皆さんこんにちは
相続コンサルタントの久保田です。
今回のコラムはいつもと違い、定期的に開催している勉強会の様子をお伝えしたいと思います。

私のような相続コンサルタントは、弁護士・税理士・司法書士といった専門士業ではないので、各種士業の先生方が代理できる交渉・税務申告・登記といった業務を直接行えないのですが、相続相談の中でご相談者様と一番お話する機会が多い立場として、実際に士業の先生方がどのような業務を行い、どのような対応や考え方をするかを把握しておく必要があると考えています。
そこで、いつも一緒に相続問題を解決していただいている士業の先生方に相続に関する勉強会を開いていただき、ケーススタディやディスカッションで相続の問題解決に必要な勉強をしています。
9月の勉強会は、CLOVER法律事務所 中島弁護士、大谷法律事務所 大谷弁護士、新橋共同法律事務所 坪内弁護士、税理士法人ブライト相続 戸﨑税理士とともに、相続で問題となりやすい「使途不明金」を中心にケーススタディとディスカッションを行いました。
「使途不明金」は、相続人の内のどなたかが、被相続人の口座を管理している際に問題となりやすく、口座を管理していない相続人からすると、被相続人のために使われた金員なのか、被相続人以外のために使われた金員なのかがわかりにくいので、遺産分割協議や遺留分侵害額請求といった相続財産の範囲の特定が必要な様々なタイミングで相続人間での紛争の火種になりやすいものです。
例えば、お子様のうちお一人がご両親と同居している場合は、お子様家族の生活費もご両親が負担することもあり、同居していないお子様からすると家もある・生活費も負担してもらえるように見えるため不公平感を覚えることもあります。
この点は将来的なご両親の介護を同居のお子様が担うことで不公平感は和らぐのですが、いざ相続が発生した後に相続財産を確認した際にご両親の預金額が極端に少ない状況だと、今回の勉強会のメイントピックの「使途不明金」の問題に発展します。
結論から申し上げてしまうと、この「使途不明金」は相続発生後は資料を基にした対処しかできないことも多く、どのような決着になったとしても「使途不明金」がきっかけで兄弟姉妹の関係が断絶してしまうことがあります。
「使途不明金」はいずれも証拠が出てこないことも多く、口座を管理していないお子様は、一度疑いを持ってしまうといくら口頭で説明されても疑念は晴れず、弁護士や裁判所を通じて一応の解決をしても一生疑念が晴れることはないのかもしれません。
実際に争うことになるタイミングでは、直接のやり取りができないことが多く、ほとんどの方が弁護士に交渉や調停・訴訟の代理を依頼することになると思いますが、やはり弁護士を立ててのやり取りとなると、お子様方の敵対関係が明確になり、問題が解決した後に元の関係性に戻るのは稀なケースだと思います。
一度そのような状況になってしまうとお子様方の関係性修復は難しく、そもそも双方が納得の行く結果になることも少ないので、「使途不明金」で疑念が起こらないように対策をしておくことが重要だと思います。
具体的な対策としては、財産管理契約や民事信託(家族信託)といった制度を利用することで、口座を管理しないお子様に対しても管理状況を明確にすることを義務付けることができます。
財産管理契約は、意思判断能力に問題がない状態で、信頼できる方にご自身の財産管理を行ってもらうようにする契約で、体調によってご自身で金融機関に行くことが難しくなった際に活用しやすい制度です。
似たような制度で任意後見契約がありますが、こちらは意思判断能力が低下した際に有効になる契約なので、財産管理契約と同時に任意後見契約を締結する方が多いと思います。
ただ、任意後見契約と違い、財産管理契約は登記がされないため、金融機関に正式な契約として認めてもらえないこともありますので、財産管理契約をご検討の際は、ご利用中の金融機関に財産管理契約が有効になるかをご確認いただくことをお勧めします。
また、民事信託は、信託契約書を公正証書で作成し、不動産は受託者へ名義変更を行い、預貯金は受託者名義の信託口座を作成するため、金融機関等の第三者に対して信頼感を持たせられる制度になっています。
自由な設計ができるものの、すべてオーダーメイドで作成する契約のため費用が高額になることがネックとなりますが、アパート等をお持ちの方であれば、賃貸経営も任せられるようになるので、ご資産状況によっては財産管理契約より、民事信託をお勧めすることもあります。
いずれの制度もご自身の財産管理を信頼できる方に任せるための制度で、どちらにも監督人を設定することや、定期的な収支報告を義務付けられるので、相続が発生してしまった後に「使途不明金」でお子様方が疑念を持つことを抑制できると思います。
今回の勉強会でも、状況に応じた「使途不明金」への法律や税務を駆使した対策案はいくつか出てきたものの、いずれも根本的な解決策にはなりにくく、金銭面の解決ができたとしても、お子様方の感情面の解決にはならないものが多い印象でした。
お子様方当事者は納得していても、その配偶者が納得しないことで関係性が悪化してしまうこともありますし、相続が発生したタイミングのお子様方の経済状況によっては、少しでも自身が相続できる金額を増やしたいと考えるようになることも理解できます。
よほどのご事情がない限り、相続によってお子様方の関係性が悪化することを望む方はほとんどいらっしゃらないと思いますので、ご自身が亡くなった後にご家族で揉めてしまうことがないような対策をご検討いただくことをお勧めします。