昨今、物価上昇やインフレが叫ばれています。私たちの日々の生活の中でも、物価上昇を肌で感じるようになってきました。
日経株価が高値を記録しているというニュースが続いており、2025年10月31日には史上初めて5万2,000円を突破しました。株価だけではなく、不動産の価格の指標の一つでもある「路線価」も地域差はあるものの上昇傾向にあります。
インフレが進むと、相続税にはどのような影響がでるのでしょうか?

基本的な相続税の試算のおさらい
相続税には「基礎控除」が定められています。基礎控除を超える財産を相続した場合に相続税の対象となります。
相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×相続人の数)で計算されます。
亡くなった方に、配偶者と子供が2名いれば法定相続人が3人となります。
その場合の基礎控除の計算は以下の通りです。
- 3000万円+(600万円×3人)=4,800万円
つまり、配偶者と子供2名が相続人となる場合には、亡くなられた方の財産が4,800万円より多い場合には、定められた税率に応じて相続税がかかる計算となります。
相続税に関する詳細については、こちらのコラムをご参照ください。
インフレが進むと、相続税を支払う人の割合が増える?
相続財産に、不動産や株式などがある場合にはインフレ等の物価上昇の影響を受けやすいため注意が必要です。
例えば、今から約5年前のコロナ過の2020年の10月末に1,000万円相当の株式を所有している場合について考えてみましょう。
2020年の10月末の日経平均株価は、約23,000円でした。
そして、現在は約50,000円を超えていますので、2020年から2025年の増加率は約2.2となります。
2020年に約1,000万円相当だった株式は、現在は約2,200万円まで評価額が上がることが分かります。
不動産がある場合には、国税庁が定めた「路線価」をベースにて評価を行います。
さいたま幸せ相続相談センターのあるさいたま市大宮区では、2020年に発表された路線価は前年比で10%を超える伸び率を記録しています。都心部であれば、更に上昇率は顕著です。
このように、現金ではなく市況により価値が増減するような資産をお持ちの方の場合、財産の評価額が増減する点を考慮する必要があります。
数年前に相続税の試算をして、ご自身には相続税がかからないと安心している方ほど特に注意が必要です。現在のように急激な株価上昇や地価の上昇がある場合には、ご自身の財産の評価額が以前より増えており相続税の「基礎控除額」を超えている可能性が大いにあります。
実際に国税庁発表の「相続税の申告実績の概要」によると、課税割合(その年に亡くなった方のうち相続税を支払う人の割合)は2023年分で9.9%(約10人に1人)と過去最高を更新しています。
2024年度分のデータはまだ公開されていませんが、おそらく10%を超えてくるものと予想されています。
ちなみに、都心3区に居住されている方の場合は、課税割合が20%(5人に1人)を超えています。
居住区より富裕層が多いことも挙げられますが、不動産の評価額が高額であったり、株式の保有率が大きいこともあり相続財産の総額が押し上げられていることが考えられます。
資産の評価額が上昇している一方で、基礎控除額は固定されていることからも、相続税を支払う人の割合は増加傾向にあり、今後も増加傾向と予想されます。
是非、ご自身の財産評価額の確認を定期的に行い事前に相続税について正しく理解し、対策をしていくことをおすすめいたします。
生前贈与について ―暦年贈与―
今後の経済情勢は何とも予測しがたく不確定要素が多いことが前提ですが、仮に今後も株価の上昇、地価の上昇が続いていくと仮定した場合、ご相続財産の評価額は更に増えていくこととなります。
その対策として、価格が上昇する前にお子様やお孫様に「生前贈与」をするという手法があります。価格が高くなる前に、低い価格でご資産を後世に移転することができ相続税の負担を軽減させることができるのがメリットです。
「贈与」には一般的に相続税よりも税率の高い贈与税が課税されるため、本当にメリットがあるのかを慎重に検証する必要があります。
また、暦年贈与で年間110万円までは非課税となるため、早めに少しずつ贈与をしていくことも有効です。
しかしながら、令和6年1月1日以後の贈与から相続前の贈与の相続税への加算期間が従来の3年から7年に延長されたことから、ご高齢の方の場合にはあまりメリットが薄くなってしまう点が懸念点でもあります。
年間の非課税枠が110万円までとされている為、まとまった財産をすぐに移転させたい方には不向きです。
暦年贈与は、長期的に時間をかけて確実に贈与していきたい方向けの制度であると言えます。
相続税に加算する贈与財産は「贈与時点の評価額」で計算するとされているため、株式など今後も上昇していくと想定される場合には現金よりも株式で贈与するという手法は節税観点では有効な対策となり得ます。
インフレ局面で有効な生前対策の一つ ―相続時精算課税制度―
前述の通り暦年贈与の場合には、7年間の贈与が相続財産に持ち戻されてしまうため、ご高齢の方の場合あまり効果が薄い可能性が高いです。
そこで有効となるのが、「相続税精算課税制度」というしくみです。2024年に税制改正があり、相続時精算課税制度がより使いやすくなりました。
お子様やお孫様などに財産を生前に贈与する場合に2,500万円の特別控除があり、2,500円までは贈与税を納めずに贈与することができます。
1年間の贈与額から、基礎控除(110万円)を控除し、贈与者ごとの累積贈与額の累計が2,500万円までの贈与については、贈与税が非課税となり、代わりに贈与者が亡くなった際に、その贈与した財産の価格を相続財産の価格に加えて相続税を算出した上で、相続時に精算をする制度となります。
生前に累積で2,500万円を超える贈与があった場合には一律で20%の贈与税を支払うこととなります。
この場合も贈与した財産を相続財産に加えて相続税を算出し、納付済みの贈与税額が実際にかかる相続税より少ない場合には、差額が還付され、多い場合にはすでに納付した贈与税を相続税に充当し、差額を支払うこととなります。
相続時精算課税制度を利用する場合には、いくつかの要件や手続きが必要となりますが、大きな金額をまとめて生前に贈与したい場合には非常に有効です。
例えば、生前に3000万円を贈与した場合、通常贈与税の税率は50%となり税負担が大きくなりますが、相続時精算課税制度を利用すれば、基礎控除の100万円(1年毎に100万円)+2,500万円(累積で2,500万円)までは非課税となり、残りの400万円に対して一律で20%の贈与税の負担のみですみます。
特に、収益不動産のような毎月家賃収入を生むようなご資産の場合、早期に不動産をお子様に贈与することで、毎月の家賃収入自体もお子様が受け取ることになる為、節税効果が高いと言えます。
また、不動産の価格が上昇トレンドであれば、価格が低いうちに贈与することもメリットと言えます。
一方で気を付けたいのは、相続時精算課税制度を利用した場合、相続税の計算を行う際には贈与時の時価を基準とします。
仮に不動産の価格が暴落した場合でも、贈与を行ったタイミングの評価額で算定されるため、通常よりも相続税が高くなってしまうリスクがあることにも注意が必要です。
また、相続時精算課税制度を利用して不動産を生前贈与する場合、通常の相続ではかからない不動産取得税の負担が発生したり、登録免許税の税額が高くなったりなど一部税負担が発生します。これらを相対的に考慮し、相続時精算課税制度を利用するメリットとデメリットを比較検討いただくことが重要です。
まとめ
相続税対策の一つとして、生前にできる贈与についてご紹介しました。
相続税対策としては、比較的手間のかからない方法となりますので、早めのタイミングで検討し、計画的に実施をしていくと相続税をなるべくかからない形で将来に向けて財産を移転することが可能です。
現在は国の政策としても「貯蓄から投資へ」流れが加速しています。
ご自身の資産額が思いもよらないうちに増大していたり、相続税がかからないと思っていたが土地の価格が高騰して相続税の対象となっていたなども起こり得ます。
ご資産について、定期的な見直しをされることと合わせて、計画的な相続税対策を考えていただくことが今後は重要となります。
一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、相続税申告についてのご相談を受け付けております。
お気軽にお問い合わせください。
執筆:相続コンサルタント 馬渕 かなみ
監修:高田江身子税理士事務所 高田江身子 税理士





