相続人に未成年の方がいる場合、通常の相続手続きとは異なる注意点があることはご存じでしょうか。特に未成年者とその親(被相続人の配偶者)が相続人となるケースでは、「特別代理人」の選任が必要となる場合があります。そこで、本記事では相続人に未成年がいる際に、知っておきたい手続きや注意点を詳しく解説します。

未成年でも相続人になれる!
被相続人が所有していた財産や債務を相続人が引き継ぎます。民法では「法定相続人」について範囲と順位を定めています。相続人が未成年だった場合でも、財産を相続する相続権を有しますので注意が必要です。
詳しく知りたい方はこちらのコラムもご一読ください。
胎児も法定相続人になれる
胎児が相続人として権利を行使するためには、無事に生まれてくる必要があります。
胎児が相続人になっている場合、遺産分割協議を進めることはできません。無事に出産したことを確認した上で協議を進めます。
未成年も相続人だが法定代理人が必要
未成年も法定相続人になれますが、単独で法律行為を行うことができません。法律行為とは自分の意志や意見を主張し、法律上の効果を生じさせることを意味します。つまり、契約や遺言、遺産分割協議が該当します。
まだ判断能力に乏しい未成年は遺産分割協議で自身の意見を主張することは難しいため、「法定代理人(通常は親権者)」や「特別代理人」が、未成年に代わって協議を進める必要があります。
(特別代理人については後述します)
18歳以上は法定代理人不要
2022年4月1日の民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これにより18歳以上の方は、法定代理人の同意なく単独で法律行為を行うことが可能です。例えば、18歳や19歳の子が相続人になった場合でも、親の同意なしに遺産分割協議に参加することができます。
未成年が相続人|特別代理人が必要となるケース
未成年者が相続人になる場合、原則として親権者が法定代理人になり相続手続きを進めます。しかし、特定のケースでは「特別代理人」の選任が必要です。この章では特別代理人について、必要なケースなどを詳しく解説します。
特別代理人とは
特別代理人とは、未成年者や成年被後見人が法律行為を行う必要がある際に、家庭裁判所によって選任される、一時的に任命された法定代理人のことです。
相続では、親権者と未成年者、または未成年者同士の間に「利益相反」がある場合に、未成年者の利益を守るために選任されます。
例・父が亡くなり、被相続人の配偶者である母と未成年の子1名が相続人になった。
このケースでは、母と子がともに相続人となるため利益が対立します。この場合、子に特別代理人が必要です。
特別代理人が必要なケース
相続時に特別代理人が必要となるケースを具体的にご紹介します。
親と未成年の子がともに相続するケース
例・父が死亡、相続人に被相続人の配偶者である母・未成年の子2名
このケースでは母親が未成年の子2名の特別代理人になることはできません。また、特別代理人は1名につき1名とされるため、このケースでは特別代理人が2名必要です。
認知された子がいるケース
例・内縁関係の夫が死亡、相続人に認知された子2名、内縁関係の妻は相続人にはなれない
このケースでは、認知された子2名が相続人になりますが、内縁関係の妻は相続人にはなれないため、子2名のうち1名の特別代理人になることができます。ただし、兼任はできないため、もう1名別の特別代理人が必要です。
特別代理人が不要なケース
以下のようなケースでは特別代理人は不要です。
未成年者のみが相続人である場合
相続人に親権者がいない場合は利益相反の関係が生じません。
例として、父が先に死去しており、死去した亡父の祖父母が死去、財産を孫が相続するようなケースでは母は祖父母の法定相続人ではないため未成年者が複数なら必要かと思われますが、不要となります。
相続放棄
未成年者が相続放棄をする場合は親権者と同時に放棄であれば特別代理人が不要です。
親権者と未成年者が共同相続人だが、遺言書がある場合
遺言書の内容に沿って遺産を分配するため、特別代理人は原則不要です。
特別代理人になれる人
特別代理人には、資格要件などは設けられておらず、利益相反が生じない人であればだれでも特別代理人になれます。一般的には相続人以外の親族や、弁護士などの専門家に依頼することが多いでしょう。
特別代理人の選任の流れ
相続時に特別代理人が必要となった場合には、どのような手続きを行えばよいのでしょうか。この章では特別代理人の選任について基本的な流れを詳しく解説します。
※参照 裁判所 特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)
申立て先
特別代理人の選任申立ては「未成年の子の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
管轄する家庭裁判所については以下リンクからお調べください。
※参照 裁判所 裁判所の管轄区域
必要書類と費用
家庭裁判所へ申立てを行う際には、主に以下の書類が必要です。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 親権者または未成年者後見人の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附表
- 利益相反がわかる資料(遺産分割協議書案など)
この他に、家庭裁判所から追加資料を求められた場合は提出が必要です。
費用は子1名につき収入印紙800円、各家庭裁判所が指定する郵便切手をご用意ください。
家庭裁判所からの照会
上記書類と費用を用意し提出すると、次に家庭裁判所から特別代理人候補者へ照会が行われます。選任が必要な理由などを確認する書面が郵送で届くため、必要事項を記載し返送します。
この際に、遺産分割協議書案の内容についても回答書にて確認が行われることがあります。未成年者に不利な内容の遺産分割協議書案は認められないため注意が必要です。
審判
照会が終わると家庭裁判所が審判を行い、特別代理人が決定します。この時には審判と書かれた書面が作られます。審判が決定してから未成年者を含めた相遺産分割協議を行い、相続手続きを進めていきます。
未成年が相続人になる際の注意点
未成年者が相続人になる場合、特別代理人の選任以外にもいくつか注意すべき点があります。
未成年者控除
相続税が発生する場合、未成年者が相続人となる場合には「未成年者控除」が適用できます。これは、未成年者が満18歳で成人するまでの年数、1年につき10万円を計算した額を相続税から控除できるものです。
年数に1年未満の期間が合ったら切り捨てて計算します。(例・12歳2ヶ月→12歳で計算)
もしも未成年者控除を適用すると相続税が0円になる場合は、相続税申告は不要です。
詳しい要件などについては、以下リンクをご確認ください。
※参照 国税庁 No.4164 未成年者の税額控除
遺産分割の遅れに注意
特別代理人の選任手続きや、その後の遺産分割協議には時間がかかることがあります。
相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」であり、遺産分割協議がまとまらないと、相続税の特例が適用できないなどの不利益が生じる可能性があります。そのため、早めに手続きを進めることが大切です。
まとめ
本記事では、未成年者が相続人になる場合について、特別代理人の制度を中心に詳しく解説しました。
相続人の中に未成年者がおり、親権者との間で利益相反の関係が生じる場合は、特別代理人の選任が必要です。手続きは家庭裁判所への申立てによって行われ、必要書類の準備や期間を要します。相続税申告の期限も意識しつつ、早めに進めることが大切です。
相続に関するご不明な点があれば、どうぞお気軽にさいたま幸せ相続相談センターへご相談ください。
執筆:岩田いく実
監修:おがわ司法書士事務所 小川直孝 司法書士