皆さんこんにちは。相続スタッフの成田です。
今回は相続欠格についてお話ししようと思います。
相続欠格とは一定の重大な行為があった場合に遺産を相続する権利を剥奪される制度のことをいいます。
では、タイトルにある「夫を殺害した妻は相続できるのか?」という疑問についてですが、結論からいうと「故意に」「夫を殺し」「刑に処された」場合、その妻には相続権は認められません。
このように、法律の定めによって相続人としての資格を失うことを「相続欠格」といいます。
今回のコラムでは、相続欠格や、相続欠格とされた場合に相続権がどのように扱われるのかについて、事例をふまえて分かりやすく解説します。

夫を殺害した妻は相続できる?結論と判断基準
冒頭でもご説明しましたが「夫を殺害した妻は相続できるのか?」という疑問について、結論からお伝えすると、
- 故意に
- 被相続人である夫を殺害し
- その結果、刑に処せられた場合
これらすべてに該当すると、妻は相続することができません。
これは民法で定められた「相続欠格」という制度によるものです。
ただし、正当防衛とされた場合や、故意に殺害しても刑に処されなかったのであれば、相続欠格とされず、遺産を相続できることになります。
相続できるかどうかは、刑事裁判の判決をふまえ、慎重に判断されます。
相続欠格について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご一読ください。
誰が相続人になれるの?相続人の範囲とは
相続では、民法によって「誰が相続人になるのか」が定められています。これを法定相続人といいます。
まず、配偶者は常に相続人となります。
ただし、離婚している場合や内縁関係にある場合には、法律上の相続権は認められません。
配偶者以外の法定相続人には、次のような順位があります。
| 優先順位 | 血族の種類 |
|---|---|
| 第1順位 | 直系卑属(子、子が亡くなっている場合には孫が代襲相続) |
| 第2順位 | 直系尊属(両親・祖父母) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(甥姪が代襲相続する場合もあります) |
相続欠格のお話をする上で、重要なのは、本来相続人となる立場にある人でも、「相続欠格」に該当すると相続できなくなるという点です。
法定相続人の範囲や相続分について詳しく知りたい方は、こちらのコラムで解説しています。
相続欠格とは?
一定の事情がある場合、法律上「相続人であっても相続できない」とされることがあります。
これを相続欠格といいます。
相続欠格とは、被相続人に対して重大な非行があった者について、相続という利益を受ける資格を失わせる制度です。
相続欠格についての条文は次のとおりです。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
被相続人を殺害した場合はどうなるのか
相続欠格事由の一つに、次のようなものがあります。
故意に被相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
つまり、
- 故意に
- 被相続人を殺害し
- その結果、刑罰を受けた場合
この3つが揃ったとき、その人は相続人であっても相続することができません。
「殺したら必ず相続できない」わけではない点に注意
ここで多くの方が誤解しやすいのが、すべてのケースで相続できなくなるわけではないという点です。
例えば、
- 故意ではなかった場合
- 正当防衛や過失致死と判断された場合
- 故意があっても刑に処せられなかった場合
など、状況によっては相続欠格に該当しないケースもあります。
よくある質問|不起訴・無罪・執行猶予だと相続はどうなる?
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有罪で執行猶予が付いた場合も相続欠格ですか?
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相続欠格になるには、刑に処されている必要があります。
つまり、殺人等の罪により有罪判決が確定している必要があるのです。有罪判決に執行猶予が付いた場合、猶予期間が無事に経過すると、刑の言渡しは効力を失います(刑法27条)。
そのため、学説上は、執行猶予が取り消されることなく猶予期間が満了した場合には、相続欠格事由に該当しない(あるいは欠格の効果が生じない)と解する見解が有力とされています。
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不起訴になった場合は相続欠格になりますか?
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不起訴は有罪確定ではないため、原則として「刑に処せられた」に当たらず、相続欠格には該当しません。ただし、不起訴の理由(嫌疑なし/証拠不十分など)により、遺産分割の場面で争点化することがあります。
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無罪が確定した場合は相続できますか?
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無罪が確定した場合、刑事裁判で殺害が認定されていないため、原則として相続欠格には該当しません。
【具体例】無罪の場合、相続欠格はどう判断される?
ここで、相続欠格の判断を考えるうえで、報道でも注目された紀州のドンファン事件を例にお話ししようと思います。
こちらの事件は、控訴審の判断が注目されている事件として報道されています。
本件では、妻が夫を殺害した疑いで起訴されましたが、一審では無罪判決が言い渡されました。
仮に無罪が確定した場合、刑事裁判で殺害の事実が認定されていないため、「故意に殺害し刑に処された」という相続欠格の要件を満たしません。
よって、もしも無罪が確定した場合、妻は原則として相続人になることができます。
相続欠格の効果|相続権・遺言・遺留分はどうなる?
相続欠格と判断された場合、単に「相続できない」というだけでなく、相続手続き全体に影響が及びます。ここでは、相続欠格となった場合にどのような扱いになるのかをご説明します。
相続欠格になると「最初から相続人でなかった」扱いになる
相続欠格の大きな特徴は、相続開始時にさかのぼって効力が生じる点です。
つまり、
- 相続欠格となった人は
- 「最初から相続人ではなかったもの」
として扱われます。
本人や他の相続人の意思に関係なく、家庭裁判所への申立てなどの手続きを経る必要もありません。
そのため、遺産分割の計算も大きく変わります。
例えば、父・母・長男の家族構成で、長男が父を殺害した場合、長男は父の相続については相続人から外れることになります。
相続財産が1億円である場合、1億円を母と長男で分けることなく、母がすべて相続することになります。(※長男に子どもがいれば、その子どもが父親の遺産を相続する立場になります。これを代襲相続人といい、詳しくは後述します。)
ただし、この効力はあくまで「父親の相続」に限られます。
母が亡くなった場合には、長男は通常どおり第1順位の法定相続人となります。
遺言による財産の取得も認められない
相続欠格となった場合、遺言書によって財産を受け取ることもできません。
仮に被相続人が生前に遺言書を作成し、「欠格者に財産を遺す」と明記していたとしても、その内容は効力を持たず、財産を取得することはできません。
先ほどの事例(父・母・長男の家族構成で、長男が父を殺害した場合)で、もし父が長男に財産をすべて譲るという遺言書を遺していたとしても、長男は父の財産を相続することはできません。
遺留分を主張することもできない
相続欠格者は、遺留分侵害額請求を行うこともできません。
通常であれば、一定の相続人には最低限保障された取り分(遺留分)が認められていますが、相続欠格に該当すると、その権利自体が否定されます。
そのため、相続欠格に該当した人が、遺言の内容に不満があっても、金銭請求をすることはできません。
子どもがいる場合は代襲相続が生じる
相続欠格となった人に子どもがいる場合、その子どもが代わって相続人となるケースがあります。
これは「代襲相続」と呼ばれる仕組みで、相続人が死亡した場合だけでなく、相続欠格や相続廃除(被相続人に対して虐待などをした相続人を家庭裁判所の判断により相続人から外す制度)に該当した場合にも適用されます。
つまり、長男が父親を殺害して相続欠格となった場合でも、長男に子どもがいれば、その子どもが父親の遺産を相続する立場になります。
相続排除についてくわしく知りたい方は、こちらのコラムをご一読ください。
まとめ
今回は、「夫を殺害した妻に相続権はあるのか」について、相続欠格の効果について事例を踏まえて詳しくお話しさせていただきました。
一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、法定相続人の範囲や遺産分割についてのご相談を受け付けております。
相続についてお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
執筆:成田春奈
監修:司法書士NK法務事務所 中嶋英憲 司法書士







