「とりあえず、通帳とか権利書とか、全部まとめて押入れの奥にしまってあるから!」
親から実家の相続についてそう言われた経験、ありませんか?
いざ中を見てみたら、昔の通帳がゴロゴロ出てきたり、どの保険がまだ有効なのか分からなかったり、印鑑もごちゃ混ぜ…。親に詳しく聞いても「ちゃんとやってあるから大丈夫」と、はぐらかされてしまい、実はご本人も財産の全体像を把握していない、なんてことも少なくありません。
お盆の季節になり、ご家族や親戚と久しぶりに顔を合わせる方もいらっしゃるでしょう。親御さんの将来を考えると、老後の生活資金の計画や相続について話しておきたいと思っている方は多いはずです。実際、当センターへご相談にいらっしゃるお客様も、お子様に促されて生前の相談にいらっしゃる方が半数を占めます。しかしながら、私たちのような相続相談の窓口まで足を運び、具体的な対策を検討される方は残念ながら、まだまだ少数派なのが実情です。

なぜ、私たちは相続について話したがらないのでしょうか?
「まだ先の話だ」「うちの家族にかぎって揉めることはない」「なんだか縁起でもない…」
相続という言葉が、私たちにとって「死」という、どこか語られにくいテーマと密接に絡んでいるからかもしれません。また、親の財産について話すことに、ためらいを感じるお気持ちもあるかと思います。
相続は決して「終わり」の話ではありません。相続について考えることは、ご自身が家族とどのような老後を迎えたいのかを考えることでもあり、未来の家族の幸せを願う大切な「未来への対話」だと私は信じています。
お盆などで親戚と顔を合わせる機会が増えるこの時期は、まさに、この「未来への対話」を始める絶好の機会です。「未来への対話」の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


ステップ1:現状把握から始めよう!「財産」と「負債」を見える化する

相続対策の第一歩は、ご自身の財産と負債を正確に把握することです。漠然と「これくらいあるはず」と考えているだけでは、いざという時に家族が混乱したり、スムーズな手続きを妨げたりする原因になりかねません。また最近は、ネットバンキングやネット証券の普及により、ご本人以外が口座の存在自体を把握していないことが増え、万が一の時に家族が調査する手がかりもなく途方に暮れてしまう、なんてこともあります。

具体的にすること

まずは、以下の項目をリストアップしてみましょう。これは、相続税の計算の基礎になるだけでなく、「何がどこにあるか」を家族(あるいは、あなたに万が一のことがあった時に頼れる人)が把握するためにも非常に重要です。市販のエンディングノートなどを活用することもいいですね。これらを整理しておくことで、いざという時にスムーズに対応できます。

財産リストの作成
  • 不動産: 土地、建物(自宅、貸家、マンションなど)の所在地、種類、広さ、固定資産税評価額などをまとめます。登記簿謄本や固定資産税課税明細書を用意しましょう。
  • 預貯金: 銀行名、支店名、口座番号、おおよその残高をリストアップ。普段使っていない休眠口座なども確認しておくと安心です。
  • 有価証券: 株式、投資信託、債券などの種類、銘柄、口数、評価額を把握します。
  • 生命保険: 保険会社名、証券番号、受取人、死亡保険金を確認。加入時期によって内容が異なる場合があるので注意が必要です。
  • その他: 自動車、ゴルフ会員権、骨董品、貴金属など、価値のあるものもリストに加えます。特に、SNSのアカウントやネット銀行のパスワードなど、「デジタル遺品」の整理も忘れてはなりません。
負債リストの作成
  • 借入金: 住宅ローン、自動車ローン、カードローンなど、金融機関名、残高をまとめます。連帯保証人になっている場合なども確認が必要です。
  • 未払金: 医療費、税金、公共料金など、支払いが発生しているもの。
ここがポイント!

「財産リストなんて、そんなに細かく書かなくてもいいんじゃない?」そう思われるかもしれません。しかし、実は「ざっくり」が一番危険です。相続が始まってから、家族が知らなかった口座や保険が見つかり、手続きが複雑になったり、相続人の間で不公平感が生じたり…というケースは少なくありません。まずはしっかりと現状を把握することが重要です。
老後のための資金がしっかりあるのか、万が一介護が必要になってしまった際の備えは十分かといった現状の把握は不可欠です。万が一の際には、この不動産を売却しようといったように、家族で共通の認識をもっておくこともできます。

「うちなんて全然蓄えはありませんよ」なんて謙遜される方が多い世代だからか、お子さんたちが「こんなに資産があったなんて!」と驚かれるケースも珍しくありません。そして、想定以上に高額な相続税を支払うことになり、もっと早くから対策をしておくべきだったと後悔される方もいらっしゃいます。知らない別荘があったり、遠い親族からの相続で知らない不動産の持ち分を一部持っていたといったことが判明することもあるのです。


ステップ2:大切な人たちと「本音」で話す!「未来への対話」のススメ

相続は、財産の話だけではありません。それは、家族一人ひとりが持つ「人生観」や「価値観」、そして「未来への願い」を分かち合う、究極の対話の場です。肩の力を抜いて、家族と「もしもの時」だけでなく、「これからの暮らし」について話し合ってみてはいかがでしょうか?

具体的にすること

  • 「もしも」の話をしてみる
  • 「もし自分に何かあったら、この家どうしたい?」
  • 「〇〇(財産)は、誰に引き継いでもらいたい?」
  • 「介護が必要になったらどんな風に過ごしたい?」

といった、漠然とした質問から始めてみることをおすすめいたします。いきなり遺産分割の話をするのではなく、「今後の暮らし」や「家族の将来」といったポジティブなテーマから入ると、会話がスムーズに進みやすいです。

家族の意向を聞く できれば当事者である家族みんながオープンに話せる状況だと、なお良いです。
  • 「将来、どんな生活を送りたい?(生活の拠点や生活のスタイル、価値観など)」
  • 「実家をどうしていきたいか?」

など、家族それぞれの希望や考えを聞いてみましょう。そして、なぜそのようにしたいのか、考えの根底にある気持ちを聞いてみましょう。
お子さんたちのことを思って考えていた親御さんのイメージと、お子さんたちが実際に希望している考えが、ズレているなんてことも、多数のお客様のサポートをしている中でよく見かけます。親と子であっても、世代による価値観の違いや考え方の違いがあるのは当然のことです。だからこそ、お互いの考えを早いうちから共有しておく作業はとても重要です。

ここがポイント!

「家族と相続の話を持ち出すのは、なんだか気が引ける…」そう考える方は少なくありません。皆さん同じ悩みを抱えていらっしゃいます。だからこそ、元気なうちに少しずつどのようにしたいかといった未来のイメージを共有しておくことが大切です。高齢になると考えるのも億劫になり、「うちは揉めることなんてないからきっと大丈夫」なんて楽観的に捉えてしまいがちです。しかし、急なご病気や認知症になってからでは手遅れになることも。


ステップ3:漠然とした不安を解消!「相続の基礎知識」を学ぶ

テレビやネットで相続に関する情報を見聞きしても、「結局何が重要なのか分からない」と感じる方もいるでしょう。まずは、ご自身に必要な情報に絞って、基礎知識を身につけることから始めましょう。難しい専門書を読み込む必要はありません。信頼できるウェブサイトや、分かりやすく解説された書籍などから、ご自身に最低限必要な情報を取り入れてみることをおすすめします。 昨今では、インターネットで簡単に情報収集ができるようになりました。相続専門の士業などがYouTubeなどの動画で分かりやすく解説してくれているものなどもございます。
耳慣れない専門用語などが出てくることもあるかと思いますが、簡単な基礎知識を勉強していただくと安心です。そして、勉強した知識をご家族との会話のきっかけとすることもおすすめです。常日頃から、当たり前のように相続についてのことをご家族内でお話できる環境があると、相続の手続きも大変スムーズとなります。 ご相続は本当にご家族のチームプレイで乗り越える課題と言えます。日頃から相続をご家族共通の課題として捉え、コミュニケーションを円滑に図っているご家族は、やはり万が一の際にも慌てず、そして揉めることもなく手続きを進めていらっしゃる印象がございます。

ここがポイント!

これらの基礎知識があるだけで、漠然とした不安が具体的な対策へと変わり、専門家との相談もスムーズに進みます。


ステップ4:あなたの『想い』を形に!専門家専門家に相談してみる

もし家族会議で「専門家に相談してみようか」という話が出たり、考えていて不安になったりしたら、その時こそがチャンスです。
専門家を交えることで、イメージしている相続の形を実現させるための具体的なアクションプランを一緒に検討することが可能です。また、専門家を交えることで、感情的にならずに冷静に話し合えるということもあります。
これまで意識的に学び、「こんな方法がいいかな?」と描いてきたことを、専門家に相談してみると専門家の視点でのアドバイスをもとに、実現可能性を高めていくことが可能です。

ここがポイント!

専門家への相談は、決して「敷居が高いもの」ではありません。
ご家族の心強い味方となってくれ、なんでも気軽に相談できる信頼できるパートナーを見つけることが大切です。


相続対策は、未来への「思いやり」

相続は、決して「死」と向き合うだけの重い話ではありません。 本来は未来へつなぐ大切な行為です。しかしながら、死を連想させる相続について話すことが、タブーとなってしまうような状況は変えていかないといけないと日々感じております。
相続についてお話することが、家族の会話のきっかけに、より絆を深める最後のチームプレイとしてポジティブにとらええてもらえるようになればいいなと思います。

ここでご紹介した4つのステップ。少し面倒と思うかもしれませんが、今進めることで万が一の際には自分自身とご家族を助けることにつながりますので、未来への投資と思い、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

※相続・終活について考えるにあたって、当センター代表とコンサルタントの共著にもより詳しくお手続きの内容をご紹介しております。
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