皆さんこんにちは。
相続コンサルタントの久保田です。
 
これまでのコラムで不動産は相続対策に活用できることを紹介してきましたが、今回は不動産コンサルタントの立場から、具体的にどの様な不動産を買えば良いのかのご説明してみたいと思います。
少し細かい内容も入ってきますので、お時間があるときにじっくりとご覧いただけますと幸いです。
 
 

そもそもなんで相続対策に不動産が使えるの?

 
大まかな説明になりますが、相続対策として不動産を活用する際は節税対策としての一面が大きく期待できます。
節税対策として不動産を活用する場合は、下記の3つの要素を利用します。
 
1.金融資産と不動産の相続税評価の差を利用する
  →預貯金の様に額面通りの相続税評価をされる金融資産から不動産に組み替えることで、相続税評価を減額できることになります。
 
2.賃貸不動産の場合、借地権・借家権を考慮した評価減を利用する
  →下記の計算式で土地・建物それぞれ評価減できます。
 
【賃貸不動産の土地】※貸家建付地評価
貸家建付地の価額=自用地としての価額ー自用地としての価額×借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合
 
【賃貸不動産の建物】※貸家の評価
貸家の価額=建物の固定資産税評価額×借家権割合(30%)×賃貸割合
 
3.金融機関からの借り入れによって遺産総額を減額する
 →負債はマイナスの財産として扱われますので、プラスの財産から差し引きして遺産総額を減額できます。
 
よく3を取り上げて『金融機関からの借り入れによって節税ができる!!』なんて言われたりしますが、借り入れをせずお手持ちの資金で不動産を購入しても節税効果は得られます。
とはいえ、金融機関からの借り入れを利用することで、より大きな節税効果を得られる点や、購入する不動産の選択肢が増えることにもなりますので、借り入れを利用する方が多いと思います。
 
金融機関からの借り入れは、ご自身の資産状況や必要に応じてご検討いただくことをお勧めします。
 

相続対策で不動産を買うのであれば賃貸不動産がお薦めです

 
上記の通り、賃貸不動産では2の評価減を利用できるため、節税対策の面で賃貸不動産の購入をお勧めします。
 
加えて毎月の賃料収入を得られるため、相続後に売却するのか・賃料収入を得るために保有し続けるのかを選択できることになります。
また、不動産自体の価値以外でも不動産の収益性で各相続人の取得分を調整しやすくなりますので、複数の賃貸不動産を購入することで分割対策にも有効であると言えます。
 
この様な理由から、相続対策で不動産を購入する際に賃貸不動産がお勧めされるのですが、現在大量に販売されている賃貸不動産の中からどの賃貸不動産を購入すれば良いのかご存知でしょうか?
 
賃貸不動産を購入した時点から賃貸経営がスタートします。
賃貸経営がうまく行かなくなり、入居者が入らなかったり、賃料収入以上に修繕費用がかかってしまうこともあります。
賃貸不動産では、基本的に室内を確認することができませんので、購入前の十分な調査が必要になります。
 
また、賃貸不動産を購入する際は、長期的に保有していずれ建て替えるのか・どこかのタイミングで売却をするのかといったゴールを検討することも重要になります。
せっかく相続税を節税できたとしても、賃貸経営や不動産売却で節税分以上のマイナスになってしまってはそもそも節税のために賃貸不動産を購入しない方が良かったということにもなりかねませんので、相続税対策で賃貸不動産を購入する場合でも、一般的な不動産投資としての観点から購入する賃貸不動産を選ぶようにしましょう。
 

どんな賃貸不動産を選べばいいの?

 

ここまでで相続対策には賃貸不動産の購入が有効であることを説明しました。
それでは、相続対策で賃貸不動産を購入する場合、どの様な賃貸不動産を選べば良いのでしょうか?
 
タワーマンション節税が否認されたニュースがあったように、購入した不動産を相続後すぐに売却したことで、節税目的の不動産購入と判断されたために、相続財産は不動産の相続税評価額では無く購入価格とされたケースがありました。
そのため、特に節税対策で不動産を購入する場合は中長期的に収益性を保ち、維持がしやすい賃貸不動産を選ぶことが重要になります。
その様な賃貸不動産を選ぶ際には、不動産投資としての観点での不動産分析が役立ちます。
 
ちなみに、私が賃貸不動産を選ぶ際は下記の3つのポイントを重要視しています。
 
①入居者確保のしやすさ
 
②維持管理のしやすさ(労力も考慮した収益性)
 
③売却のしやすさ
 
この様なポイントを踏まえて、購入後できる限り負担が少なく、安定した賃貸不動産を選んでいきます。
 
また不動産投資では、大まかな指標として『表面利回り』があります。
これは不動産価格に対する年間の賃料収入を%で表したものですが、単純に表面利回りが高い賃貸不動産=良い賃貸不動産ではありません。
賃貸経営では、賃料収入から運営にかかる経費や税金等を差し引いたものが実際の利益となりますので、いくら表面利回りが高くても、賃料を維持するために多額の修繕費用が必要な賃貸不動産では最終的にお手元に残る利益がほとんど無かったり、最悪の場合マイナスになってしまうこともあります。
そこで、表面利回りは数ある賃貸不動産の足切り程度に捉えておき、目安の表面利回り以上の物件から詳細な分析を進めることをお勧めします。
 
不動産分析の詳細をご説明すると、もう一つボリュームの大きなコラムになってしまうので、ここでは詳細説明は割愛しますが、ひとまず下記の3つの指標をご確認いただければ不動産分析の大まかなイメージが付くと思います。
 
・NOI(Not Oparating Income):満室想定賃料(GPI) ‐ 空室損・未回収損 ‐ 運用維持費(Opex)
 
・ADS(Annual Debt Service):年間元利返済額
 
・BTCF(Before-Tax Cash Flow):NOI ‐ ADS
 
この3項目が見えてくれば、検討している賃貸不動産でどの程度収益が見込めるのか・借り入れを利用して購入する際の安定性など上記の②や、戦略的に③を検討する上で重要な要素になってきます。
 
ここでご注意いただきたい点は、上記のような指標を利用した不動産分析では①をカバーできていない点です。
上記の番号が総合的な不動産分析の優先順位だと考えていますので、次に①をどの様に検討していくのかをご説明します。
 

入居者確保のしやすさは過去のデータから推測します

 
結論を先に書きましたが、人口動態(対象の賃貸不動産周辺の総人口、世帯数、男女比、年齢比など)や周辺の賃貸物件の状況(賃料、建物・部屋のタイプ、設備、募集中の物件数と成約済みの物件数の割合など)などのデータを利用します。
周辺の賃貸物件の成約件数は不動産業者でしか確認できないのですが、その他のデータは各自治体や不動産ポータルサイト(アットホーム、SUUMOなど)で確認できます。
 
収集した過去・現在現在のデータを利用して、中長期的な視点で将来入居者確保に困りにくい賃貸不動産を選んでいくことになります。
また、もっと広い視点で、将来も入居者確保に困りにくいエリアを選んでいくためにも、複数エリアのデータを収集することが理想的です。
 
この様に大量の過去・現在データが必要になるので、データの収集だけでもかなりの労力になってしまうと思います。
そこで、投資用不動産の仲介を得意とする不動産会社へのご相談する方も多いと思いますが、一時期ニュースでも報道された女性向けシェアハウスを紹介する不動産業者もいますので、相談する不動産会社は慎重にお選びいただくことをお勧めします。
 
入居者の確保がしやすければ、募集にかかる経費や空室損や、そもそも退去しにくい賃貸不動産を維持することで退去時にかかる原状回復費用を抑えることもできますので、非常に重要なポイントだと考えています。
 
ちなみに私は、エリアや周辺の賃貸物件の状況によって異なりますが、初めて賃貸不動産を購入する方には単身者向けではなくファミリー向けの賃貸不動産をお勧めすることが多いです。
ファミリー向けの賃貸不動産は単身者向けと比較すると収入面では劣りますが、比較的長期的に入居していただける・比較的競合物件が少ないため入居者確保がしやすい・設備(戸数)が少なく修繕費用を抑えやすいなど、安定した賃貸経営に向いていると考えているからです。
 
単身者向けの賃貸不動産でも、競合物件に負けない戦略を策定することで収益性も高い賃貸不動産として中長期的に維持することができますが、単身者向けの賃貸不動産は新築されることが多く、築年数の差を埋められず競争に負けてしまうことが多い現実もあります。
 
不動産投資では、株や投資信託とは違い購入後ご自身の技量によってバリューアップを見込めることが魅力の一つだと考えていますが、日常的な賃貸不動産の維持・管理や常に市況の動向を把握することが大切になりますので、信頼して維持・管理を任せられるPM※1 の選定や、あまり個人の方には浸透していませんがAM(Asset Management、資産管理会社)※2 との契約も賃貸経営を成功させる助けになると思います。
 
※1 PM(Property Management、賃貸管理):入居者募集、契約管理、賃料の管理、入居者対応、修繕業
     者手配等、賃貸経営に関わる様々な業務を依頼できます。
     毎月の賃料等の5%程度の手数料が相場ですが、PM会社によって業務の質が大きく異なるため、P
     M会社選定は賃貸経営成功の大きな分かれ道になります。
 
※2 AM(Asset Management、資産管理会社):PMが対象の不動産を管理することに対し、AMは投資家
     の資産全体の管理運営を行います。
     不動産投資で言えば、購入する不動産の選定、所有している賃貸不動産へのアドバイス、定期的な
     市況分析、売却へのアドバイス等、投資判断のサポートや、場合によっては投資家の代理として売
     買を含む契約代理を行います。
     一般的には投資ファンドがAMと契約することが多いのですが、最近は個人投資家がAMと契約して
     不動産投資を行うケースも増えています。
 

不動産を購入する目的も大切です

 
以上のように大まかに相続対策で買うべき不動産をご説明しましたが、なんとなくイメージができましたでしょうか?
①~③のポイントを全てクリアできる賃貸不動産が見つかることが理想ですが、全てをクリアする賃貸不動産は購入希望者も多く、そもそも賃貸経営がうまくいっていることから売りに出されることも少ないでしょう。
相続対策で不動産を購入する場合、ある程度購入までの期限を考える必要があるため、販売中の賃貸不動産から3つのポイントをある程度クリアできるものを選ぶ必要が出てくるかと思います。
 
そのため、『節税対策のため』『分割対策のため』『相続後に賃料収入を残すため』といったように、相続対策の中でも賃貸不動産を購入する大きな目的を設定してみてはいかがでしょうか?
もちろん全てをクリアできる賃貸不動産が見つけることが理想的ですが、大きな目的を100%クリアした上で、その他の目的は70%クリアできるものを見つけるのであれば選択の幅が広がるかもしれません。
また、賃貸不動産はご自宅とは違いご自身で利用しないため、入居者対応や修繕など煩わしく感じてしまうことも多いかもしれません。
その様なときにも、購入する目的を設定しておくことで不動産に想い入れを持った賃貸経営ができると思います。
不動産分析では過去・現在のデータから将来予測を行いますので、時には予測と異なる状況になることもありますので、設定した目的を達成できるような対策を検討する上でも役立つのではないでしょうか。
 
今回のコラムでは、不動産コンサルタントとして相続対策で買うべき不動産をご説明しましたが、いかがでしたでしょうか?
相続対策ではできるだけ早く賃貸不動産を購入することも重要ですが、焦ってしまい『負』動産を買うことが無いように慎重に不動産をお選びいただけますと幸いです。
 
さいたま幸せ相続相談センターでは、相続対策として不動産購入をご希望される方にはこの様な不動産分析を行った上で、ご相談者様やご家族に相性の良い不動産をご紹介しております。
PM(Property Management、賃貸管理)サービスは取り扱っておりませんが、しっかりと対応していただけるPMをご紹介したり、賃貸経営にご不安がある方にはAM(Asset Management、資産管理会社)サービスを当センターのグループ企業でご提案することも可能です。
『相続対策で不動産購入を考えていたけど、どんな不動産を買えばいいかわからない』といったお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。