近年、「空き家問題」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、日本各地で増加の一途をたどる空き家が、防災防犯景観衛生などさまざまな面で地域社会に悪影響を及ぼしている状況を指します。

特に相続が発生した後に「誰も住まない実家」が放置されるケースが増え「負動産」(持っているだけで費用やリスクがかさむ不動産)という言葉も一般的になってきました。

本記事では、総務省の最新データや埼玉県での事例を中心に、空き家問題と相続の関係。そして、空き家の有効活用策や相続時にやっておくべきことを詳しく解説します。

さらに、専門家との連携の大切さにも触れながら、空き家問題を未然に防ぎ、地域社会の未来を守るためのヒントをお伝えします。


空き家増加が引き起こす社会課題

最新の空き家率や実態調査データ

まず全国的な空き家の現状を確認してみます。

総務省が5年に一度実施している「住宅・土地統計調査」によると、2018年時点で全国の空き家は約849万戸空き家率は13.6%に達していました。

※参照:令和5年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果

さらに総務省が実施した「令和5年住宅・土地統計調査」の結果では、2023年時点で空き家率が13.8%前後にまで上昇しているとの推計もあり、長期的には年々増加している傾向が見られます。

30年前から比べると空き家数は3倍以上に膨れ上がり、今後も日本の総人口減少高齢化首都圏への人口集中などを背景にさらなる増加が予想されています。

こうした空き家の増加は地方だけの話ではありません。都市部でも地域によっては住人が高齢化して人口が減り、親が亡くなったあとに家を継ぐ人がおらず放置されるケースが見られます。その結果、自治体としても空き家の管理や対策に頭を悩ませる状況があるのです。

※参照:令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)結果

空き家問題について気になる方はこちらのコラムもご覧ください。 

空き家がもたらす防災・防犯・景観・衛生の問題

次に、空き家がもたらす具体的な問題点を見ていきましょう。代表的なものとしては、以下の4点が挙げられます。

防災上のリスク

老朽化が進行した住宅は、地震や台風などの自然災害時に倒壊しやすくなります。倒壊により近隣の建物や歩行者に被害が及ぶ可能性があり、所有者が損害賠償を負わなければならないケースも考えられます。
また、火災が発生したときに周囲へ延焼する危険性も高まります。


防犯上のリスク

長期間放置された空き家は人目が届きにくく、不審者による不法侵入や放火、違法な廃棄物投棄の温床となりやすいです。実際、自治体が行う自主的なパトロールで、空き家から発見される不法投棄物や不審者の増加へつながることが懸念されます。

景観の悪化

雑草が伸び放題になった庭や、外壁が崩れかけた家屋が近隣にあると、地域全体の景観価値が低下します。これにより住民のモチベーションが下がったり、近隣の不動産価値が下がったりする可能性も高まります。特に観光地などでは、空き家の増加が町全体のイメージダウンにつながる懸念が指摘されています。

衛生環境の悪化

庭や屋内の掃除がされずに長期間放置されると、ネズミやゴキブリ、ハエといった害虫、あるいは野良猫やアライグマなどの動物が住み着くことがあります。こうした害虫・害獣の増加は衛生上のリスクとなり、周辺住民とのトラブルの原因にもなります。
こうした問題が深刻化しないよう、国は2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」を施行しました。さらに2023年末には、特定空き家に指定された場合の固定資産税特例(住宅用地の軽減措置)の適用除外が強化される改正も追加されました。行政側が「管理不全」とみなした空き家を所有者が放置すると、従来の軽減措置が外れ、数倍の固定資産税を支払わなければならない可能性があるのです。これは所有者に対して「空き家を放置せず、管理や処分をしてほしい」という強いメッセージといえます。

埼玉県を中心とした事例(自治体の取り組み)

埼玉県もまた、住宅戸数が多く人口規模が大きいことから、空き家問題が顕在化しつつある地域の一つです。県内全体の住宅は約338万戸とされていますが、そのうち3割近くが築30年以上の老朽家屋で、空き家化のリスクを抱えています。実際、総務省の調査では埼玉県内の空き家率は約10%強と全国平均よりは若干低いものの、自治体によっては15%を超えるエリアもあり、予断を許しません。
こうした事態を受け、埼玉県内ではいくつかの市町村が積極的に対策を進めています。具体的には、「空き家対策協議会」を設けて、行政・警察・消防・不動産関連団体・地域住民が協働でパトロールや所有者への啓発活動を行うなどの取り組みが代表例です。また、東松山市や秩父市などでは、「空き家バンク」と呼ばれる仕組みを整え、空き家の情報を登録して地域への移住希望者や事業者に紹介する制度を運営しています。制度上は、賃貸や売買のマッチングを行政が仲介し、双方にとって負担を減らす方法として期待されています。
このように、空き家対策は各自治体が工夫を凝らしながら進めているものの、所有者が遠方に住んでいたり、相続手続きが滞っているケースも多いのが実情です。

※参照;県内空き家の現状 埼玉県ウェブサイト

相続と空き家問題の関係

親世代の高齢化と子ども世代の都市部集中

空き家が増える理由の一つとして指摘されるのが、高齢化と都市部への人口集中です。地方や郊外に暮らす親世代が亡くなった場合、その家を相続する子ども世代はすでに都市部で生活基盤を築いていることが少なくありません。仕事や子どもの教育、あるいは交通の便の良さなどを考えれば、実家に戻って生活することは非現実的と判断するケースが多いのです。その結果、誰も住む人がいない実家がそのまま放置され、「空き家」と化してしまいます。
また、親が認知症などで介護施設へ入居してしまい、実家に人が住まなくなるケースも少なくありません。しかし親が亡くなる前の段階では相続は発生していないため、子世代がどこまで管理責任をもつべきか不明瞭になりがちです。結果として、適切なメンテナンスや維持管理がなされないまま老朽化が進み、空き家化のリスクが高まります。生前のうちから家族間で「実家をどうするか」を話し合い、必要に応じて耐震リフォームや一部解体などの対策をすることが望ましいのですが、現実にはそこまで踏み込む方はまだまだ少数派といえるでしょう。

相続人間での意思決定の遅れやトラブル

相続が発生した後も、空き家が放置される大きな要因として、複数の相続人間の意思決定がうまくまとまらないことが挙げられます。不動産を共有相続すると、処分や売却、賃貸といった活用を行うには原則として全員の同意が必要です。兄弟姉妹が複数いる場合、考え方やライフスタイルが異なるため、
「家を取り壊して土地を売りたい」
「思い出があるから売りたくない。最低限の修繕をして維持したい」
「遠方に住んでいるので管理はできないし、費用負担もしたくない」
といった意見の違いが顕在化します。誰か一人でも反対すると話がまとまらず、ずるずると何年も放置されるケースは珍しくありません。こうした状況は特に、相続手続き自体を後回しにした、被相続人(亡くなった親など)の名義のままで固定資産税だけを誰かが支払い続けるようなケースで起こりがちです。相続登記が完了していないと「誰が所有者なのか」が法律的にあいまいになり、管理の主体も定まらないため、相続人間の対立が深まることがあります。

固定資産税や維持費、解体費用など経済的負担

所有しているだけで費用がかかることも、空き家化を促進してしまう要因です。具体的には、以下のような費用負担が問題になります。

固定資産税

家屋や土地に対して毎年課税される固定資産税は、家に誰も住んでいなくても納税の義務があります。住宅用地として建物がある場合は軽減措置が適用され税負担が抑えられますが、老朽化などで特定空き家に指定されてしまうと、軽減措置を受けられず税額が大きく跳ね上がります。
固定資産税課税明細書の見方は下記のページでご説明していますので、気になる方はこちらもご覧ください。 

維持管理費

建物の定期的な清掃や修繕、庭木の手入れなどを怠ると、周囲に迷惑がかかるだけでなく、建物の老朽化も早めてしまいます。遠方の相続人がわざわざ実家に戻って管理するのは難しく、業者や管理サービスを利用すると費用がかさむため、結果的に放置されてしまうケースがあります。

解体費用

老朽家屋を解体し更地にするには数百万円の費用がかかる場合があります。さらに、更地にすると住宅用地としての固定資産税軽減措置がなくなるため、税金が最大6倍に上がるリスクもあり、所有者が解体をためらう原因になっています。使い道のない家を処分できず維持コストだけ負担するという悪循環は、多くの相続人を悩ませています。

空き家の有効活用・処分方法

リフォーム・リノベーション:賃貸や民泊への転用事例

空き家を有効活用する手段の一つとして、リフォームやリノベーションを施し、賃貸物件や民泊(いわゆるAirbnbなどの宿泊施設)に転用する方法が挙げられます。特に観光地や都市近郊であれば、和風の古民家をリノベーションしてゲストハウスにする事例が増えています。日本の伝統的な雰囲気を楽しみたい外国人観光客や若年層の旅行者には人気が高く、空き家を収益物件として活用できる可能性があるのです。
また、地方自治体の中には、空き家をサテライトオフィスとして活用する企業を誘致している例もあります。都市部に本社を置く企業が、コロナ禍以降のリモートワーク普及を背景に地方に拠点を設ける動きが進んでおり、空き家をオフィスやシェアスペースとして改装し、地域活性化に役立てています。こうした動きを後押しするため、リフォーム補助金や税制優遇を設ける自治体も増えていますので、活用したい方はぜひ地元行政の情報をチェックすると良いでしょう。

売却・買い手探し:地元の不動産会社や「空き家バンク」を活用

使うあてがない空き家を長期間保有して費用をかけるより、売却して現金化したほうがよいと考える相続人も多いでしょう。その際、一般的には地元の不動産会社を通して仲介を依頼し、買い手を見つけるのが通常の手順です。しかし、築古物件や利便性の低い立地だと買い手がつかない可能性もあるため、「空き家バンク」を活用する方法もあります。空き家バンクとは、各自治体が管理・運営する物件情報登録制度で、空き家の所有者と、移住希望者や物件取得を考えている人をマッチングする仕組みです。
特に、地方移住を検討している若年世代や、田舎暮らしを希望するリタイア世代にとっては、空き家バンクの情報が有力な選択肢となります。登録者同士のマッチングは自治体職員がサポートしてくれる場合もあり、仲介手数料の一部が補助されるなどのメリットが設けられることもあります。

寄付・地域活動への活用:自治体やNPOと連携した地域再生プロジェクト

相続した家を売るのが難しい場合や、特定の地域活動に貢献したい場合には、可能性は低いですが建物や土地を寄付する選択肢もあります。自治体やNPO法人が施設として活用したり、地域の防災拠点や高齢者の交流サロンなどの公共的空間として利用する例も存在します。所有者としては解体費を負担せずに物件を手放すことができ、地域にとっては新たなコミュニティ資源を得られるメリットがあります。
もっとも、実際に寄付を受け付けるかどうかは受け手の事情によります。老朽化が激しく修繕コストが非常にかかる物件や、立地条件が悪く再活用の見込みがない物件は、寄付を断られる可能性もあるため注意が必要です。事前に自治体やNPOに相談して、費用負担や手続き方法などを具体的に確認したうえで検討するとスムーズです。

空き家×テックの活用も検討

近年では、空き家の所有者と潜在的な利用者をつなぐプラットフォームや、AIを活用した物件価値査定システムなど、いわゆる「不動産テック」のサービスが増えています。従来の不動産流通経路では「売りにくい」と思われていた築古物件や、所在不明の相続人がいるために処分が進まない物件についても、専門企業が調査や交渉を一括して行い、スピーディーに買い取りや再生を進める事例があります。こうしたサービスを活用すれば、「遠方に住んでいて現地に行けない」「複数の相続人のうち連絡が取れない人がいる」といった問題の解決に寄与することが期待できます。

相続手続き時にやっておくべきこと

相続登記の義務化(2024年4月施行の改正法における登記義務化など)

2024年4月から、不動産を相続した場合の相続登記が義務化されました。これまでは法的な義務はなく、「相続人同士で話がまとまらないから」といって長年放置されるケースが散見されました。

その結果、所有者不明の不動産が全国で増え、行政が公共事業や防災対策を進めるにも支障が出るという深刻な社会問題に発展したのです。
改正法の施行後は、相続が発生してから3年以内に登記申請を行わないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される恐れがあります。これは、空き家問題や所有者不明土地問題の解決を急ぐための措置で、今後は相続人が登記を放置することがより難しくなるでしょう。法改正の趣旨に沿って、相続が発生したらできるだけ早く相続登記を行い、誰が管理責任を負うのかを明確にしておくことが重要です。

相続登記義務化について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。 

共有状態を避けるための遺言書や遺産分割協議のポイント

相続登記を円滑に進めるためには、そもそも相続人同士でどのように遺産を分配するかをはっきり決めておく必要があります。特に不動産は、金融資産のように簡単に分割できないため、共有名義にしてしまうと後々の活用や売却の際に全員の同意が求められ、意思決定が滞るリスクが高まります。
こうした事態を避けるための有効な手段が、遺言書や生前贈与です。被相続人が生前に「誰にどの財産を相続させるか」を遺言書で明確に指定していれば、相続人間のトラブルを大幅に減らすことができます。近年注目されている「公正証書遺言」を使えば、専門家(公証人)のサポートのもとで遺言書を作成するので、要件不備で遺言が無効になるリスクも低く、安心して活用できます。
もし遺言書がなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、書面化(遺産分割協議書の作成)して署名捺印する必要があります。特に遠方に住む親族や疎遠になっている兄弟姉妹がいる場合は、連絡や同意を得る手間がかかりますが、このステップを省略すると後で大きなトラブルを招きかねません。相続手続きの最初の段階で、専門家のアドバイスを受けながらしっかり話し合うことをおすすめします。

専門家(弁護士・司法書士・不動産会社)との連携方法

相続と不動産の問題が絡む場合、弁護士や司法書士、税理士、そして不動産会社といった多様な専門家の協力が必要になる場合が少なくありません。それぞれの専門家は、以下のように役割が異なります。

  • 弁護士:相続人間の紛争調整、調停や裁判対応、法的助言
  • 司法書士:相続登記や会社設立登記など登記手続きの代行、遺言書作成のサポート
  • 税理士:相続税申告や節税対策のアドバイス、財産評価
  • 不動産会社:不動産の査定や売買仲介、賃貸・管理プランの提案

これらの専門家が連携してワンストップでサポートしてくれる体制があると、相続人の負担はぐっと減ります。例えば「さいたま幸せ相続センター」がまさにそのようなサービスを提供しており、初期相談から登記・売却・節税対策まで一括して相談できます。複数の専門の意見が聞けるため、「どの方法が一番適切なのか」が比較検討しやすくなるメリットがあります。

さいたま幸せ相続相談センターの不動産売買サポートの詳細はこちらをご覧ください。

まとめ:空き家問題への取り組みが地域社会の未来を守る

空き家問題は、国土の有効活用や地域コミュニティの維持といった観点から、いまや日本全体の喫緊の課題といえます。埼玉県においても、自治体や不動産関連団体、地域住民が一体となって対策を進めているものの、相続が発生した際の対応が後手に回り、結果的に誰も住まない実家が放置されてしまう例が少なくありません。
しかし、実際には空き家を活用する方法や処分する方法は多様であり、必ずしも「負担ばかり」の不動産とは限らないのです。リフォームやリノベーションをして収益物件にする、不動産会社や空き家バンクを通じて売却する、あるいは地域活動に役立てる形で提供する、こうした選択肢を知っているかどうかで、相続後の行動は大きく変わります。
一方で、これらをスムーズに進めるためには、やはり相続手続きの適切な実施と事前の備えが欠かせません。2024年4月からは相続登記が義務化され、「とりあえず名義変更は保留しておこう」という悠長な対応はリスクを伴う時代になります。さらに、共有名義を避けるための遺言書作成や、相続税を見据えた資金計画など、早め早めの対応が結果として家族の負担を軽減し、空き家問題を防ぐ最善策となるのです。

おわりに

空き家問題は、人口減少や高齢化といった日本社会全体の構造的な変化が背景にあります。しかし、一人ひとりが相続の場面でしっかりと対応策を講じれば、状況を改善することは十分に可能です。むしろ、適切に活用されていない空き家は眠れる資産でもあり、新しいビジネスやコミュニティ活動につながるポテンシャルを秘めています。大切なのは、相続が発生してから慌てて対策を練るのではなく、できるだけ早期に家族で話し合い、必要ならば専門家の力を借りることです。
放置すれば老朽化による倒壊リスクや衛生問題、犯罪誘発などさまざまな弊害が生じる一方、賃貸や売却、寄付など適切な選択をすれば、問題を解消どころか新たな価値を生み出すこともできます。空き家問題への取り組みは、家族の財産を守るだけでなく、地域の安全と活力を維持することにも直結するのです。さいたま幸せ相続センターをはじめ、地域の専門家や行政のサポート体制を積極的に活用し、空き家問題と相続に向きあっていきましょう。

執筆:鈴木林太郎