前編では、相続時における経営者保証の扱いに関する注意点と、事業承継が進まない理由の一つとして、経営者保証がネックとなっていることをご説明しました。こうした背景から、2014年に策定された『経営者保証ガイドライン』を見直し、事業承継時に後継者の経営者保証を可能な限り解除していくためのガイドラインの改定が、2020年に行われました。後編では、ガイドライン改定のポイントを中心にご説明します。

 

 そもそも経営者保証がどの程度の割合で適用されているのかを示すのが上のグラフです。借入金全額に対する保証が過半を占め、一部を含めると、実に9割近くの借入に対して経営者保証が適用されていることが分かります。また、中小機構が2017年に実施した調査では、親族内に事業承継の候補者がいるにも関わらず、承継候補者が承継を拒否する割合が6割に上るというアンケート結果も示されています。

そもそも後継者がいないという中小の事業者が多くを占める状況下[1]、候補者がいるにも関わらず承継を拒否し、それまで営んできた事業が途絶してしまうことは大変残念なことです。

こうした状況を踏まえ、『事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策』が中小企業庁より定められ、2020年4月より、事業承継に焦点を当てた『経営者保証ガイドライン』(以下「本ガイドライン」)が、特則として運用されています。

 

経営者保証ガイドラインの特則

本ガイドライン特則のポイントは以下の3点です。

 

  • 経営者保証を新+旧経営者の両者に求めることはしない
  • 後継者の経営者保証=事業承継の阻害要因であることを踏まえ、慎重に判断する
  • ガイドライン要件[2]を満たしていない場合でも、経営者保証を求めないことを検討する

 

これらは明確に、事業承継時の経営者保証の除外を意識した内容となっています。また、上記の特則と併せて、金融機関による経営者保証を不要とする様々な融資制度の拡充も図られています。

 

  • 本ガイドライン導入による期待効果

 そもそも事業が順調に進捗していれば問題なく保証を外すことは可能ですが、貸手の金融機関にとっては、貸出しのハードルを下げることは、貸倒リスクの増大にも繋がりかねません。元々本業が赤字である等、将来性が乏しい事業のケースや、経営者個人と会社の資産が混同されているような状況の会社においては、いくら政府が後押ししているといっても、実際に本ガイドラインを適用し、保証の除外を進めることは困難で、本末転倒という感も否めません。

依然としてコロナ禍という厳しい状況下にありますが、経営が健全な状態のうえで、ガイドライン適用の要件を満たすことは、必要条件であると考えられます。 本ガイドラインは2020年に運用が開始されたばかりの制度です。今後どの程度効果が出てくるか、進捗を注視していきたいものです。

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  • 「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」の公表

 本年3月、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(以下「基本的考え方」)を取りまとめ、内容を公表しました。

 

 これは、中小企業の廃業に焦点を当て、中小企業の経営規律の確保に配慮しつつも、現行の「経営者保証に関するガイドライン」の趣旨を明確化したものです。前述のガイドラインの特則で定められた過剰な保証契約を除外するという主意に加えて、この「基本的考え方」においては、仮に事業が行き詰まった等で廃業を余儀なくされた際においても、再チャレンジを可能にするという内容に触れられています。

 以前より、日本は一度事業で失敗したら再起が難しいと言われ続けてきました。その根本として存在し続けてきた要因が、(1)過剰な経営者保証(2)廃業時のセーフティーネットが存在しない、という2つでした。こうした政府による社会制度の変革を通じて、今、世の中は大きく変わりつつあります。

新たなビジネスに貪欲にチャレンジし、仮に失敗しても再チャレンジ可能な時代の到来は着実に近づいていると思われます。そして、事業承継や相続の制度改定による円滑化に加え、新規事業のスタートアップや不動産投資等、様々なビジネス機会を時機を逃さず捉え、貪欲にチャレンジしていく姿勢が求められています。

 

 新規ビジネスや事業承継に関心があるが、自分だけでは具体的な検討が難しいといった場合、身近なコンサルタントに相談することも有効な一手となり得ます。経験に富み、幅広い事業領域に精通した経営コンサルティングの利用についても検討してはいかがでしょうか。

 

参考出展元) 

 

・政府広報オンライン

暮らしに役立つ情報 ~ 中小企業や小規模事業者の方へ

ご存じですか?「経営者保証」なしで融資を受けられる可能性があります

 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201503/4.html

 

・中小企業庁ホームページ 事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/2020/200204kaijo02.pdf

 

・中小企業庁ホームページ 廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方の公表について

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/2022/220304.html

 

[1]2016年度の中小企業庁の資料によると、2025年には、約381万社の中小事業者の経営者のうち、70歳以上が245万社(64%)、うち、後継者未定が127万社(33%)を占めると予測されている。

 

[2]経営者保証ガイドラインの3要件:内部又は外部からのガバナンス強化により 以下3要件を将来に亘って充足する体制が整備されていることが必要とされている。

  • 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている。
  • 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である。
  • 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている。

(上記参考元:中小企業庁ホームページ~経営者保証)

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/index.htm