1 「介護をしたのに不公平」と感じる人は多い
急速に高齢化が進む我が国では、多くの人が親の介護の問題に直面しています。
兄弟や姉妹の中で介護をした者としていない者がいる場合、相続でトラブルになるケースが少なくありません。苦労して介護をした相続人としては、自らの介護を相続で考慮してほしいと思うのは当然でしょう。
特定の相続人だけが親の介護をしていた場合、相続分はどのようになるのでしょうか?
2 介護は寄与分として考慮される
このような介護を行った場合などに、法律で決められた相続分をそのままあてはめると不公平になることから、法律は、亡くなった被相続人の財産の維持・形成に特別の寄与(貢献のことです)をした者がいる場合には、この者に対して特別の持分を与えることにしています。この特別の持分のことを「寄与分」と言います。
3 寄与分に含まれる場合と含まれない場合
親の介護をすることで、本来親が支払うべき介護費用の負担を免れた場合には、寄与分として考慮されます。本来であれば外部の者に介護を頼んで支払うはずの介護費用の支払いを免れることができたという点で、親の財産の維持に貢献しているからです。
この寄与分は財産上の影響があるものに限られるので、どれだけ親の世話をして感謝されたとしても、財産上の影響がない場合は寄与分には含まれません。
4 寄与分はどのようにして決められるの?
寄与分は、
(1) 当事者間の協議
(2) 家庭裁判所の調停
(3) 家庭裁判所の審判
の順で手続が進められます。
(1)当事者間の協議
寄与分は、共同相続人間の協議で決定されることとされています。協議によって寄与分の割合や額について合意が成立すれば、その寄与分が認められます。
(2)調停について
協議で合意に至らなかった場合は、家庭裁判所の調停を利用して寄与分を決定することになります。家庭裁判所の調停手続は、家庭裁判所の調停委員が中心となって仲介し、当事者間の合意を成立させるための手続です。
調停委員は、当事者双方の話を聞いて、必要な資料の提出を求めるなどして合意の成立を促します。
この手続は、家庭裁判所に「寄与分を定める処分の調停」を申し立てることによって始まります。
ただ、「寄与分を定める処分の調停」の申し立てだけでは、全体の遺産分割の方法は決まらないので、「遺産分割の調停」を併せて申し立てるのが一般的です。
調停で合意が形成されれば、その合意によって寄与分が定まります。
(3)審判について
調停で寄与分の合意に至らなかった場合には調停は不成立となります。その場合には、家庭裁判所の審判手続で寄与分を決定することになります。
この審判の中で、当事者はあらためて寄与分に関する資料を家庭裁判所に提出して、審判官がその資料に基づいて寄与分を決定します。
寄与分に関する資料としては、診断書、カルテ、要介護認定の認定結果通知書、介護についてのメール、日記などが証拠として提出されます。
この審判手続の間であっても、書いて裁判所では話し合いの機会が設けられ、合意の形成が促されます。双方が合意に達すれば、審判手続中であっても調停が成立して、審判は終了します。
5 寄与分はどうやって算定されるの?
この寄与分はどのように算定されるのでしょうか?
寄与分として認められるためには、単なる寄与では不十分で「特別の寄与」があったと認められる必要があります。親などに対する扶養義務や扶助義務の範囲内の寄与では「特別の寄与」とは認められません。あくまでも、扶養者等として通常期待されている範囲を超える寄与でなければ、「特別の寄与」とは認められません。
子が介護してくれたおかげで介護ヘルパーを利用しなくて済んだといったような財産上の影響がある場合で、扶養義務などを超えるものが「特別の寄与」にあたります。
審判になった場合、具体的な学は審判官が、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額その他の一切の事情を考慮して決めることとされています。そのため、介護によって支出を免れた額が全額寄与分として認められるというわけではありません。
6 まとめ
このように親の介護をしたとしても、それが単なる世話ではなくて、扶養義務の範囲を超えた介護と認められて財産上の影響がある場合でなければ、寄与分として考慮してもらえません。また、介護保険制度が始まったことによって、今では制度的な扶助を受けて外部者の介護を利用できることから、家族の介護による寄与分は認められにくくなっているとも言われています。
このような現状を理解した上で、自らの寄与分を正しく主張していくことが大事です。寄与分は、最終的には遺産分割全体の中で考慮されるものなので専門家の総合的な視点が必要になる場合も少なくありません。自分の介護が寄与分として認められる可能性があるのかわからないときや遺産分割全体の中でどのように扱われるのかを知りたいときは、豊富な相談実績がある当センターにご相談ください。
寄与分や遺産分割について正しく理解することで、無用な争いを避け、安心して相続手続きを行いましょう。