暮らし方や家族形態の変化により、増えていくいっぽうの空き家問題は、いまや地域にとっても大きな課題となっています。
「わが家は関係ない」と思っていても、実家の相続等で空き家の所有者になってしまうことも少なくありません。また今は大丈夫でも、土地や家はいずれ誰かが相続しないと空き家になるため、どの家もどの世帯も「空き家予備軍」といえます。
つまり、家の終活を考えていくことはどの世帯にとっても必要なのですが、こと「家」に関しては相続が発生してから考える傾向にあり、問題を先送りしがちです。
まだ空き家になっていないからこそ「住まいの終活」の大事なポイントを押さえて、いざというときに備えておきましょう。
 

増えつづける「空き家予備軍」

現在の空き家問題の芽は、核家族化が進んできた1975年(昭和50年)以降にさかのぼります。
当時は人口の都市化や都市部への一極集中といった子世代の働き方が変わりはじめたころで、親世代と同居することがむずかしくなり、家族形態に変化がでてくるようになりました。親世代の長寿化もその傾向を後押しし、複数世代が一軒の家で同居をする住まい方から、一世代で一軒の家を建てるようになり、高齢者の単独世帯が急増してきたのです。
空き家増加の根本的な要因であるこの問題については、いまも解決策が見つかっていませんが、まずは「空き家予備軍」を見える化し、現状と将来を把握することが大切になります。
現在の人々の住まい方を大きく分けると下の5つに分類されます。
 
1. 三世帯・二世帯家族
2. 二世帯分離
3. 夫婦と子ども
4. 夫婦のみ
5. ひとり暮らし
 
これらの世帯のどれが空き家予備軍になるのでしょうか。
「4. 夫婦のみ」「5. ひとり暮らし」が空き家予備軍で、他はその心配がないと認識されがちですが、実はどの世帯、どの住まい方も、時間軸がそれぞれ異なるだけで、空き家予備軍であることには変わりありません。
 
1. 三世帯・二世帯家族 ⇒ 家の跡継ぎがいなくなると空き家化
2. 二世帯分離 ⇒ 親世帯がいなくなると空き家化
3. 夫婦と子ども ⇒ 子どもが出ていき、帰ってこなくなると空き家化
4. 夫婦のみ ⇒ 〇年後に空き家化
5. ひとり暮らし ⇒ 〇年後に空き家化
 
このように空き家化するのは「いつか」だけの問題で、その家に住まう人がいなくなれば空き家になるのが現状です。
これを踏まえて、自分たちの家族構成や住まい方をもとに、どのタイミングで空き家化してしまうのかをシュミレーションすることから、住まいの終活をスタートしてみましょう。
 

空き家を所有したら早めに対処を

国土交通省の調査によると、実際に空き家を所有している人のうち、約55%の人が相続をきっかけとしており、その年齢は65歳以上が約40%を占めています。
この調査結果からも、空き家を所有する可能性が少しでもあるならば、
 
1. 60歳までには住まいの終活をはじめる
2. 空き家について今後の方針を持つ
 
この2点の必要性が示されています。
 
9割が所有する空き家を「活用したい」と考えている
 
また別のある調査では、「もし実家が空き家になったらどうするか?」の問いに、約9割が「活用したい」と答えています。
活用方法としては、
● 自身が住む
● 売却する
● 賃貸にだす
などが挙げられます。一方で実際に所有している空き家の現状は、約7割が「放置したまま」と回答しています。
 

空き家を所有したらどうすればいい?

空き家を所有することになったら、まず「持ち続ける」か「手放す」かのどちらかを選択する必要があります。
選択の判断基準は「将来使う予定があるか否か」です。
活用の予定が立たないのであれば、空き家を所有することでかかるコストや管理面での負担を考え、早めに手放す決断も必要になってくるでしょう。
実際に不動産価格とかかる経費は、家屋の経過年数を経ていくほどに反比例していきます。年数が経てばたつほど売り値は安くなり、逆に累積固定費と解体費用は高くなっていくため、早めの対処が重要になります。
 

空き家を持ち続ける ー選択①

空き家を手放さず持ち続ける場合、さらに「活用する」か「貸す」かのふたつの選択肢があります。
活用例には二世帯住宅などにリフォームして自分で住むことはもちろん、地域貢献に活用する方法があります。
「空き家利活用モデル事業」としての国の取り組みも背景にあり、民間事業者と協同で宿泊施設やカフェ、シェアハウスやシェアオフィス、貸倉庫にする事例もでてきています。
賃貸を選択する場合は、リノベーションをして貸すのか、現状のまま安い賃料で貸すのか、どちらかをさらに選択することになります。
 

空き家を手放す ー選択②

活用せずに手放す方向であれば、「売る」か「解体して更地にするか」を決めましょう。
売りたいと決めたら、リノベーションをして相場で売るのか、現状のまま安く売るのかも考えていきたいですね。
空き家を売る方向で動こうと思うなら、早めに情報を収集するだけでなく、売りどきを逃さないためにも空き家の情報をなるべく早く出すことが大事です。
更地にすると、2023年からスタートした「相続土地国庫帰属制度」が利用できます。相続した土地が「遠方のため利用できない」「維持管理の負担が大きい」といった要望をもとに創設された制度で、一定の要件を満たすことで、土地を国庫に帰属させることができるようになりました。
ただし、この制度を利用するためには、その土地が規定条件に当てはまり、かつ負担金の納付が必要になります。
 

空き家問題を地域社会で考える

空き家の所有期間は人によってそれぞれですが、長い人であれば10年から15年所有している人も少なくありません。
実は空き家のリスクは所有者個人の問題にとどまらず、近隣住民、そして地域へと影響をおよぼします。老朽化したまま放っておけば空き家の倒壊につながり、周辺家屋や通行人への危害をもたらせば賠償責任がかかることも忘れてはいけません。
また空き家は防犯上の危険性が発生する怖れやゴミの不法投棄などのリスクも高まり、空き家の増加を地域社会で解決していこうとする動きもでてきています。
まちづくりの観点からも空き家増加による経済的リスク、人身的リスクが懸念され、自治体などでも相談会や住教育セミナーが開催されているので、こういったイベントを活用するのもひとつのステップですね。
 
早めに情報収集をはじめながら、自分に合う専門家を見つけて相談できることが「住まいの終活」の大切なポイントとなります。
 
執筆 砂田嘉寿子