す考え方です。

つまり、生前に多くの援助を受けた兄弟は、その分が差し引かれる形になり、結果として他の兄弟とのバランスが取られることになります。

特別受益は「援助を受けたように見える」というだけで必ず認められるわけではありません。

援助の趣旨や金額、資産状況、家族関係、そして当時の経緯などを踏まえて判断されるため、証拠や説明が不足していると話し合いがこじれやすくなります。

特に生活費の援助については、扶養の範囲内として扱われ、特別受益に当たらないと判断される場合もあります。

相続を円満に進めるためには、「介護をした側が寄与分を主張する視点」だけでなく、「生前に特定の相続人が利益を受けていなかったか」という特別受益の視点も含めて、全体の公平性を整理することが重要です。

兄弟間の不満が大きくなる前に、状況を客観的に整理し、必要に応じて専門家へ相談することをおすすめします。


特別受益の持ち戻しと相続税の暦年贈与持ち戻しルールの違い

話が少し脱線しますが「持ち戻し」という言葉が出てくるため、相続税の「7年加算(生前贈与の加算)」と同じ制度だと誤解される方がいらっしゃるのではないかと思い、ここで両者の違いについてお話ししようと思います。

特別受益の持ち戻しと相続税の暦年贈与持ち戻しルールは、目的も根拠となる法律も異なる別の制度です。

まず、特別受益の持ち戻しとは、遺産分割において相続人間の公平を図るための考え方です。たとえば、兄が生前に住宅資金として多額の援助を受けていた場合、その援助を「相続分の前渡し」とみなし、遺産に加算して相続分を計算し直します。

これは民法(民法903条)に基づく制度であり、兄弟間での取り分を公平に調整するために行われます。

一方、相続税の7年加算は、相続税の計算を行う際に、生前贈与の一部を相続財産に加算して課税する制度です。これは税法上のルールであり、遺産分割の取り分を決めるための制度ではありません。目的はあくまで相続税の公平な課税にあります。

つまり、特別受益の持ち戻しは「兄弟間の遺産分割の公平」を目的とする民法上の制度であり、7年加算は「相続税の課税計算」を目的とする税法上の制度です。両者は似た言葉が使われますが、手続きや影響する範囲が異なるため、混同しないようお気を付けください。


兄弟が介護しないのに相続権を主張する場合の現実的な対処法

ここからは、相続で揉めないための具体的な対処法を解説します。


対処法① 介護費用の立替分を整理し、精算を提案する

介護にかかった費用を立て替えていた場合は、領収書や通帳履歴を整理し、「立替金」として遺産から精算する提案が有効です。

介護の労力を金額として評価するのは難しいですが、実際に支払った費用であれば比較的話し合いがしやすくなります。


対処法② 不動産は「代償分割」「換価分割」を検討する

実家などの不動産がある場合、分け方には次の選択肢があります。

  • 換価分割:売却して現金で分ける
  • 代償分割:一人が相続し、他の兄弟に代償金を払う

たとえば、介護を担った人が実家を相続し、代償金を調整するなど、現実的な落としどころをみつけることをおすすめします。


対処法③ 感情的に責めず、協議を「手続き」として進める

介護をしていない兄弟に対して怒りが出るのは当然ですが、相続の話し合いは感情がぶつかるほど長期化します。

遺産分割協議がまとまらなければ、預貯金解約も不動産名義変更もできず、結果として全員が不利益を被る可能性があります。

そのため、協議は冷静に進めることをおすすめします。


対処法④ 話し合いが無理なら調停も視野に入れる

兄弟間の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てることも可能です。

第三者が入ることで、感情的な対立が和らぎ、現実的な解決に進みやすくなるケースもあります。


親が元気なうちにできる「揉めないための生前対策」

介護と相続をめぐる兄弟トラブルは、親が亡くなってから解決しようとすると、感情的な対立が深まりやすく、手続きも長期化しがちです。
そのため、可能であれば親が元気なうちに対策しておくことをおすすめします。

特に効果的なのが、遺言書の作成です。


遺言書があれば、親の意思を明確に残すことができるため、相続開始後の手続きがスムーズになり、兄弟間の無用な争いを防ぐことにつながります。

親が「介護してくれた子に多めに残したい」と考えている場合は、遺言書を作成しておくことで、相続開始後の争いを防ぎやすくなります。

また、遺言書を遺すだけではなく、誰にどのくらい相続したいのかを生前に話し合うとよいでしょう。

たとえば、献身的に介護をしてくれている兄に遺産を多く残したいのであれば、生前にその気持ちを弟に伝えることをおすすめします。

きちんと気持ちを伝えておけば、弟が介護の分担について考え直すきっかけにもなりますし、弟が介護をすることが難しければ、介護をしてくれている兄に感謝の気持ちが芽生え、相続争いになる可能性も低くなります。

遺産相続トラブルに発展しないために、生きているうちに気持ちを伝え、残されるものの意見を聞きながら、適切な遺言書を作成するようにしましょう。

また、生命保険を活用して介護した子に財産を残す方法もあります。


生命保険を相続対策で活用する方法について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご一読ください。


まとめ

兄弟が介護していないのに相続権を主張してくると、介護を担った側は不満が溜まってしまいます。

しかし、法律上は介護をしていなくても相続権があり、感情的な対立が激しくなるほど相続手続きは長期化します。

介護した側が納得できる形に近づけるためには、

  • 寄与分の主張
  • 特別受益の整理
  • 介護費用の精算
  • 不動産の分割方法(代償分割・換価分割)

などを検討し、冷静に遺産分割協議を進めることをおすすめしています。

相続で兄弟関係が壊れてしまう前に、必要に応じて専門家へ相談し、家族全員が納得できる形を目指しましょう。

一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、遺産分割についてのご相談を受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。


執筆:成田春奈
監修:司法書士NK法務事務所 中嶋英憲 司法書士