皆さんこんにちは行政書士の稲垣です。前回のコラムで事業承継対策についてお話をしましたが、事業承継を検討する際にやはり一番気になるのはその企業の業績です。そして、その業績を客観的に示した書類が決算書です。今回は事業承継をするにあたり、押さえておくべき決算書の分析方法を、貸借対照表、損益計算書に分け、代表的な指標について業種別の平均を提示しながら解説させていただきます。

貸借対照表

貸借対照表とは会社の健全性を示す表で、バランスシート(B/S)とも呼ばれる、資産と負債、純資産が書かれている表です。左側にその会社の資産、右側にその会社の負債と純資産が記載されています。左側の資産を調達するために、どのようにお金を調達したか(負債か自己資金か)が右側に記載されており、左側の資産の合計額と右側の負債と純資産の合計額は対になり一致します。

資産は流動資産と固定資産に分けられます。流動資産とは換金しやすい資産であり、現金、預金、売掛金、有価証券が主な科目です。固定資産とは換金に時間がかかる科目であり、土地や建物などの不動産や機械設備、車両、ソフトウェアや営業権などが主な科目です。

負債についても流動負債と固定負債に分けられます。流動負債は1年以内に支払う予定の科目であり、買掛金、短期借入金、未払金などが主な科目です。固定負債は1年以上の期間にわたって返済する負債であり、長期借入金や社債が主な科目です。

純資産には資本金や利益剰余金など返済する必用のない、いわゆる自己資本が記載されています。

下記に貸借対照表において注目すべき指標を解説させていただきます。

・流動比率

流動比率とは、流動負債に対してどの程度の流動資産があるかを示す比率です。以下の様に計算します。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率により資金繰りの安定性を図ることができ、流動比率が100%を上回っていれば当面の資金繰りは問題ないといえます。

以下は業種別の平均です。

製造業:中小企業平均188.8% 

卸売業:中小企業平均159.7% 

小売業:中小企業平均150.7% 

製造業の流動比率の高さが目立ちますが、製造業は原材料、仕掛け品、完成品といった在庫を大量に保有する必要があることや、製品の納品後に売掛金として支払いを受けることが多いため、流動資産が増加することが要因と思われます。

・自己資本比率

自己資本比率は総資本における、自己資本の割合を示す指標です。以下の様に計算します。

自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100

総資本の内自己資本が多ければ多いほど借入への依存度が低く、一般的には安定性が高いといえます。

以下は業種別の平均値です。

製造業:中小企業平均46.3% 

卸売業:中小企業平均42.6% 

小売業:中小企業平均35.0% 

小売業の自己資本比率の少なさが目立ちますが、小売業は一般的に低利益、高回転率のビジネスとなり、売り上げを維持するために大量の仕入れが必要となります。その仕入れ資金や、販売店舗の開設に際し借入れに依存することが多いため、自己資本比率が低くなる傾向があります。

・固定比率

固定比率とは固定資産への投資のうちどれくらいが自己資本で賄われているかを示す指標です。以下の様に計算します。

固定比率(%)=固定資産÷純資産×100

これにより長期的な支払い能力を知ることができます。長期的に利用されることが多い固定資産は返済期限のない自己資本によって調達することが望ましいとされています。

以下は業種別の固定比率の平均です。

製造業:中小企業平均96.1% 

卸売業:中小企業平均88.4% 

小売業:中小企業平均121.2% 

小売業の固定比率の高さが目立ちます。これについても販売店舗が影響してくると思われます。多くの小売業者は店舗運営の為に、多額の投資を行うことが多く、これが固定資産の増加につながり、固定比率を高める要因となります。

損益計算書

損益計算書は会社の1会計期間における営業成績を示す表で、(P/L)とも呼ばれます。簡単に表現すると会社の収益に対してどの程度の経費がかかり、最終的な利益がいくらなのかが記載されています。以下に損益計算書に記載されている各項目の解説です。

 

・売上高・・・その会社の製品、サービスなどを販売、提供することによって得られた収益の合計額であり、利益を生み出す源泉ともいえます。

・売上原価・・・その製品を仕入れた原価や、製造にかかった原材料費などの合計額です。

・売上総利益・・・売上高-売上原価で表されます。いわゆる粗利です。

・販売費及び一般管理費(販管費)・・・その製品やサービスの販促活動にかかった経費であり、広告宣伝費や、営業部門の給与等です。

・営業利益・・・売上総利益-販管費で表され、その会社の本業で稼ぐ力を示しており、決算書の中でも重要視される数字です。

・営業外収益・営業外費用・・・「受取利息・配当金」「支払い利息・社債利息」などの本業と関係のない活動から経常的に発生する収益、費用です。

・経常利益・・・営業利益+営業外収益-営業外費用で表され、本業だけでなく資産運用の成果などの経常的な活動による利益も含まれるため、営業利益と並び重要視される数字です。

・特別利益・特別損失・・・「固定資産売却益、固定資産売却損」「有価証券売却益・有価証券売却損」などの本業と関係のない活動から経常的に発生するものではない、一時的な収益、費用です。

・税引き前当期純利益・・・経常利益+特別利益-特別損失で表され、この金額をもとに法人税が計算されます。

・当期純利益・・・税引き前当期純利益-法人税等で表され、最終的な1会計期間の会社の最終的な利益となります。

 

下記に損益計算書において注目すべき指標を解説させていただきます。

・売上高総利益率(粗利率)

売上高に対する売上総利益の割合であり、こちらの指標が高い程収益性が高いと言えます。以下の様に計算します。

売上総利益(%)=売上総利益÷売上高×100。

以下は業種別の売上総利益率の平均です。

製造業:中小企業平均21.9% 

卸売業:中小企業平均16.1%

小売業:中小企業平均31.0% 

卸売業の低さと小売業の高さが目立ちます。卸売業については低利益、高回転率のビジネスモデルが一般的であり、多くの商品を売ることで利益を確保している為、粗利率は低くなります。小売業についても同様のビジネスモデルであるものの、経費における割合において仕入、原材料価格は少なく、販管費の割合が高くなる傾向があり、小売業の粗利率については高くなる傾向にあります。

 

・売上高経常利益率

売上高に対する経常利益の割合で、本業の収益の他、財務活動における経常的な利益率を示す、損益計算書において特に重要視される指標です。以下の様に計算します。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100

以下は業種別の売上高営業利益率の平均です。

製造業:中小企業平均5.0% 

卸売業:中小企業平均2.6% 

小売業:中小企業平均2.5% 

製造業の営業利益率の高さが目立ちます。製造業は規模が大きくなるほど、単位あたりの生産コストが低くなる傾向にあります。その為、大量生産することにより営業利益率が向上する要因となります。

 

・販管費比率

販管費比率は、売り上げに対する費用がどれだけかかったかを示す指標です。この比率が少ない程経費効率が良いことを示します。以下の様に計算します。

販管費比率=販管費÷売上高×100

以下は業種別の販管費比率の平均です。

製造業:中小企業平均18.3% 

卸売業:中小企業平均14.5% 

小売業:中小企業平均29.1% 

小売業の販管費率の高さが目立ちます。小売業は経費において店舗の販売員の人件費が多くの割合を占めます。また販売戦略として広告宣伝費もかさむことから販管費率が高くなる傾向があります。

まとめ

今回は事業承継にかかる分析方法についてお話させていただきました。代表的な財務指標とその平均を提示しましたが、中小企業は大企業に比べて、業種や規模など多種多様であり、ニッチな製品を扱う会社も多くあります。その場合は平均と大きく変わる数値が出る企業もあります。事業承継を進めていく為には、決算書には表れない、その企業の個別の要因や、経営理念、人脈、特許などの知的資産も含め、総合的に検討していくことが必要です。当社においても中小企業診断士の他、様々な士業が、多様な観点から経営分析をし、事業承継をサポートしています。是非一度ご相談ください。

参照元

中小企業庁 中小企業白書(付属統計資料)

中小企業庁 中小企業実態基本調査