戸籍に氏名の「ふりがな」を記載する制度がスタートしました。いつから始まったかというと2025年5月26日から施行されました。この改正戸籍法は、単なる戸籍の整備にとどまらず、私たちの暮らしと手続きをより円滑にするための制度改革でもあります。なかでも相続手続きの分野においては、本人確認の精度が向上し、書類作成や調査の効率化につながると期待されています。
本コラムでは、今回の戸籍法改正の背景と相続手続きへの影響について、わかりやすくご紹介します。

戸籍とは?わかりやすくご紹介
「戸籍」とは、日本の家族関係や個人の身分事項を記録・証明する重要な公的書類です。そこに記されている内容を写し取ったものが「戸籍謄本(こせきとうほん)」と呼ばれます。戸籍には本籍地が記載されますが、住所(住民票上の所在地)は含まれていません。
この戸籍は本籍地の市役所・区役所などで管理しています。ちなみにデジタル化された後の戸籍謄本のことを「戸籍全部事項証明書」と呼んでいます。
実務では「戸籍全部事項証明書」と「戸籍謄本」は同じ意味合いで呼んでいるため、区別して覚える必要はありません。
戸籍謄本や住民票について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
亡くなった方の戸籍謄本の取得方法を知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
相続手続きでは、戸籍の種類を正しく理解していないと、戸籍を集める際に戸惑うことがあります。ここでは、代表的な4種類の戸籍書類について解説します。ぜひ一緒に確認しましょう。
戸籍の4つの種類
【1】戸籍謄本(=戸籍全部事項証明書)
戸籍謄本は、ある戸籍に入っている全員の氏名、生年月日、親子関係、婚姻状況などが一括で記載されています。戸籍が電子化された現在では「戸籍全部事項証明書」という名称になっています。記載内容から本籍地、両親の氏名、婚姻歴、離婚・死亡などの異動情報が確認できます。
【2】戸籍抄本(=戸籍個人事項証明書)
戸籍抄本は、戸籍内の一部の人物のみについて記録されている書類です。たとえば本人のみ、あるいは兄弟のうち特定の人だけの情報を記載してもらうことができます。戸籍の電子化以降は「戸籍個人事項証明書」という名称になります。
【3】改正原戸籍謄本
(読み方:かいせいげんこせきとうほん、かいせいはらこせきとうほん)
改正原戸籍謄本は、戸籍制度が改正される前の古い様式の戸籍です。コンピュータ化される以前の手書き様式の戸籍で、すでに除籍された人物の過去の情報を確認する際などに使われます。「改製原戸籍謄本」は「原戸籍(はらこせき)」とも呼ばれます。
【4】除籍謄本
除籍謄本は、その戸籍に記載されていたすべての人物が婚姻・転籍・死亡などで戸籍から抜けた(=除籍された)場合に、その内容を写したものです。相続人の出生からの戸籍をたどる際などに必要になる、大切な書類です。
読み仮名記載の背景 なぜ必要だったのか
これまで戸籍は漢字表記のみで、ふりがなは記載されていませんでした。そのため、例えば戸籍に書かれている名前が「麻実」だった場合「まみ」と読むのか「あさみ」と読むのかは、戸籍だけでは分かりませんでした。
相続の場面でも、戸籍上の名前と実際に使われている読みが一致しないことで、金融機関や公証役場、法務局などとの手続きに混乱が生じることがありました。
また、同じ漢字でも読み方が複数存在するため、相続人の特定や戸籍調査がスムーズに進まないケースもありました。こうした背景から、戸籍にふりがなを記載することで、本人確認の正確性を高め、行政手続き全般の効率化を図る狙いがあります。
通知はがきの仕組みと対応の流れ
制度施行に伴い、2025年5月26日以降に、本籍地の市区町村から「戸籍に記載される振り仮名の通知書」というはがきが発送されます。このはがきには、それぞれの戸籍に登録されている氏名の読み仮名(筆頭者は氏名、その他は名前のみ)が記載されています。
通知の内容に誤りがあった場合や、実際に使っている読み方と異なる場合は、1年以内(2026年5月25日まで)に訂正の届け出が必要です。届け出は、マイナポータルまたは市区町村の窓口で行えます。届け出がなければ、はがきに記載された通りの読み仮名が自動的に登録されてしまうので、気を付けましょう。
相続手続きには影響あるの?2つの具体的な影響
【1】読み違いによるトラブルの防止
相続手続きでは、被相続人や相続人の氏名が複数の書類に記載されます。漢字表記だけでは読み方が分からず、読み違いや誤記の原因になり得ました。ふりがなが明記されることで、本人確認が以前よりスムーズになり、トラブルの未然防止につながります。
【2】書類作成の効率化
遺産分割協議書や遺言執行手続き、金融機関の相続手続きなどでは、氏名のふりがなが求められることがあります。戸籍に公式なふりがなが記載されていれば、書類間の整合性が取りやすくなり、業務の正確性とスピードが向上します。
特殊な読み方・キラキラネームへの対応
今回の改正では、「読み仮名の基準」も設けられています。読み仮名として認められるのは、「社会的に一般に認められている読み方」に限られ、極端に特異な読み(いわゆるキラキラネーム)は制限される方向です。
たとえば、太郎を「じろう」、健を「けんいちろう」とする全く関係のない読みは認められない一方で、心愛「ここあ」、飛鳥「あすか」のように一定の範囲内での自由は残されています。
こうした基準は、出生届や婚姻届など今後の戸籍記載にも適用されるため、「相続の時だけでなく、名付けの段階から読み方が問われる時代」になったともいえるでしょう。
※参照:戸籍にふりがなが記載。2025年5月26日以降に自治体から通知が届いたら必ず確認を!
ふりがなの訂正は可能?必要な条件と注意点
届出により一旦戸籍に記載されたふりがなを変更する場合は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を市区町村に届出しなければなりません。
ただし、訂正には「合理的な理由」と「証明資料(免許証、通帳、職場での記載など)」が求められ、頻繁な変更はできません。相続の書類と照合される名前であることを踏まえ、届け出の際は慎重な確認が求められます。
なお、上記にかかわらず、制度開始から1年の間にふりがなの届出がないことで、本籍地の市区町村長によって氏名のふりがなが戸籍に記載された場合は、氏名のふりがなについて、1回に限り、家庭裁判所の許可を得ることなく届出のみで変更することが可能です。
※参照:戸籍にフリガナが記載。2025年5月26日以降に自治体から通知が届いたら必ず確認を!
まとめ
戸籍にふりがなが記載される新制度は、単に書類を整えるだけでなく、相続手続きをより正確かつ円滑に行うための土台を築くものです。
通知はがきが届いた際には、読み仮名に誤りがないか必ず確認しましょう。そして、訂正が必要な場合は、必要書類をそろえたうえで、1年以内(2026年5月25日まで)の届け出を忘れずに行ってください。
この制度改革は、行政のデジタル化とともに進む時代の要請に応じたものであり、私たちが「自分の名前」と向き合う良い機会でもあります。相続人調査や書類作成の円滑化を図る意味でも、正しいふりがなの登録は将来の安心につながる大切な一歩です。
相続手続きを進めるうえで、避けて通れないのが「被相続人の戸籍謄本」の収集です。しかも必要となるのは、亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍。
しかし、戸籍に慣れていない方にとっては、どこに請求すればいいのか、どう読み解けばいいのか、とまどうことも多いのではないでしょうか。もしご自身での取得や確認に不安を感じる場合は、無理をせず専門家に相談することをおすすめします。
私たち一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、戸籍の収集や相続人調査といったサービスも行っております。ぜひお問合せください。
執筆:成田春奈