相続税には申告・納付の期限が設けられており、ともに「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。多くのケースでは相続の開始を知った日、とは被相続人の死亡日であり、ご家族が亡くなられてから10か月以内に相続税を納付する必要が生じます。
この間には、社会保険の手続きや遺産分割協議、遺品整理や法要などを行うことになるため、非常に多忙な中で相続税申告の準備を進めるため、期限が迫ってしまう方も少なくありません。そこで、本記事では相続税の申告期限が迫ったときの対処法や、押さえておきたい注意点を詳しく解説します。

相続税の申告・納付期限とは?基本をおさらい
相続税の申告と納付は期限が定められています。相続税は税務署が計算し、納付書を送ってくれるものではないため、納税者側が計算した上で納税を行う必要があります。そこで、この章では相続税申告・納付期限について基本をおさらいします。
相続税の申告期限|起算日と具体例を紹介
相続税の申告・納付期限は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。相続の開始を知った日とは相続人によって異なる場合もあるため、被相続人が亡くなった日(死亡日)とは限りません。
海外で暮らす相続人や、先順位の相続人が相続放棄をしたなどの理由で、死亡日以外に相続の開始を知ることも珍しくありません。
■相続税申告期限の具体例
- 2025年1月15日に被相続人が死亡し、その事実を死亡日当日に相続人が知った場合、申告・納付期限は2025年11月15日
- 2025年3月1日に被相続人が死亡し、その事実を2025年5月1日に相続人が知った場合、申告・納付期限は2026年3月1日
なお、遺言書で相続人以外の人が遺贈を受ける場合、相続の開始を知った日は遺贈について知らされた日です。
相続税の納付・申告期限である10か月という期間は、遺産分割協議や各種相続財産にまつわる書類の収集、財産評価、相続税計算など、多岐にわたる準備を進める期間です。決して長い期間とは言えないため、相続開始後速やかに用意を進める必要があります。
納付期限が土日・休日に該当したらどうする?
相続税の申告・納付期限が土曜日や日曜日、国民の祝日(休日)に該当する場合、その期限は翌日以降の平日へ繰り延べられます。
■具体例
申告・納付期限が2025年11月15日(土)の場合、翌日ではなく2025年11月17日(月)に繰り延べられます。
相続税の申告期限を過ぎたらどうなる?
相続税の申告・納付期限を過ぎてしまうと、延滞税などのペナルティが課されることになります。遺産分割協議が終わっていなくても、期限を延長することはできません。この章では申告期限を超えた場合に課せられるペナルティを中心に解説します。
期限を超えるとペナルティが課せられる
相続税は期限内に申告・納付が行われなかった場合、おもに以下の税金が課されます。
課される条件 | 税率 | 備考 | |
無申告加算税 | 相続税の申告期限までに申告書を提出しなかった | 自主的に期限後申告した場合:5% 税務署の調査後: 50万以下の部分15% 50万円超の部分20% | 提出期限から2週間以内であれば無申告加算税は加算されません |
過少申告加算税 | 申告期限までに提出した申告額が少なかった | 自主的に修正申告した場合:0% 税務署の調査通知後:追徴税額の5%、もしくは10% (追徴税額が当初申告の相続税額もしくは50万円のいずれか多い方の金額を超える場合は、超えた部分に対して10%) | 税務調査後に修正申告すると、追徴税額の10%もしくは15%になります |
重加算税 | 意図的に税額を隠蔽・仮装した場合 | 無申告の場合:40% 過少申告の場合:35% | 最も重いペナルティ |
延滞税 | 法定納期限までに税金を納付しなかった場合 | 納期限の翌日から2か月以内:年7.3%と延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い方 納期限の翌日から2か月超:年14.6%と延滞税特例基準割合 + 7.3%のいずれか低い方 | 納付が遅れた日数に応じて発生します。 |
控除や特例が適用できなくなる可能性
相続税には、納税者の負担を軽減するための控除や特例が設けられています。ただし、控除や特例によっては適用後の相続税が0円であっても申告書を提出することを適用要件としています。
申告書が必要な特例・控除の一例は以下です。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者が相続した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからないという控除です。
- 小規模宅地等の特例
被相続人の自宅や事業用の土地などについて、相続税評価額を最大80%減額できる特例です。
- 農地の納税猶予の特例
被相続人からの農地を、農業を営む相続人が取得し、引き継いで農業を継続する場合に、相続税の納税を猶予できます。
この他にも、公益法人への寄付や特例計画山林の特例など、申告が必要なケースがあります。詳しくはお気軽にお尋ねください。
相続税の申告期限に間に合わない!困った時の対処法
万が一、相続税の申告期限が迫っているにもかかわらず、準備が間に合わないという状況に陥った場合でも適切な対処を講じることで、ペナルティを最小限に抑えることができます。詳しくは以下のとおりです。
まずは早急に税理士へ相談し、申告を間に合わせる
期限が迫っている場合は、相続税に強い税理士へ早急に相談することが大切です。経験豊富な税理士であれば、限られた時間の中で効率的に申告準備を進め、間に合わせられるケースもあります。
仮に、申告期限までにすべての相続財産の評価が完了していなかったり、遺産分割協議がまとまっていなかったりする状況でも、重いペナルティを避けるために「期限内申告」を行うことが大切です。
■未分割申告も可能
遺産分割協議が終わっておらず、相続税申告期限が迫っている場合は、法定相続分で分割したとして申告書を提出することもできます。この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで、後日分割が確定した際に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用することも可能です。
延納・物納を検討する
相続税は原則として現金一括納付が求められますが、困難な場合は「延納」や「物納」も検討できます。
・延納
金銭で納付することが難しい場合、一定の要件をクリアしていると延納が認められる可能性があります。
・物納
延納でも相続税の納付が難しい場合、物納が認められる場合があります。
延納・物納は細やかな要件があるため、ご検討される方は以下リンクからご確認ください。
※参照:国税庁 No.4211 相続税の延納
※参照:国税庁 No.4214 相続税の物納
クレジットカードで納付する
国税の納付方法としてクレジットカード払いが選択できるようになりました。これにより、納税資金の準備に猶予がない場合でも、納税することが可能です。手元に現金がなくても納税できます。
ただし、納税額に応じて決済手数料がかかるほか、納税できる金額は1,000万円まで、かつ利用者によってはクレジットカードにも限度額も設定されているため注意が必要です。
あくまで一時的な対処法であり、決済手数料がかかる点を理解した上で利用を検討しましょう。
※参考:国税庁 クレジットカード納付のQ&A
相続開始直後から税理士への早期相談がおすすめされる理由
相続税の申告・納付期限は10か月と定められていますが、この期間内に適切に手続きを完了させるためには、相続開始直後から税理士に相談することが大切です。この章では税理士への早期相談がおすすめされる理由をわかりやすく解説します。
必要書類の収集や相続税の計算を依頼できる
相続税申告には戸籍謄本や住民票、印鑑証明書はもちろん、財産の種類によってさまざまな資料を収集する必要があります。
固定資産税評価証明書、預貯金残高証明書などが挙げられますが、こうした必要書類は発行に時間がかかるものも多く、不慣れな方が漏れなく整えることは骨の折れる作業です。
また、相続財産評価や相続税計算は非常に専門性が高く、税法上の特例適用なども考慮する必要があります。
税理士に依頼することで、書類収集から正確な財産評価、複雑な相続税計算までを一任できるため、相続人の時間的・精神的負担を大幅に軽減できます。
二次相続に向けた節税のアドバイスも受けられる
一次相続だけでなく「二次相続」まで見据えた節税対策も非常に重要です。一次相続で安易な遺産分割をしてしまうと、二次相続でかえって税負担が増えてしまうケースも少なくありません。
経験豊富な税理士は、一次相続の申告を行う際に、将来の二次相続まで見据えた最適な遺産分割のアドバイスや生前贈与などの節税対策を提案してくれます。これにより、家族全体の税負担を長期的に最小化することが可能です。
書面添付を活用した安全な申告も依頼できる
相続税申告には、「書面添付」というものがあります。これは、税理士が申告書の内容について税務署に説明する書面を添付する制度です。
書面添付を利用することで、税務署は申告書の内容について不明な点がある場合、いきなり税務調査に入るのではなく、まず添付書面を作成した税理士に意見聴取を行います。税理士に依頼することで「安全性の高い申告」を行うことができ、税務調査のリスクを低減できます。
税務調査対策を講じておける
相続税の申告に誤りなどがあると税務調査を受ける可能性があります。税務調査が行われると追徴を受ける可能性は高いため注意が必要です。
税理士は税務調査で指摘されやすいポイントを熟知しており、申告書の作成段階からこれらのリスクを考慮した対策を講じることができます。また、万が一税務調査が入った場合でも、税務調査官の質疑応答の代行、必要な資料の提出などを税理士がサポートしてくれるため、納税者にとって大きな精神的支えとなります。
相続税の申告期限間近!押さえておきたい注意点とは
相続税の申告期限が間近に迫っている場合、特に注意すべき点がいくつかあります。
遺産分割協議がまとまっていない場合
相続人が複数いる場合、原則として相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどれだけ相続するかを決める必要があります。しかし、この協議が意見の対立などにより、申告期限までにまとまらないケースは少なくありません。
遺産分割協議がまとまらない場合でも、前述の通り「未分割申告」を行うことが可能です。法定相続分で仮に申告書を提出し、後日分割が確定した際に修正申告(または更正の請求)を行います。この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することを忘れないようにしましょう。
この書類を提出することで、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を後から適用できる道が残されます。
相続人の中に認知症や行方がわからない方がいる場合
相続人の中に認知症などで判断能力を欠く方がいる場合や行方不明の方がいる場合、遺産分割協議を進められないため、以下の準備を進める必要があります。
- 相続人に認知症の方がいる場合
家庭裁判所に「成年後見人」の選任を申し立てる必要があります。成年後見人が選任されると、成年後見人が遺産分割協議に参加できるようになります。
- 行方不明の相続人がいる場合
家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てるか、7年間生死不明の場合は「失踪宣告」を申し立てる必要があります。
これらの手続きは時間がかかり、相続税の申告期限に間に合わない可能性が高いため、早期に弁護士や税理士へ相談しましょう。
納税資金が確保できていない場合
相続財産の大半が不動産などの現金化しにくい資産である場合、相続税の納税資金が不足する事態が発生しがちです。期限内に納税資金を確保できなければ先述のとおり延滞税等のペナルティが課せられます。
金融機関からの借入や延納・物納の検討、不動産の売却などをできる限り早期に検討しましょう。
申告期限を過ぎてしまったときの対処法
万が一相続税の申告期限を過ぎてしまっても、そのまま放置することは絶対に避けなければなりません。速やかに以下の対処法を講じましょう。
1日でも早く速やかに期限後申告する
申告期限を過ぎてしまった場合でも、税務署から指摘を受ける前に自主的に期限後申告を行うことが非常に重要です。
また、延滞税は日ごとに加算されていくため、申告・納付が遅れるほど負担が大きくなります。期限を過ぎたことに気づいたら、1日でも早く申告書を提出し、納税を完了させることが最善の策です。
誤りがあった場合は修正申告を急ぐ
期限内に申告書を提出したものの、後から計算誤りや申告漏れの財産が見つかった場合、速やかに「修正申告」を行う必要があります。申告後に預貯金が見つかったなどの場合、まずは税理士へご相談ください。
税金を多く払いすぎたことに気づいた場合は、「更正の請求」を行うことで還付を受けられる可能性があります。
預金の相続に関する詳細については、こちらのコラムをご参照ください。
まとめ
相続税の申告・納付期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」と定められており、この期間内に適切に手続きを完了させることは、重いペナルティを回避するためにも不可欠です。
期限を過ぎてしまった場合、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるだけでなく、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった重要な節税特例が適用できなくなる可能性があります。
相続開始直後から、税理士をはじめとする専門家へ早期に相談することで申告漏れなどのトラブルを防げます。まずはお気軽にさいたま幸せ相続相談センターへご相談ください。
執筆:岩田いく実
監修:税理士法人ブライト相続 戸﨑貴之 税理士