相続は、亡くなった人のプラスの財産とマイナスの財産を引き継ぐことです。相続人は、相続をするかどうか、あるいはどのような形で相続をするかを選択する権利を持っています。その選択肢の中には、相続財産をすべて引き継ぐ「単純承認」のほかに「相続放棄」と「限定承認」という制度があります。本コラムでは、相続放棄と限定承認の制度についての特徴、メリットとデメリットについてわかりやすく解説します。ぜひご一読ください。

相続放棄とは

相続放棄は、相続人が被相続人(亡くなった人)の財産や負債の一切を放棄することです。相続放棄をすることで、相続人は最初から相続人でなかったものとみなされ、その結果、被相続人の財産や負債を全く引き継がなくなります。 相続放棄を行うためには、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。これは、相続開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。この3ヶ月の期間を「熟慮期間」と呼び、相続人が相続の可否を判断するための期間として設けられています。

メリット

負債からの解放

相続放棄を行う最大のメリットは、被相続人が抱えていた負債を一切引き継がなくて済むことです。被相続人の財産が負債を上回る場合、相続人にとって相続放棄は有力な選択肢となります。

小見出し 手続きの簡便さ

相続放棄の手続きは比較的簡単で、家庭裁判所に「相続放棄申述書」とその他戸籍謄本等の必要書類を提出することで完了します。

「相続放棄申述書」は裁判所のウェブサイトからダウンロード可能です。

https://www.courts.go.jp/matsuyama/vc-files/matsuyama/2023/matsuyamakasai/souzokuhoukigaido/02sinzyutusyo.pdf

※参照:相続放棄申述書

しかし、自分で行うと戸籍の収集や申述書の書き方などを調べているとあっという間に3か月の期限を過ぎてしまう・・・といったことが起こりがちです。法律手続きに慣れていない方は、専門家に相談することをおすすめしています。

デメリット

財産の喪失

相続放棄をすると、負債だけでなく、プラスの財産(例えば、不動産や現金)もすべて放棄することになります。財産が残っている場合、相続放棄によってその財産も手放すことになるため、慎重な判断が必要です。

相続順位の変動

相続放棄を行うと、相続権が次の順位の相続人に移ります。これが家族間の関係に影響を与える場合もあります。例えば、第一順位の相続人が相続放棄を行った場合、第二順位の相続人が相続することになります。相続放棄をした場合、家庭裁判所が次の順位の相続人に通知してくれるわけではありません。自分で、次の順位の相続人に相続放棄する旨を連絡しないと、次の順位の相続人との関係が悪くなってしまうため注意しましょう。

限定承認とは

限定承認は、相続人が被相続人の財産と負債の両方を引き継ぐものの、相続したプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き受ける制度です。どうしても自宅を残したいという希望があるケースでは、限定承認を利用します。 限定承認を行う場合も、家庭裁判所に対して手続きを行う必要がありますが、この場合は相続人全員が共同で申述しなければならない点が相続放棄と異なります。また、相続開始を知った時から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。

メリット

財産を残しつつリスク回避が可能

限定承認の最大のメリットは、相続人が負債を相続するリスクを限定しながら、プラスの財産を引き継ぐことができる点です。財産を活用したいが、負債のリスクを避けたい場合に有効です。

債務超過の防止

被相続人の財産が負債を上回るかどうか不明な場合、限定承認を行うことで、相続人は債務超過に陥るリスクを回避できます。これにより、相続後に想定外の負債が発覚した場合でも、財産の範囲内でしか責任を負わなくて済みます。

デメリット

手続きの複雑さ

限定承認の手続きは相続放棄に比べて複雑であり、時間と手間がかかります。相続人全員が共同で手続きを行う必要があるため、全員の同意を得る必要があります。これがスムーズにいかない場合、手続きが進まないこともあります。

費用の負担

限定承認の手続きには、専門家(弁護士や司法書士など)の助けが必要になることが多く、その分の費用がかかります。

相続財産の清算義務

限定承認を行うと、相続人は被相続人の財産を清算する義務を負います。これは、相続財産を売却して負債を支払う手続きであり、この過程で相続財産が減少する可能性があります。

相続放棄と限定承認を選択する際の注意点

相続放棄と限定承認は、相続人が自分の利益を守るための重要な手段ですが、選択する際にはいくつかの注意点があります。

相続財産の調査

相続放棄や限定承認を選択する前に、被相続人の財産と負債の状況を正確に把握することが重要です。これにより、最適な選択をするための判断材料が得られます。

家族との協議

特に限定承認を選択する場合、相続人全員が同意する必要があるため、家族との十分な協議が必要です。家族内で意見が分かれる場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。

手続きの期限

相続放棄と限定承認の手続きは、相続開始を知った時から3ヶ月以内に行う必要があります。この期間を過ぎると、自動的に単純承認(すべての財産と負債を相続すること)となるため、期限内に適切な手続きを行いましょう。

専門家への相談

相続放棄や限定承認は、法律的な知識が必要な手続きです。手続きを進める上で不安がある場合や、状況が複雑な場合は、弁護士や司法書士といった専門家に相談することが重要です。専門家のサポートを受けることで、手続きが円滑に進み、リスクを最小限に抑えることができます。

まとめ 

いかがでしたか?相続には、財産をすべて引き継ぐ単純承認のほかに、相続放棄と限定承認があります。相続放棄は負債から完全に解放される一方で、財産も一切放棄することになります。限定承認は、負債を財産の範囲内に限定しながら、プラスの財産を引き継ぐことができるため、より柔軟な対応が可能です。 相続財産の状況を正確に把握し、家族との協議を経て、上記の選択肢から慎重に判断する必要があります。また、手続きには期限があるため、早めの対応が求められます。手続きに不安がある方は、弁護士などの専門家に相談しましょう。

一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、相続放棄と限定承認についてのご相談を受け付けております。詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

 

執筆:成田春奈