皆さんこんにちは。行政書士の稲垣です。当社団のコラムでも先日ご案内しましたが、今年の7月1日から不動産業者が受け取る仲介手数料の上限が改正されます。今回はこちらの措置や背景についてより詳しくお話したいと思います。
改正の背景
現在空き家の増加が社会問題となっていることは皆さんご存じだと思います。総務省が4月に発表した2023年10月時点の空き家数は過去最多の900万戸となり、5年前から51万戸の増加となりました。空き家戸数が全国で最も多いのが東京都で89万8千戸、次いで大阪市の70万3千戸、埼玉県は33万3千戸となっています。空き家率に関しては全国で13.8%とこちらも過去最高となりました。こちらの統計によると、空き家率に関して当社の所在する埼玉県に関しては9.4%、東京都が11.0%となる中、空き家率が最も高いのは和歌山県及び徳島県が21.2%と地方になるほど空き家率が高くなる傾向がわかります。都市部の空き家の増加と、地方の空き家の増加の共通する要因として相続問題や高齢化などがあげられますが、地方の空き家増加に顕著な要因として経済的な要因があります。具体的に言えば地方の人口の減少、過疎化に伴い、住宅の需要が低く、不動産の売買や賃貸が難しくなり、結果的に取引金額が少なくなってしまうことです。不動産業者の仲介手数料は取引金額に応じ変わります。そして空き家の場合は建物や設備の老朽化に伴う不具合が多く、過疎地の場合は現地へ行くまでの交通費や時間を勘案すると、不動産業者としては割に合わない取引となりがちです。その様な状況を改善するために2018年に仲介手数料の料率が改正されました。それまでは物件価格に応じて一定額を受け取れるように規定されていたのが、400万円以下で状態が悪い物件を低廉な空き家と定義し、「物件価格が400万円以下の場合、売主から最大18万円を受け取ることができる」ことに変更になりました。たとえば現行法の場合200万円の物件の場合、仲介手数料は最大10万円ですが、特例を適用することにより上限額は最大18万円となります。そして、その後も空き家が増加を続ける中で今回の改正となりました。
出典:“総務省令和5年土地統計調査”総務省ウェブサイト
具体的な改正内容
今回の改正内容ですが、2018年の「400万円以下の物件の場合、売主から最大18万円受け取ることができる」の金額を更に引き上げ「800万以下の物件の場合、売主及び買主から最大30万円受け取ることができる」に変更になりました。今回の改正は金額も引き上げられると同時に、今まで売主からしか特例分の仲介手数料を受け取ることができませんでしたが、今回の改正では買主からも受取ることができるようになります。
また今回は空き家を賃貸物件として仲介した場合の手数料も改正になります。一般的な物件の場合、貸借に係る仲介手数料は貸主と借主で合計1カ月となっています。しかし今回の改正において長期間にわたって空き家となっている建物の媒介においては特例で合計2ヵ月分受け取ることができるようになります。
出典:“「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関し受けることができる報酬の額」の一部改正(案)について(概要)”国交省パブリックコメント
まとめ
今回は不動産仲介手数料の上限引き上げについてお話をしました。空き家の対策は今までも様々な施策が講じられており、2015年に空き家対策特別措置法が施行され、管理状況の悪い空き家については罰則の他、固定資産税の特例が適用されないなどの措置が取られ、2023年にはその空き家の範囲が拡大されました。また当社のお客様からも多く問い合わせをいただいている相続登記義務化についても、所有者を明確にし、空き家の増加を防ぐための措置といえます。自治体によっては「空き家税」を課す自治体や、空き家の活用に対して補助金を出す自治体もあるなど、国及びそれぞれの自治体が空き家の増加を防ごうと取り組んでいます。
民間においてはやはり不動産会社の役割が大きく、今回の改正により不動産会社が空き家の売買や賃貸の仲介に積極的に関与することが期待されています。当社団においてもグループ内に相続案件専門の不動産会社を有していますが、空き家発生の原因となる相続と向き合い、空き家の減少に貢献できるように、不動産業者として社会問題解決に懸命に取り組んでいきます。