皆様こんにちは
梅雨の時期はうだるような暑さが続き、
梅雨が明けた途端、雨や曇りの日が多いという
なんともちぐはぐな夏を迎えてますね。
さて本日の題材ですが、
例えば相続人が二人いる状況(A、Bとします。)で、
被相続人(Cとします。)がなくなった際に、
BからAに遺留分の減殺請求がなされたとします。
その時にAが行ったCのための葬儀費用を相続財産から控除することが
出来るかどうかという問題です。
葬儀費用を控除できるとすると、
総相続財産額が減少しますので、
Bの行使した遺留分減殺請求額も減ることとなります。
結論からいうと
葬儀費用を
遺留分金額算定のための総相続財産額から控除することが出来ないとされています。
理由①
民法885条は
「1.相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。
ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
2.前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって
支弁することを要しない。」
としています。
ここでいう「相続財産に関する費用」とは、固定資産税や火災保険料等、
被相続人Cが死亡した後に発生する管理費用を指します。
これらの管理費用は相続財産から控除し、
遺産の落ち着き先が決まったのちに、
それぞれの各相続人間で案分比例により
負担するのが平等ではないかという趣旨に基づいてます。
葬儀費用が、死亡した後に発生する管理費用として
「相続財産に関する費用」に含まれるなら、控除できそうですよね。
ところが、遺留分制度は
遺留分権者の最低限の相続財産を保護するという制度であるところ、
不相当に「相続財産に関する費用」がかさみ、
総相続財産が減少するとなると、最低限保護されている金額も減り、
この制度趣旨が損なわれることになってしまいます。
なので、葬儀費用が「相続財産に関する費用」に含まれるか否かにかかわらず
第2項によって控除しなくてよいという保護が図られているのです。
理由②
そもそもこの葬儀費用を負担すべきものが誰なのかということです。
これは葬儀の方法等が様々であり、ケースにより左右されてしまうため
条文上確定されているものではありませんが、
判例・通説によると主宰者ということになります。
例えば、公正証書遺言等により葬儀の主宰者が指定されていた場合には、
その方になります。
とすると、葬儀費用を総相続財産から控除してしまうと、
本来主宰者が負担すべきものを、
被相続人ひいては他の相続人等が負担するということになり
理論上おかしいことになります。
なので、総相続人の合意があった場合は別段、
そもそも葬儀費用を総相続財産より控除することはできないとされています。
つまりは、理由①でいう「相続財産に関する費用」には、
葬儀費用は含まれないということになります。
理由③
遺留金額算定の基準となる相続財産は
被相続人Cの死亡時の総財産額となります。
この総財産額は、もちろん生前の借金等の債務を差し引た残額となるのですが、
差し引く債務は、あくまで被相続人死亡時の時点で発生しているものを対象としています。
ところが、葬儀は被相続人死亡後に執り行われ、
その費用も被相続人死亡後に発生するものです。
ですので、遺留分金額算定の基準となる相続財産からは控除されない
ということになります。
上記3つの異なった角度からの理由により
前述した結論にたどり着くことができます。
仮に控除されるという結論で考えてみますと、
例えば総相続財産額1000万円であったとして、
主宰者が独断で900万円の葬儀をしてしまったという場合、
他の相続人や遺留分権利者からしたら迷惑極まりない行為ですよね。
因みに今回問題にしたのは「葬儀費用」でしたが、
「遺言執行者の報酬」等も遺留分を減ずることができないとなっております。
参考条文:
民法第1021条
「遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。
ただし、これによって遺留分を減ずることができない。」
相続の実務では
様々な費用が発生するためとても注意が必要ですね。
それではまた。