中小企業大国として知られる日本は、国内の全企業数のうち99.7%(※1)を中小企業が占めているとされます。中業企業は家族経営を行っているところも多く、相続を迎える時が来たら、親族の中で事業承継を行う予定の企業も多いでしょう。では、円満に事業を次世代へとバトンタッチするためには、一体どうすれば良いのでしょうか。今回の記事では、相続時の円満な事業承継に向けて、相続前にしておきたい準備にスポットを当て、詳しく解説します。

 

(※1)参考:“中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します”中小企業庁ウェブサイト

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2018/181130chukigyocnt.html(参照2023.9.21)

 

 

事業承継とはどのような方法で行う?

 

「事業承継」とは、一般的に会社の経営に関すること全般を、次の経営者に対して引き継ぐことを意味します。日本は高齢化社会を迎えており、現役の経営者の方であっても、元気なうちに次世代の方に事業承継を、と考えている方も多いでしょう。

 

また、相続のタイミングで事業承継をご検討されている場合には、「事前にどのような準備をするべきか」と頭を抱えているのではないでしょうか。では、事業承継には一体どのような方法があるのでしょうか。

 

事業承継は3つの選択肢がある

 

事業承継には、以下に挙げる3つの選択肢があります。

 

1.親族内承継

多くの中小企業が選択する方法の1つです。親族内で承継をするため、後継者育成もゆとりをもって行いやすいでしょう。ただし、家族間の承継に従業員や取引先、株主などが納得するかどうか、慎重に判断する必要があります。

 

2.社内承継

優秀な経営者能力がある方へと事業承継を検討したいという場合は、社内承継も視野に入るでしょう。優秀で社内で支持されている従業員が後継者として指名されると、従業員の士気も上がりやすいでしょう。ただし、社内承継のケースは第三者への承継となるため、たとえ役員や従業員ではない親族であっても、相続トラブルを防ぐためには親族間で情報をしっかりと共有する必要があるでしょう。

 

3.М&A (Mergers and Acquisitions)

事業継承にはM&Aも選択肢に挙げられます。戦略的に第三者へ承継させ、安定的な経営を目指す方法です。中小企業が多い日本では、深刻な後継者不足に悩まされており、中小企業のM&Aへの関心も高まっています。

 

 

事業承継は生前から慎重な判断が必要

 

事業承継は上記3つの手法が考えられますが、いずれの手法を取るにしても、相続後ではなく、相続前からしっかりとした対策を行う必要があります。現在は健康面に不安が無くても、相続税対策の視点からだけではなく、後継者育成のためにも早期の事業承継準備がおすすめです。次世代に向けて、相続対策も踏まえた舵取りを始めましょう。

 

相続に備える!事業承継の注意点

 

まず、先に触れたように事業承継には3つの方法が考えられます。いずれの方法であっても、相続後に無為なトラブルを発生させないためには、家族間で話し合いの機会を持つことがおすすめです。

 

特に社内に複数の親族がおり、まだ後継者が内定していない場合には、相続時に紛争となりやすいため注意が必要です。まずは専門家に相談し、自社に合った対策を模索しましょう。

 

生前の事業承継相談は誰に相談すべき?

 

事業承継の方針の決定は、親族間の話し合いはもちろん、株式に関することや所有している不動産に関することなど、多角的な視点から検討する必要があります。経営に精通している経営者であっても、独断で判断してしまうと、高額の相続税の発生や親族間トラブルの火種を残してしまうリスクがあります。そのため、生前から税理士や弁護士など、相続や事業承継に精通している専門家に相談することがおすすめです。

 

生前に事業承継の準備を怠るとどうなる?

 

では、もしも、生前に事業承継の準備を怠ってしまうと、どのようなトラブルが予想されるでしょうか。相続は、プラスの財産である積極財産、マイナスの財産である消極財産を同時に相続する必要があります。経営者が対策をしないまま亡くなってしまうと、どの程度の相続財産が遺されているのか、わからなくなるおそれがあります。相続人は正しく相続をするために、遺された財産を調査する必要があります。経営者の財産は多岐に渡りやすく、時間もかかります。また、相続税納付には期限があるため、相続人が翻弄されてしまうおそれがあります。

 

■難航化しやすい非上場株式の評価

経営していた会社の株式の評価は、相続時に問題になりやすいことをご存じでしょうか。

日本には非上場の企業が非常に多いですが、相続時には「非上場株式」の評価を行う必要があります。しかし、上場株式とは異なり、非上場株式は評価がしにくいのです。相続税に備えるためにも、株についても生前から対策をする必要があります。

 

■経営に関係しない親族とも遺産分割協議が必要になる

相続対策が行われていない事業承継は、経営者の死去後に遺産分割協議の中で、誰がどの程度の相続を行うのか決めていく必要があります。しかし、事業に関係することや故人が遺した財産を相続人間で話し合い、合意できるとは限りません。

 

また、疎遠な関係の親族が相続人となると、会社の株式の共有などでトラブルとなることも予想されます。株式の分散により、経営の方針が決まらないトラブルも多いのです。話し合いで解決が難しい場合は、遺産分割協議の調停に臨む必要があります。

 

生前からできる!事業承継における相続対策とは|親族間承継の場合

 

では、実際に生前からできる事業承継の対策とは、どのようなものでしょうか。この章では事業承継で多い「親族間承継」に焦点を当てて、わかりやすく解説します。

 

遺言書を作成しよう

 

トラブルが起きやすい相続時の事業承継は、経営者が遺言書を作ることが重要です。円満に特定の親族(例・次期経営者となる親族)に会社関係の財産を相続させることで、事業も円満に承継でき、遺産分割協議も回避できます。株式や事業用の資産などをきちんと明示し、相続させましょう。

 

ただし、財産が大きくなりやすい会社経営者の相続は、相続人が得られる「遺留分」の額も大きくなります。遺留分に考慮の無い遺言書はトラブルを引き起こしやすいため、専門家のアドバイスの下で作成することが重要です。

 

生前贈与を活用しよう

 

計画的に事業承継を進めていく場合は、次期経営者に対して生前贈与を進めることも有効な方法です。株式などの重要な財産は、適切に贈与していきましょう。生前贈与には事業承継税制(※2)も使えます。

 

贈与税・相続税の知識がある専門家とともに贈与を開始することがおすすめです。

 

(※2)事業承継税制とは会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。

参考:“事業承継税制特集”国税庁ウェブサイト

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm(参照2023.9.21)

 

資産や債務の整理を進めよう

 

家族経営のような規模で経営をしている中小企業には、経営者の個人資産と会社の事業資産を明確に分けていないケースが散見されます。相続時に相続人が苦労しないためにも、遺言書の作成だけではなく、個人資産と事業資産をわかりやすく分けて、事前に整理を進めることも大切です。

 

不動産に抵当権があったり、事業用のローンの保証人が会社経営者個人となっていたりと、相続人が知っておくべき事情がある場合も多いでしょう。あいまいな状態で放置しておくと、保証や債務に関することも相続人が引き継ぐ必要があるため、重い負担を背負わせる可能性があります。

 

まとめ

 

今回の記事では、円満な事業承継を実現するために、生前から進めておきたい相続対策について詳しく解説しました。今回は親族間承継について中心に触れましたが、会社の規模などによっては事業承継時に別の手法を検討することも多いでしょう。相続時のトラブルを防ぐためにも、まずは生前から、専門家のアドバイスを受けながら対策を行うことがおすすめです。

 

事業承継や相続に関するご相談などは、お気軽に一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターにお寄せください。

 

執筆:岩田いく実