現代はお墓が多様化してきていますが、

その背景にあるのは将来を見据えて承継者不要の墓を選ぶ人が増えていることが考えられます。

 

どんなお墓を購入したかについて調査した「第14回 お墓の消費者全国実態調査」では、

承継者を必要とする「一般墓」よりも、承継者不要の「樹木葬」や「納骨堂」を購入する人が、

ついに過半数を超えたという結果を報告しています。

 

このようにお墓を承継することはデメリットが大きいと捉えられがちですが、

実際にお墓を相続する場合と、そうでない場合にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

今回はさまざまな事例をもとに、お墓の相続について考察していきたいと思います。

 

お墓は祭祀財産として相続する

お墓の相続は、不動産や預貯金などの財産の相続とは違い、

祖先を祀るための「祭祀財産」(祭祀供養物)として扱われます。

民法では祭祀財産は以下のように定められています。

祭祀財産の特徴は、それを承継するのは相続人ではなく、

祭祀承継者(祭祀主宰者)であることです。

祭祀承継者は以下の順で決まっていきます。

 

故人が承継者を特に指定しておらず、

慣習や相続人同士が話し合いをしてもまとまらない場合は家庭裁判所が審理し、

承継者を決定します。

 

すべてを経ても決められない場合は、最終的に国が所有することになりますが、

祭祀承継者のほとんどが家族や親類同士の話し合いをとおして決められていくパターンが一般的です。

 

相続財産との違いと相続方法

 

不動産や預貯金などの相続との違いは、

祭祀財産の承継者は原則一人(※例外あり)ということです。

 

相続人同士で金融資産を分割して相続する一般相続と違い、

墓石や墓地の使用者名義者は一名となっているため、それを分割して承継することは非現実的です。

 

また葬儀や法事などで使う祭具も同一者が保管しておくほうが祭祀を執りおこなう際にスムーズなため、

「祭祀承継者は祭祀を主宰するのにふさわしい者が単独で承継するべき」という考え方が根本にあります。

 

しかしながら、祭祀やお墓は他家族や親類縁者も関わりを持つものであるため、

実際には皆で協力して執りおこない、墓守も共同でおこなうことが多いかもしれません。

 

祭祀承継者だけが責任を持つのではなく、代表者としてその権利を持つと捉えるほうが良いでしょう。

 

また通常の相続では相続税がかかることもありますが、

祭祀財産は別扱いなので相続税はかかりません。

相続することによって借金を背負ったり、高額な税金を払うことにはなりませんが、

祭祀財産の放棄は認められていないので、祭祀承継を拒否することはできません。

 

お墓の相続ケーススタディ

 

さて、お墓の承継方法について説明しましたが、

実際にどのような事例があるのかをご紹介しながら、

あらためてお墓の相続(承継)について考えてみたいと思います。

 

一般的なお墓の承継者 ー 子

 

被相続人が亡くなった後、墓地から比較的近距離に住んでいる長子が相続するパターンです。

一般的にはこのように相続人でありながら、祭祀承継者でもあるケースが一番多いと考えられます。

 

次に多いのが長子ではなく、次子が継ぐパターンです。

長子が県外など遠方に住んでおり、お墓を守ることが困難なケースで、

地元にいる次男が継ぐ場合もあります。

また、長男が早逝したため、次男がお墓を承継しているケースも少なくありません。

 

女子の子しかいない場合も、他に承継者を立てなければ、その子がお墓の承継者になります。

 

子どもにお墓を残すのはデメリット?

 

お墓の承継者で圧倒的に多いのが子どもになるわけですが、

一方でお墓を子どもに継がせるのは負担が大きいとの声がメディアでも取り上げられます。

その一番の理由として、子が墓地から遠いところに住んでいることが挙げられます。

 

先述のお墓選びの調査でも、

自宅から霊園までのアクセスを重要視している結果が出ていることから、

せっかくお墓を建てても将来的に野放しになってしまう可能性を危惧するのかもしれません。

そして、それがお墓選びに反映されているといえるでしょう。

また、子に女子しかいないケースでお墓の承継者になると、

嫁ぎ先と実家のお墓の二つを守っていくことになり、

最終的に墓じまいをしなくてはいけないと憂慮する声も聞きます。

 

ただし、子がお墓を承継することは負の側面ばかりではありません

 

親世代で建てたお墓を相続し、さらにそれを承継する子がいるのであれば、

自分たちのお墓について考える必要がなく、

金銭的にも負担は少なく、さらに相続税の節税対策にもなります。

 

逆に言えば、親がお墓を持たず、死後に相続した金銭でその子がお墓を建てるとなると、

お墓にかかる費用は相続税の対象になるからです。

 

女子の子がお墓を相続したケースでは、

最終的に実家の墓と嫁ぎ先の墓を一つにして両家墓として建て替えることもありました。

少子化や結婚しない兄妹も少なくないことから、

お墓を一つにして両家で守っていくスタイルもあり、一概にデメリットばかりではないのです。

 

子以外の承継者 ー 配偶者、兄弟、甥など

 

子どもがおらず、子以外でお墓を承継していくケースでは、

まず配偶者がその承継者となることが一般的です。

ただし、亡くなった被相続人が高齢で、

その配偶者も高齢の場合はすぐに次の承継者を考えておく必要がでてくることを考慮しておくべきでしょう。

 

配偶者以外で多いのは兄弟です。

子がいない場合はもちろん、子がいてもまだ若く承継者となるには早過ぎるため、

兄弟が承継者となるケースもあります。

このような場合は、被相続人の子が成長したころに、

叔父または叔母から甥や姪に承継者が変わることになる場合がほとんどです。

 

親族以外の承継者 ー 墓地管理者など

 

将来の承継者にその意志があるかどうかはともかく、

承継者がいないことがわかっていれば承継者不要のお墓や埋葬法を選択することができます。

しかし、子がいなくても配偶者と二人で自分たちのお墓で眠りたい人や、

子がいたとしても、いずれ承継者不在となる可能性もあります。

 

そのような場合を想定してできたのが墓地管理者による「墓所特別祭祀承継制度」です。

墓石を建立し納骨された後に承継者が途絶えると、

霊園がお墓を一定期間管理し、その期間が過ぎてから、

霊園内にある合祀墓や供養塔に合葬されます。

合葬後の墓石の撤去費用も込みでの契約になり、霊園が承継者の代わりになります。

 

墓地管理者と契約する場合もあれば、そのような制度を設けていない霊園であれば、

行政書士と同じような趣旨の死後事務委任契約を交わすことも可能です。

 

自分たちにあったお墓を模索する時代

 

以上のように、お墓を子孫で承継していくといっても、

その対象は子だけでなく親族もふくまれます。

人生100年時代の老後費用の準備を考えれば、

すでにお墓があることはメリットと取れる側面も見えてきます。

 

また従来の墓石は数百年もつといわれ、正しくメンテナンスしていけば、

何世代にもわたって維持していけますし、

メンテナンス費用の方が樹木葬や永代供養墓を求めるよりも安く上がる可能性もあります。

 

ただし、お墓を承継していくには親族間や親子間での話し合いやコミュニケーションが肝になります。

自分たちの生き方や長い目でお墓をどうするか考え話し合うことで、

希薄になりがちな親族間のコミュニケーションの濃度を上げていければ良いかもしれませんね。

 

執筆:砂田 嘉寿子