こんにちは。相続・不動産コンサルタントの馬渕です。
DIYとは「Do it Yourself」の略称で、DIY賃貸とは入居者が思い思いの改装や改修を実施することを可能にした賃貸住宅のことを広く指します。
賃貸なのに、内装工事をしてもいいの?と驚かれる方も多いかと思います。賃貸住宅と言えば、原状回復が必須で壁紙を変えるどころか、釘1本打ってはいけない。そんなイメージが定着していますが、そんな常識を覆す新しい賃貸形態がDIY賃貸です。
DIY賃貸物件は首都圏エリアではじわじわと広まりつつあり、若い方達の中では一定の認知をしている賃貸形態とも言えます。DIY賃貸物件専門の不動産業者などもいるくらいです。また、住宅を探す際に利用するポータルサイトなどでも、「DIY可」という選択肢が数年前に追加され、一定の市民権を得つつあることがうかがえます。
また、個人所有の住宅の賃貸住宅としての流通を促進することを大きな目的とし、国土交通省もDIY賃貸の普及をあと押ししています。
DIY型賃貸借の活用に向けて、平成28年4月に「DIY型賃貸借に関する契約書式例」と、活用にあたってのガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」などを国土交通省が作成しています。国土交通省もこのDIY型賃貸に注目し、それらが空き家の流通の起爆剤になることを期待していることが分かります。
そんな筆者も、実は自宅をDIYで改装した一人です。個人の娯楽やライフスタイルの域を超え、DIY賃貸が空き家問題や相続した不動産の活用を考えるという点での可能性を秘めていると日頃から感じており、DIY賃貸について紹介してみたいと思います。
DIY賃貸がなぜ人気なのか?
普通の賃貸住宅に飽きてしまった方などは、自分好みの内装に改装しながら暮らしを作っていくというプロセス自体をとても楽しんでいます。スクラップアンドビルドではなく、古いものに愛着を持って大切にしていきたいという価値観を持った方や感度の高い建築系やデザイン関係の方々がDIY賃貸を好んでいます。
また、コロナ禍で自宅にいる時間が長くなったことから、自宅を自らの手で心地よく作り変えるというDIYな精神が注目されました。
自分らしく暮らしをカスタマイズすることができるDIY賃貸は新しい住まいの選択肢の一つになりつつあります。
そして、住まい手側だけでなく家主の側にもDIY賃貸のメリットがたくさんあるのですが、それは後ほどご紹介いたします。
DIY賃貸・・・実際にはどうするの?注意点は?
通常の賃貸借契約同様、建物賃貸借契約は通常通り締結します。
国土交通省のガイドラインによると、必ず「工事申請書」を借主は貸主へ申請し、貸主は「工事承諾書」を借主へ交付したり、合意書を締結するよう推奨しています。
勝手な改装工事はトラブルの元ですので、しっかりと合意内容を書面に残すことをおすすめします。
賃貸借契約時にはDIY工事の可能な範囲を設定することがポイントです。例えば、ある居室の一部の壁だけDIY工事可能範囲とする。といったことも可能です。
建物の構造や躯体に係る工事は不可とする。水回りの工事(浴室・キッチン等)については改装工事実施可能だがプロの業者で施工するようにより決める。など、両者の合意の上で工事範囲を決めましょう。
重要なのは退去時の原状回復の取り決めなどをしっかり定めることです。
承諾した申請書通りの工事が実施されていた場合には、原状回復を免除するといった内容とすると、入居者も安心してDIY工事を実施することが可能です。一方で、施工不良があった場合や万が一建物の構造部分や第三者に損害を与えてしまった場合、入居中に不具合が発生した場合などの責任の所在を事前に協議し定める必要があります。
通常の賃貸と異なり、DIY賃貸の場合にはこのように契約上細かな決め事が必要となり、また建築的な知識や建築基準法や消防法といった法令上の制限の確認などにも注意を払う必要があります。細かな調整事項も多く、要は通常の賃貸と比較し「手間」が多い貸し方とも言えます。貸し手の大家に限らずDIY賃貸を扱う不動産業者には、専門的な知識と経験が必須となります。その為、手間の割にリターンが少ないといった理由やそもそも経験がなくDIY賃貸を扱うことができないといった不動産業者も多く、DIY賃貸をしっかり扱うことのできる不動産業者を探すことも重要なポイントと言えます。
DIY賃貸が大家さんにとってメリットがある理由
DIY賃貸は、入居者にとって選択肢が増えるだけではなく、実は大家さんにもとっても大きなメリットがあります。
古くて少し劣化した家の場合、賃貸として市場に出す場合通常リフォームを実施します。数百万円もの費用をかけても、入居者が決まらなければリフォーム費用が回収できない…なんてことも。地方の場合には賃料相場が高くないため状況はもっと深刻です。リフォームで数百万円の費用をかけてもリフォーム費用の回収に十数年かかり赤字になってしまうので、そのまま放置せざるを得ないというご状況に頭を抱えている方のお話など、筆者もよく耳にします。
そのような状況において、家主は事前のリフォーム工事を実施せずとも現状のままDIY賃貸を前提として貸し出しをすることが可能です。近隣の賃料相場より少し安い価格で賃貸募集をしたとしても、リフォーム工事費用実施するよりも金銭的にも精神的にも負担が少なく済みます。
最低限水回りだけ家主で改修し、床や壁などの内装部分は現状のまま貸し出すといった方法を選択することもできます。また改装補助費として家主が入居者へ工事費を補助するといった方法もとることができます。入居者のニーズに応じて個別具体的、かつ無駄のない改修が可能です。
いわゆる一般の賃貸の場合、多数の方のニーズに対応した“商品”になるためにリフォーム工事を実施する必要がありますが、DIY賃貸の場合ご予算に応じて柔軟な貸し方ができるのが大きなメリットです。
また、入居者がDIYして見違えるようにかっこいい内装となった場合、その方が退去した後、賃料を値上げして次の入居者が決まることも少なくありません。そのように、若い方の暮らしを楽しむDIYのエネルギーが、全国の空き家問題を解決していく糸口になると筆者は考えています。
尚、都市部においては、DIYできる賃貸物件自体が付加価値を創出することもあり、逆に相場よりも高い賃料で貸し出しされるというケースもあります。URなどの団地を管理する企業でもDIY賃貸に注目し、DIYできることを付加価値とし訴求している事例もあります。
DIY賃貸が相続の救世主になるか?
ご紹介した通り、DIY賃貸が住宅の流通を促進し空き家問題を解決する糸口になる可能性を秘めていると考えています。我々さいたま幸せ相続相談センターでも、ご相続したご実家をこれからどうしたらいいのか?といったご相談をお受けすることが頻繁にございます。
思い入れのある不動産なので、売却することに抵抗がおありの方もいらっしゃることと思います。そんな際に、賃貸という選択肢の中でもリフォームをする場合とDIY賃貸と2つの可能性を検討することが可能となります。
それぞれのご家族の想いやご状況、そして不動産の市場(買い手・借り手のニーズ)やタイミングなどによって、導かれる正解は異なりますが、検討できる選択肢は多いほうが望ましいと思います。DIY賃貸が今よりもっと普及することで様々な選択肢が増えていきます。
トラブル防止の為の注意点など考慮すべきことは多々ありますが、DIY賃貸に精通した不動産業者や空き家問題に強い相続の専門家などを通じてご相談ください。
当センターでも、DIY賃貸の可能性も含めご相続された空き家の活用方法などご相談可能です。