こんにちは。相続コンサルタントの馬渕です。

被相続人の残した資産がマイナスの場合、「相続放棄」という手続きにより借金を相続することを避けることができます。相続放棄は、相続人が相続の権利を放棄して遺産を一切受け取らないことを意味しています。相続による親族間の揉め事を避けるためや相続手続きに関わりたくないといった場合に相続放棄を選択する方もおられます。また資産をある相続人一人に集中して相続させたい為に、他の相続人が相続放棄を選択するといった場合もあります。

今日は相続放棄を検討される方に向けて、注意点や気を付けたいポイントをご案内します。

1.家庭裁判所への申述が必要

生前関係性も薄く会ったこともない遠い親戚の相続人に自分がなったとしましょう。資産はなさそうで、どうやら借り入れもあるらしい、、、といった状況。自分は生前関係性がほとんどなかった為相続放棄をしたいという意向を示し、被相続人の近しい相続人も含めて全員で相談をした結果承諾を得られた為、遺産分割協議書にて「相続放棄をする」という内容に合意し署名した。その場合、これは相続放棄とみなされるのでしょうか?

→答えはNOです。
遺産分割協議書でそのような取り決めをしたとしても、それでは正しく相続放棄をしたと認められません。正確には、法律上は相続人であるという地位自体は継承されたままになっています。後々被相続人の借金が判明し債権者から請求を求められた場合、その債務を免れることはできません。

相続放棄手続きをする際には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、申述書と合わせて必要書類(戸籍謄本等)を提出の上、申述を行う必要があります。遺産分割協議書に相続放棄するとサインしたから自分は関係ないと思ってしまうのですが、よくある勘違いなのでご注意ください。必ず、法律上の手続きにのっとて相続放棄の手続きをするようにしましょう。

※相続放棄に必要な書類や手順についてはこちらのコラムにまとまっていますので、合わせてご覧下さい。 

2.処分行為に該当していない?気軽に財産を処分する行為には気を付けて

相続放棄をすると、借金だけではなく財産も一切相続できなくなります。亡くなった方の財産を一部でも処分すると、財産全体を受け継ぐ意思があるとみなされ(単純承認)、相続放棄ができなくなるというルールがあります。何気なくした行為が処分行為とみなされ、自分の意思に反して相続放棄が認められなくなってしまう場合があるので注意が必要です。

処分に該当することの一例として、

被相続人の預貯金の解約、払い戻しや被相続人の住んでいた賃貸物件の解約する行為も処分行為に該当してしまいます。必要な手続きなので知らずに手続きを進めてしまうなんてことが容易に想像されますのでご注意ください。大切な思い出の品を受け取ることも、場合によっては資産を処分したとみなされることもあります。その他にも細かなことが処分行為に該当します。

個別状況によって、解釈などが異なるものですので不安な点や迷われた場合には専門家に相談するようにしてください。

3.他の相続人への影響も視野に入れて検討を

相続放棄を検討したいと思われる理由は、ぞれぞれで多岐に渡ると思います。

負債があるので、放棄したい。お亡くなりになった方や親族と疎遠だから。自分は生活にゆとりがあるので相続放棄をして、他の兄弟に資産を回したい。などなど事情も様々かと思います。

法定相続人であるあなたがもし相続放棄をした場合、実は他の相続人にも大きな影響を与えることがあります。その点を考慮せずに勝手に相続放棄をしてしまうと、思わぬトラブルになってしまうので注意が必要です。

3.1.負債の負担が増える

被相続人が借金を残していた場合、相続放棄をした人の分の借金が他の相続人に分配されることになります。つまり、他の相続人一人当たりのご負担が増えることになります。

相続放棄の法律上の手続きについては、相続人それぞれが独自に手続きすることが可能です。その為、他の相続人の合意なしでも手続きはできてしまうのです。相続放棄を検討する際には、他の相続人へ事前に話を通しておくことをおすすめします。

3.2.法定相続人が変更される(想定外の親族に影響を与えてしまう)

原則相続放棄により同順位の相続人がいなくなった場合、次順位の推定相続人が新たに法定相続人として扱われます。

近年は、売却が難しい田舎のご実家の古い家屋や土地の処分にお困りになって、相続放棄という選択肢を検討されてご相談にいらっしゃる方も増えてきています。例えば、田舎で一人暮らしをしていた親の土地と家屋を相続したとしましょう。自分は必要ないし、どうやら処分にもお金がかかってしまうようだ。ご自身に子や兄弟がいない(すでに両親の親世代も亡くなっている)場合には、第三順位の親の兄弟姉妹が法定相続人になってしまいます。親の兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合には、その子供世代へ代襲相続されることになります。自分が相続放棄をすることで、実は親族に大きな影響を与えることになってしまうのです。特に被相続人の兄弟姉妹(やその子達)は相続において、第三順位となる為自分が相続人になることを想定されていないことも多いです。ご自身が相続放棄をした結果、次の法定相続人にとって寝耳に水といったことにならないよう事前にしっかりと相談をしておくよう注意をしましょう。

 

相続放棄を検討しようと思った場合には、「家庭裁判所に申述する相続放棄」と「遺産分割協議による相続放棄(=相続財産の放棄)」で意味合いが異なることをまずは理解してみてください。メリットとデメリットはそれぞれの状況によりますので、迷われたら専門家にご相談してみましょう。また、「家庭裁判所に申述する相続放棄」については、相続を受けたと知ってから3カ月以内に相続放棄の申述をしなくてはならないというルールもあります。期限が限られているので、いざという時のために事前に注意点を把握しておくと良いかと思います。