証券会社で今まで頻繁に上場株式の売買を行っていた人が、何らかの理由で株式取引を止めてしまうことはよくあります。例えば大損をしたため妻に怒られただとか、もう高齢者の域に入ってくる年齢なのでもっと資産を安全に運用しようなど、その理由は様々でしょう。

 

そしてAさん(男性)もそんな1人だったと仮定します。もちろんですがAさんは、その決心を遂行すべく、保有していた上場株式や投資信託をすべて売却して現金化し、証券会社に指示してお金を全部自分の取引銀行に振り込んでもらいました。すなわちその時点では証券会社に1円のお金も株式も預けていません。

 

その後にAさんは交通事故にあって、死亡することになったとします。相続人である妻Bと長男C、長女Dは、証券会社にAの残高がゼロであることを確認した後に、証券会社以外の相続手続きを行いました。

 

そして・・・不動産や銀行等の相続手続きをすべて終わらせた後で、証券会社から送られてきた残高報告書を見てみると、なぜかAの口座に金銭が残っているのです。BやCは証券会社に対して残高ゼロをきっちり確認したのに、金銭が残っていることが不思議でなりません。でも実際にこのようなことは起こりえるのです。

 

実は投資している上場株式の配当金を、証券会社で受け取る方式にしていた場合(株式数比例配分方式といいます)、投資していた会社の決算期との関係で、株式を売却した2~3か月後くらいに配当金が入金されることがあるのです。もちろんAさんの相続手続きの際に、その点に留意して手続きを進めてゆけばこのようなことは起こりませんが、実際には結構見落としてしまいます。

 

そして問題はここからです。証券会社の残金を見落としたまま、Aに続いて長男Cも死亡してしまった場合、今度は「数次相続」という問題にあたってしまいます。長男Cの財産となったAの配当金を受け取る手続きが終わらないうちに、更にCが被相続人になってしまったのですから、結局のところAの配当金は、長男Cの配偶者や子供の協力を得ないと相続手続きができなくなってしまうのです。

 

またここまで問題が複雑でなくても、夫が証券会社に少額の配当金(例えば500円くらい)を残したまま死亡し(妻はすでに死亡)、その後に子供が亡くなると、夫の配当金は金額のわりに相続手続きが面倒なので、その配当金の相続手続きをしない場合が多いのではないでしょうか。

 

するとその配当金は誰に受け取られるでもなく、永久に証券会社の口座に残り続けることになるのです。もちろんですが証券会社側も、残高がある口座を勝手に廃止するわけにもいきませので、残高明細書類の郵送代などが永久にかかることになり大変迷惑になります(このような場合、証券会社によっては簡易な相続手続きを認めてくれる場合もありますので、相談してみてください)。

 

もし皆様方が証券会社での株式取引を止めようと思った時は、上場株式を売却した時に残金ゼロになったのを確認するだけでなく、是非3か月後の口座残高も、もう一度確認していただきたいと思います。相続が実際に発生してしまうと、これらの金銭は忘れられがちになり、相続手続き漏れを起こしやすくなります。

 

ちなみに「数次相続」のような問題が発生した場合は、上場株式だけでなく、遺産分割協議書の作成や相続登記なども複雑になる可能性があるため、専門家の話を聞いてから相続手続きを始めた方が良い場合も多いと思われますので、その場合は当センターまでご相談ください。きっとお力になれると思います。

 

※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp

 

■こちらの記事もおすすめです

上場企業であるJALの発行するマイルは相続できるのか?【相続コンサルタントコラム】