前回のコラムでは、相続発生時、亡くなった方が事業等を営んでいた場合に悩みのタネとなりやすい経営者保証の概要と、経営者保証が円滑な事業承継を阻害する要因となっていることを踏まえ、政府や金融機関が保証適用に関するガイドライン等を定めていることをご説明しました。

 但し、経営者保証を外すことは貸手にとってはリスクにもなり得るため、無条件で応じてもらえるとは限らず、経営状態において一定の要件を満たすこと等が要求されます。

 今回のコラムでは、経営者保証を外すための取組みには具体的にどのようなものが必要となるかをご説明いたします。

 下図は、経営者保証によらない新規融資件数の割合の推移を示したものです。2014年には1割強(42万件)であったものが、2021年度には3割(37万件)を占めるまで上昇しており、ガイドラインに則った融資が進んでいることが分かります。

 

 

中小企業庁は、事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策として、各種の具体的な取組みを取りまとめ、ホームページで公開しています。

主な内容としては、以下の項目が挙げられます。いずれも令和に入ってから定められた制度で、急速に制度が整いつつあるということは、それだけ切迫したニーズがあるということに他なりません。

 

●事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則策定・施行

●経営者保証を不要とする新たな信用保証制度の創設(事業承継特別保証制度)

●経営者保証解除に向けた専門家による支援

 

 

「経営者保証ガイドライン」では、経営者保証を外すため、以下の3要件を満たす体制が整備されていることが必要とされています。

①   資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている

②   財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である

③   金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

 

 一見するといずれの項目も当たり前のように思われますが、一昔前の経営においてはこうした面に関する意識が乏しく、現在も不十分なままとなっているケースも見受けられます。

 経営者保証がネックとなり、事業が承継されず、それまでの実績や商品・サービスが世の中から失われてしまうことは、大変残念なことです。

 相続に際して関連して生じる多面的な課題を一体で捉え、事業承継に関する悩みや対策についても的確にアドバイス可能な相談者・支援者が果たすべき役割は、益々大きくなっています。

 

参考出展元) 

・中小企業庁ホームページ  経営者保証 https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/index.htm

・全国銀行協会  経営者保証ガイドライン https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/

 

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相続と経営者保証について(前編)