「不動産の相続を巡って、家族で揉める」

仲のよいご家族やご兄弟などであっても、不動産を巡ってもめてしまうということは残念ながら非常に多くあります。

ご相続は人生の経験において、何度も経験するものではありません。また同様に、不動産という大きな財産のお取引を何度も経験している方も少ないのではないでしょうか。

どうして不動産の相続は難しいのか?について、相続コンサルタントの馬渕が解説します。

不動産が分けられないから

相続で揉める一番大きな理由が、分けられない財産だからです。

ご相続をした財産が全て現金であれば、相続人の希望にそってそのまま分けることができますが、不動産はたったひとつのものです。

大きな土地であれば相続した土地を分筆して物理的に分割することもできますが、建物は物理的に分割することはできません。また、仮に同じ大きさの土地を分筆することができたとしても(そもそも同じ大きさに土地を分筆できることも非常に稀です)、日当たりや接道、方角や形状といった条件が異なるため全く同じ価値になることはあり得ません。

「南側の日当たりのいい土地がいい」とか、そんな意見がでてしまうことも仕方のないことと思います。

相続した不動産が2か所あり、相続人が仮に2名だったとしましょう。

不動産が2か所あるなら、1つずつ分ければいいと思うかもしれません。しかしながら、不動産には個別要因で価値が決まります。快速電車の止まる駅から近く利便性の高い不動産Aと各駅しか止まらない1駅となりの駅徒歩35分の不動産Bだったとしましょう。それらを単純に分けるとして、平等な相続ができるでしょうか?

おそらく相続人のどちらかが、不平等感を感じることになるでしょう。

兄弟間の相続トラブルについて詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。 

不動産の共有名義にするリスクがあるから

では、物理的に不動産を分割するのではなく、相続人全員で不動産を共有名義にすればいいとお思いになるかもしれません。

結論としては、「相続不動産の共有名義にすること」は得策ではありません。

いくつかの理由がありますが、民法上共有名義の不動産の維持・管理(修繕、リフォーム、賃貸)に関しては、すべての共有者全員の同意が必要となります。

相続した実家を、相続人である子供(兄弟二人)で共有の名義にして分割したとしましょう。兄弟たちは思い出の実家なので、相談の上売却せずに賃貸で貸しに出そうということになりました。しかしながら、建物はしっかりしているものの設備が古くなかなか現状のままでは借り手が見つかりません。そこで、兄はリフォームして賃貸に貸し出したいと弟に提案をしたものの、リフォームには費用がかかり余裕もないので反対をされてしまいました。その結果相続をしてからというものの、長年空き家状態のままになってしまいました。しかも、実家のすぐ近くに住んでいる兄は近所の目も気になるので、庭の草刈りや空き家のメンテナンスを定期的に行っていましたが、遠方に暮らす弟はそんな兄の苦労も知らず・・・。

しびれを切らした兄が、長年空き家のままでももったいないから売却しようと思っても、当然共有者である弟の同意が得られなければ売却をすることもできません。(※自身の持ち分だけを売却するということも可能ですが、実際は相場よりも非常に安い価格での取引となってしまいます)

こんなことで、仲の良かった兄弟の関係がギスギスしてしまったりしてしまうのです。

相続に関わるコンサルタントとして、不動産名義の共有をお勧めしない理由のもう一つ大きなポイントとして「将来、さらに共有者が増えてしまうリスクがあります。

共有者のうちの誰かが亡くなった際、相続でさらに権利者が増えていく可能性が高いからです。もしかすると、1度も会ったことのない親族と不動産を共有することとなる可能性もあります。その場合の連絡を取ることも、話し合いをして意思決定をすることも大変困難になることは容易に想像できます。

このように共有状態の不動産の持ち分が何代もわたって相続され、非常に権利が複雑になってしまい実質「塩漬け状態」になってしまった不動産がたくさんあり、社会問題にもなっています。

このような問題に発展しないよう、安易に不動産を共有名義にするのではなく、将来を見据えた検討が必要となります。

不動産の共有持分の放棄について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。 

相続人のうち誰かが実際に住んでいる場合

先の例の兄弟の場合で考えてみましょう。実家は二世帯住宅で兄が両親と一緒に暮らしていたとしましょう。その場合、更に話はややこしく複雑化していきます。

実際に兄家族が暮らしている不動産であるため、物理的に分割することもできませんし、売却して分けるということもできません。共有名義にすることもできなくはありませんが、兄としては、自身の暮らす不動産の名義の一部を弟が持つことを受け入れることは難しいと思われます。ほとほと兄は困ってしまいます。とはいえ弟としても、平等に相続を受ける権利があるので両者にとって平等な分け方はできるのでしょうか?

そこで、選択肢に挙げられるのが「代償分割」という方法です。

特定の相続人が不動産などの現物を相続する代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払うことで、相続の公平を図るという方法です。相続の現場では、代償分割という方法は不動産のように現物での分割が難しい財産が含まれる場合には、非常によく用いられる遺産分割の手法の一つです。

代償分割にもデメリットがあり、不動産を相続した兄が弟に支払うため多額の代償金を準備する必要があります。相続財産に預金が多くあれば代償金を工面することも可能ですが、相続財産が不動産だけの場合には、相続人である兄が代償金を工面する必要があり困難を極めます。

次で詳細をご説明しますが、不動産の評価額や代償金の額を巡って、相続人間での意見の食い違いがあり、話し合いがまとまらないなんてことも実はたくさんあります。

一物四価と言われる不動産の価値を巡って意見が分かれるから

不動産の相続で揉める根本的な原因が、一つの不動産に対して、性質の異なる4つの価格が存在するという不動産ならではの性質によるものです。不動産の評価を行う目的や主体によって、その評価額が異なるために生じます。

簡単にまとめてご紹介します。

不動産の評価

  • 時価(実勢価格)・・・実際の市場での価格
  • 公示(基準)価格・・・公示価格(こうじかかく)とは、地価公示法に基づいて国土交通省の土地鑑定委員会が毎年公示する価格。一般の土地取引を行う際の指標となる。※実勢価格の約90%と言われる。
  • 相続税評価(路線価)・・・相続税や贈与税を計算する際に用いられる、相続財産である不動産などの評価額のことで、路線価方式や倍率方式で評価される。国税庁により公表される。※実勢価格の約70~80%と言われる
  • 固定資産税評価・・・ 固定資産税や都市計画税といった地方税を課税するためにの評価額で、区市町村が定める基準。※実勢価格の約60~70%と言われる

このようにどの評価基準を用いて不動産を評価するかによって、不動産の価値が変わる為相続人同士で揉める原因となります。

また時価をひとつとってみても、ある人にとっては1億円の価値があるものでも、とある人にとっては100万円の価値しかないとか、これは極端な例ですがこのように時価幅広い評価となります。タイミング(いつ時点での価格とするか)や想定する使用方法(更地として評価するのか?マンション用地として考えるのか?等)によっても評価額が変わるため不動産の評価は大変奥深く、大変難しいものです。

私の経験した例として、相続人のひとりが自身の代償金の額が低すぎるのではないか?といったことで相続人の間で争いに発展してしまったケースです。詳しく話をお聞きすると、古くから付き合いのあった不動産屋さんに相続があったことと事情を話したところ、不動産屋さんが査定した額を聞いたところ驚いて(想像以上に高かった)自身が損をしているのではないか?と思われたそうです。相続人間で決められた代償金の額は、実際には適切な相場でしっかりと相続人同士で話し合い決めていたのにも関わらず、相続人同士はお互いに疑心暗鬼になってしまいました。不動産屋さんは、自身での売却相談を得たいという気軽な気持ちからなのか分かりませんが、実際の市場相場よりかけ離れた高額の査定を行い無用なトラブルを誘因することになってしまったのです。

脱線しましたが、このように不動産の価値を巡って揉めてしまい、当事者同士でのお話合いもままならず最終的には弁護士の先生を介入して相続後長年争う結果となってしまった…というご家族も実はそう少なくありません。

売却困難な不動産の相続でも揉める

不動産で揉めると聞くと、地主の方や不動産をたくさん持っている方、そして不動産の価値の高い場所だけなのではないか?と想像される方も多いかと思います。

実は、それだけではなく「不動産の処分を押し付けあう」ような形で揉めてしまうこともあるのです。都心部への一極集中がもたらした弊害で、地方や過疎地の相続不動産の処分に困っていらっしゃる方がたくさんおられます。手放したくても買い手が見つからない、不動産の貰い手がおらず逆に処分するために数百万円の費用がかかるという事例も少なくありません。

相続不動産を空き家のまま放置してしまうと、修繕費がかかったり、犯罪・火災・自然災害等のリスクも顕在化してきます。管理が不十分な空き家は、「特定空き家」として行政に指定されてしまうと、税制の優遇が解除されたり、強制的な取り壊し命令が出されるリスクもあります。

また空き家であっても、固定資産税はかかります。広い庭があれば、草木は伸びますし、メンテナンス費の負担が相続人にのしかかります。相続人は都心住まいで、地方の実家を相続してしまうと管理の手間と税金の負担、そして心理的な負担として相続人にのしかかってきてしまうといったことです。

このように、いわゆる「負動産」となってしまう可能性のある相続不動産を誰が相続するのかという揉め事も実際に増えてきています。相続する不動産の価値や維持管理コストをしっかりと見極めることも重要です。

不動産の相続でも揉めないために、できること

ご相続が発生する前に、ご家族の間で資産の整理、不動産を将来どのようにしていきたいかをお話合いすることがまずは重要です。

不動産がある場合には、その不動産を将来誰に相続させたいのか?土地を長年保有していってほしいのか、それとも売却してそれぞれの暮らしを豊かにしていくことに使ってほしいのか?など。しっかりと生前にご相談いただければと思います。

分割方法によっては、不動産を相続した方が将来困らないように生前に資金工面しておくことなども必要ですし、そのご意思をしっかりと残していくために遺言書をつくっておくといった対策も有効となる場合もあります。

さらに、亡くなった方への生前のサポートや介護の負担や、生前のご家族内の事情などさまざまなご事情・ご感情がより相続を複雑化します。

不動産のからむ相続は、プロでも頭を悩ませるほど大変複雑です。不動産の知識とご相続知識の両軸で考えられる専門家に相談することが大切です。将来家族が揉めないために、まずは早めに信頼できる相続コンサルタントへご相談ください。

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