親族による事業承継が円滑に進まない理由として、相続において、亡くなった前経営者が金融機関と契約した経営者保証がネックとなるケースが挙げられます。 2021年版の中小企業白書においても、事業承継の課題として調査会社が実施したアンケートで約2割を占めることとなっており、“後継者そのものを探す”という根本的な課題に次ぐ位置付けとなっています。(下図参照)

 

 

今回のコラムでは、事業を営んでいた経営者が亡くなり相続が発生した際に、相続人として心得ておきたい事柄に関して、公的機関が定め、近年改定もあった『経営者保証に関するガイドライン』を紹介し、ポイントをご説明します。

 

『経営者保証に関するガイドライン』とは

 日本は他国と比べて起業を志す人が少なく、その理由として、事業失敗時のリスクが過大であるということが指摘されてきました。理由の一つが、経営者個人に保証人となることを求める経営者保証の存在です。こうした状況を踏まえ、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」が策定されました。(2014年2月適用)

 このガイドラインで定められた主に3点の条件[1]を満たせば、事業者は、経営者保証なしで融資を受けられる可能性があり、また既に契約している経営者保証を見直すことができる可能性もあります。

 

経営者保証が存在する状態で相続をするとどうなるか

 経営者が亡くなった際に問題となりやすいのは、相続人が経営者が担っていた保証人の地位も併せて継ぐことになるケースです。経営者が金融機関の保証人となっていることは一般的であり、相続人は親の保証債務についても併せて相続することになります。そこで、『経営者保証ガイドライン』を活用し、相続時に後継者による保証契約を外すことは有望な手法となり得ます。

 また、経営状況によっては、相続放棄や限定承認[1]を選択することも止むを得ません。仮に亡くなった経営者が営んでいた事業が債務超過や赤字で将来の見通しが見えない場合、相続人がそのまま会社を引き継いでよいかという判断を迫られます。相続においては、預貯金や不動産等、正の資産だけでなく、会社債務の保証契約といった負の資産についても包括的に承継することになるので、注意が必要です

 保証債務を相続するリスクを鑑み、相続放棄をし、会社を清算・廃業する選択肢もあり得ます。この場合は、他の相続人も相続放棄を行うことになりますが、先代が長年営んできた事業や会社を、経営者保証がネックとなり、承継せずに廃業に至ることは、相続に関係する家族のみならず、地域の社会や経済にとっての損失に他ならず、大変残念なことです。

 

 こうした経営者保証を含めた相続は扱いが難しく、感情面も絡みやすいことから、当事者だけで解決することは難しい面も否めません。事業・会社の経営状況や将来の見通し、会社および個人の保有財産や、相続権利人との関係を含めて、包括的に課題を捉え、具体的なソリューションを提案できる相談者を活用することは、有効な解決策となり得ます。『経営者保証に関するガイドライン』の内容に精通し、難航も予想される金融機関等との交渉における経験と実績が豊富な相談者へ、まずは気軽にご相談されてはいかがでしょうか。

 

参考出展元) 

・政府広報オンライン

暮らしに役立つ情報 ~ 中小企業や小規模事業者の方へ

ご存じですか?「経営者保証」なしで融資を受けられる可能性があります

 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201503/4.html

 

・2021年版 中小企業白書

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf

 

・中小企業庁ホームページ 経営者保証

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/

 

[1]経営者保証ガイドラインの3要件:①資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている、②財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である、金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている、の3要件

(参考元:中小企業庁HP 経営者保証 https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/

 

[2]被相続人の資産状況がよく分からない場合、「プラスの財産<マイナスの財産」であった場合、プラスの財産の範囲内に相続財産を限定すること。

但し、限定承認をするには、相続人全員の合意を要する等の条件もある。

 

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相続と経営者保証について(後編)