相続・不動産コンサルタントの馬渕です。

若い世代や子育て世代を中心に一つの住居にしばられない多拠点での暮らし方の選択をする人々が増えてきています。コロナ過後、テレワーク化が進み、住む場所に縛られない自由な働き方の選択ができるようになったことから、急速に認知されるようになってきました。

ワーケーションという「ワーク(Work)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせた造語がありますが、普段のオフィスと離れた場所で休暇を楽しみながら働くスタイルも広く知られるようになりました。実際に筆者の友人にも、地方の農村に1年のうち3ヶ月ほど滞在し地元の農業などを手伝いながら、東京の企業での仕事をしていたりする人などもいます。他にも平日は都心で働き、週末は地方で過ごすといったスタイルなども定着してきている印象です。

このようなライフスタイルを「二拠点居住」「二拠点生活」などとも呼びますが、都市と地方のように2つ(以上)の地域に仕事・生活の拠点を持つ生活様式のことを言います。

二拠点居住が注目されるワケとは?

二地域住居をめぐって、全国でさまざまな取り組みが実施されております。二地域住居の実践者(個人)にとっては、地方での豊かな自然との暮らしや生活・教育・コミュニティへの参画など多様なライフスタイルを実践することが可能となります。同時に人口減少に悩まされる地域では、二地域住居の実践者が地域活動に参画することで地域づくりの担い手となり得たり、地域に新たな価値を創出する期待感なども大きくあります。

既存のコミュニティとの関わりや暮らし方とのハレーションやミスマッチが生じてしまったり、二地域住居を取り入れるには実践者側も受け入れる地域の側にも様々な課題やあることは想定できますが、このようなライフスタイルに対し、地方や国が期待していることは明らかです。

企業側もこのような働き方・ライフスタイルに対し支援を行ったり(例えば、交通費の一部を補助したり)、地方自治体も各地で創意工夫をしこれらの暮らし方を受け入れる仕組みづくりに積極的に取り組んだりと、関心を強めています。

二地域居住法案とは?国として二拠点居住を推進する法案が成立。

そんな二拠点居住を促進するべく、国が新しい支援制度を検討しています。二拠点住居支援する政策について検討する協議会などが国を巻き込み設立・検討されてきており、令和6年5月に、国土交通省より「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」の一部を改正し、二地域居住の促進に係る支援を更に強化することとなりました。

二地域居住を推進していく上での大きな課題とされているのが、①住まい ②なりわい(仕事) ③コミュニティ となります。今回の法改正で大きなポイントは、これらの課題を解決するために、二地域居住者向けの住宅やコワーキングスペース、交流施設等の整備が急務とし、地域の特性や実情に合った住環境の整備に対する制度的な支援策が設けられました。

また、二地域居住をしたい方向けに活用できる空き家や住居・オフィス等の情報のマッチングを担う企業やNPO法人等の指定制度も設立され、官民連携でそれらの企業や団体に対して補助金等の支援なども実施されます

空き家問題の解決の糸口に?

二地域居住(特定住居)促進のための市町村計画制度の導入

今回の改正において、相続・不動産コンサルタントとして注目しているのが、二地域居住(特定住居)促進のための市町村計画制度というものです。

二地域居住(特定住居)促進のための市町村計画を市町村が作成し、特定住居促進計画に定められた事業として認定を受けると、都市計画法や建築基準法などの特例措置として住居地域でもシェアハウスやコワーキングスペース、アトリエなどといった用途として建物を使用することが可能となります。事実上の規制緩和制度となるといえます。建築基準法では、都市計画法上の用途地域の「住居専用地域」において、例えば事務所用途の建物は不可といったように、建築可能な建築物の用途が制限されています。空き家をコワーキングスペースにしたい、移住者の仕事場やアトリエに改修してしようしたいといったニーズがあっても、従来までは建築基準法の規制のためなかなか空き家を活用することができませんでした。今回の改正によって、特例により二地域居住者向けのコワーキングスペース等を開設しやすくなるといった点は、空き家の活用という点においても大変に期待しています。また、空き家の改修やそれらのスペースの整備についても財政的な支援が受けられるといった制度も整えられるようです。

地方の相続不動産でお困りの場合

当センターでも、先祖代々から相続した地方の土地・家屋の処分にお困りでご相談にいらっしゃるお客様が年々増えてきております。相続した方の生活の拠点とは離れていてとても管理ができないということで手放すことをお考えでも、なかなか地方では引き取り手がおらず、空き家の処分にお困りになられている方は少なくありません。

今回ご紹介した制度についても、これらの取り組みにすでに積極的に取り組んでいる自治体は少なく、実務的にすぐに相続不動産の活用に活かせるか、というとまだまだ難しい状況ではあります。

面白い取り組みをしている自治体を中心として、先行事例が増えていくことで、このような取り組みがもっと広まり、地方の空き家の利活用なども積極的に行われるよう今後も動向を追っていきたいと思います。今回の法改正による新しい取り組みがうまく取り入れられ様々な諸問題の解決の糸口になることを期待したいと思います。